小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

言葉と図と操作をつなぎ,図形についての感覚を豊かにするための算数的活動と指導の工夫
――3年「三角形」の指導を通して――

3年 福井市和田小学校 浅田 小夜子

1.はじめに

どの教科においても,学習場面での言語活動を充実し,自分の考えを説明する力を育成することが必要とされている。図形の学習では,学習内容を視覚的に捉えることができるが,図形の性質や作図,操作の過程などを言葉で表現することが難しいことから,いろいろな教材のよさを生かした算数的活動を工夫し,言葉と図と操作の過程を関連付けることにより、図形の見方や考え方を深めるとともに,他の図形単元の学習に転化する力を育てることができるという仮説を立てて実践を進めた。

2.実践内容

視点1 単元のめあてを明確にし,思考の流れを生かした単元構成の工夫

(1) 単元のめあてを明確にする課題の設定

単元全体を通して「三角形はかせになろう」という課題を設定し,下のように本単元の学習内容を3つのめあてとして明記した。振り返りカードには「三角形はかせになるためのわざは?」の項目を加え,その時間のめあてを意識しながら,学習内容を確実に理解できるようにした。

(2) 三角形の弁別を通した単元構成の工夫

児童がジョイントバーで三角形をつくり,できた三角形を仲間分けした。そして,それぞれに~のなかま~でないなかま と名前を付けた。その仲間分けの観点によりグループ化し,検証したり再試行したりした。そこで,

三角形づくり→仲間分け→仲間分けのグループ化→仲間分けの検証
→概念や定義,性質の確認→作図→三角形の敷き詰め

の流れで,児童の思考過程や話し合いの流れを重視して単元を構成した。

視点2 構成要素に着目し図形の見方を豊かにする教材と算数的活動の工夫

(1) 図形の構成要素に着目したり美しさを体験したりできる教材の工夫

指導内容とそれぞれの教材の特性を生かした算数的活動を設定した。

教材 方眼ジオボード
時計形ジオボード
ポリドロン
ジョイントバー
構成
できる
三角形
正三角形以外の
三角形
全種類の三角形 直角二等辺三角形
正三角形
全種類の三角形
適している
学習
図形の構成・分解
辺の長さや角の大きさ比較
図の正確さ・美しさ
図形の構成・分解
辺の長さ比較
図の正確さ・美しさ
敷き詰め 図形の構成・分解
辺の長さや角の大きさ比較
作図との関連
敷き詰め
図の正確さ・美しさ
教材 パターンブロック
色板(プラスチック・紙)
分数キット
格子点・方眼紙
構成
できる
三角形
正三角形
(正方形,ひし形,台形)
正三角形
直角二等辺三角形
(正方形,正五角形)
正三角形
直角三角形
正三角形以外の
三角形
特性 敷き詰め
辺の長さや角の大きさ比較
図の正確さ・美しさ
敷き詰め
辺の長さや角の大きさ比較
図の正確さ・美しさ
敷き詰め
辺の長さや角の大きさ比較
図の正確さ・美しさ
図形の構成・分解
辺の長さや角の大きさ比較
図の正確さ・美しさ

(2) 教材と作図を関連付けるための工夫

ジョイントバーによる三角形の構成とコンパスの動きを関連付けたことにより,作図の道具としてのコンパスの意味を具体的に理解できた。

視点3 図形の性質や操作の手順,理由を明確にするための表現の工夫

(1) 図形を明確にする言葉の提示

図形の学習では視覚的に捉えられる反面,言葉による表現が難しい場合もある。そこで三角形の定義について,学習内容の進度に応じて毎授業の始めに暗唱し,三角形の弁別や性質調べ,作図などで確実に覚えて使えるようにした。

(2) 操作の手順や理由を明確にする言葉の表現

コンパスを用いた作図の仕方や図形の調べ方を合い言葉のように言いながら操作する。

自分の考えや手立て,結果などを説明するときには,その理由を「~だから,~です。」の表現パターンを使って表現させた。「3つの辺の長さが同じなので正三角形」「重ねるとぴったり重なるので,かどの大きさが同じ」などの表現を定着させていった。

3.指導計画(8時間配当)





4.考察

(1) ジョイントバーによる三角形の構成と仲間分けについて(一次1時)

6色72本のジョイントバーによる三角形の構成では,2人一組でいろいろな種類の三角形を簡単につくることができた。

学年全体
47組
つくった三角形の個数 仲間分けの観点
8~10個 11~15個 16~20個 21~24個 直角三角形 3本の棒が
同じ色
2本の棒が
同じ色
その他
%(47組中) 8.5 23.5 34 34 42.6 31.9 10.6 14.9

また,児童の振り返り表から,学年全員の児童が「とても楽しかった,楽しかった」,99.0%が「しっかり考えた,考えた」と答えた。「しっかり考えたか?」を と答えた児童1%(1名)も,感想では「とても楽しかった」と書いている。自分の考えはもてなかったが,相手の友達の考えた仲間分けが納得できて,しかも,その相談が楽しかったのだろうと推測している。仲間分けは初めての学習内容のため,難しいと感じた児童がいた。たくさんの三角形をつくればつくるほど,構成要素が複雑になり,仲間分けの観点が決めにくくなる。そのため,既習の直角三角形で仲間分けをする2人組が多くなったと思われる。

(2) 正三角形の秘密について(二次3時)

ジョイントバーでつくったたくさんの三角形の中で,3本の棒の色が同じ三角形は大変目にとまり,特徴もはっきりしている。性質調べでは,次のようなことを見付けた。しかし,角の大きさに気付いた児童は95名中3.2%(3名)だった。次時の二等辺三角形の学習でも,紙を重ねる活動を多く設定して,角の概念の素地学習になるように指導した。

見付けた正三角形の秘密 半分に折ると 3回折ると正三角形 真ん中に集めて折ると六角形 かどの大きさが同じ 直角がない
直角三角形 どこで折っても直角三角形 三角定規の片方と同じ
%(95名中) 97.9 8.4 10.2 16.8 6.3 3.2 1.1

(3) 時計形ジオボードによる三角形の構成について(三次7時)

2人一組になって,時計形ジオボードで三角形を構成し,学習内容の確認とまとめをした。全部の2人組が直角三角形をつくっているが,一般の三角形をつくった2人組が49ペア中8ペアであった。指導していく過程で,辺の長さや角の相等などの構成要素を常に意識していたためか,一般の三角形に対する意識が低くなったと思われる。

(4) 三角形の敷き詰めと教材について(三次8時)

敷き詰めをする場合に合同な三角形を相当数必要であり,操作が簡単でしかも出来上がりが正確で美しいことから,パターンブロックと色板,分数キット,ジョイントバー,ポリドロンを使って敷き詰めていった。そして,右のように敷き詰める時の着目点とこつを見付けることができた。

  • 同じ長さの辺を合わせる
  • まず棒状に並べてから,それを合わせる