本校算数部では,数学的な考え方のうち,「児童が実際の授業において問題解決に活用でき,単元又は学年(場合によっては領域)をまたいで同系統の学習を貫く考え方」を,問題解決の「軸となる考え方」として研究を進めている。本実践では発展的に考えることで生まれた問いの解決に軸となる考え方がどのように活用されているかを追究することとした。
本実践での軸となる考え方は,辺の長さや角の大きさ,中心からもとの図形の頂点までの長さなどに着目して,拡大図・縮図の頂点の位置を決めようとする「位置を表したり決めたりする考え方」である。発展的に考える活動として,拡大図の中心の位置について発展的に考えさせ,その中心に対応する拡大図の作図方法を考えていくという活動を行った。
本実践は,第6学年の「図形の拡大と縮小」の学習である。児童は,拡大図・縮図を作図する方法として,1つの頂点を中心とした作図方法について学習する。このとき児童は,中心は頂点にあり,頂点に集まる辺や対角線の長さに着目することで拡大図は作図できると理解している。本実践では,そこで終わりとせずに,さらに中心の位置について児童に発展的に考えさせる。発展的に考えようとする児童は,頂点以外に中心があるときでも拡大図は作図できるのではないかと考えるだろう。そこで,頂点以外に中心があるときの拡大図の作図方法について考えさせる。その結果,児童は中心から各頂点までの長さに着目することで拡大図を作図していると捉えなおすとともに,中心がどこにあっても拡大図は作図できると理解することができるのではないかと考えた。
ここでは,「図形の拡大と縮小」の中の,「1点を中心とした拡大図・縮図の作図」に関する取り組みについて述べる。
本実践では,児童が中心の位置について発展的に考え,1点を中心とした拡大図・縮図の作図方法について捉えなおしができるよう,次のような手立てを講じる。
もとの図形の2つの頂点を中心とする2つの拡大図の間に,もう1つ拡大図を提示する(資料1参照)。そして,その拡大図の中心の位置について考えさせることで頂点以外の辺上に中心がある場合でも拡大図は作図できると理解する。このように頂点以外に中心があってもよいと考えさせることが,発展的に考えさせるための視点を与えるということである。
辺上を移動する中心とともに拡大図も移動する映像を提示する(資料2参照)。そして,中心の位置についてもう一度考えさせる。発展的に考えようとする児童は,辺上以外に中心があるときでも拡大図は作図できるのではないかと考えるだろう。
頂点に中心があるとき,辺上に中心があるとき,辺上以外に中心があるときの拡大図の作図方法について,共通していることは何かという観点で振り返らせる(資料3参照)。その結果,中心の位置に関係なく中心から各頂点までの長さに着目し,その長さを2倍することで拡大図を作図しているという共通点について理解していく。
1つの頂点を中心として拡大図・縮図を作図する学習を行った。児童は,この作図方法で三角形・四角形・五角形などいろいろな多角形の作図ができることを理解した。また,すべての頂点を中心として拡大図を作図できるということも全体で確認した。この学習を通して,頂点に集まる辺や対角線の長さに着目することで拡大図・縮図は作図できると理解した(資料4参照)。
2つの頂点を中心とする拡大図の間に拡大図を作図した児童のノートを提示した(資料5参照)。中心の位置について考え合う中で,辺上に中心があるということになり,辺上に中心があるときの拡大図の作図方法について考え合った(資料6参照)。その結果,辺上に中心がある場合,中心から頂点までの長さに着目することで,拡大図を作図することができると理解した(資料7参照)。
資料5 |
資料6 |
資料7 |
辺上を移動する中心とともに拡大図も移動する映像を提示した。児童は,もとの図形の内部・外部に中心があっても拡大図は作図できるのではないかと発展的に考え,それぞれの作図方法について考え合った(資料8参照)。その後,中心が頂点,辺上,もとの図形の内部・外部にあるときの作図方法の共通点について振り返りを行い,中心から頂点までの長さに着目して作図しているということ,どこに中心があっても拡大図は作図できるということを確認した。
拡大図・縮図の作図の学習の最後として,自ら課題を見つけ作図を行うという活動を行った。児童は発展的に考え,位置を表したり決めたりする考え方を活用して,いろいろな課題に取り組んでいった(資料9参照)。
資料9 中心の位置を変えながらいろいろな図形で拡大図・縮図を作図する児童のノート
本実践では,頂点以外を中心として拡大図・縮図の作図を行った。具体的には,頂点に中心があるとき,辺上に中心があるとき,頂点や辺上以外に中心があるときの拡大図・縮図の作図方法について考えていった。その結果,拡大図・縮図の作図方法が多様になり,中心の位置に関係なく中心から各頂点までの長さに着目すれば拡大図・縮図を作図できると理解することができた。
この学習を行う中で児童は,中心に集まる辺や対角線の長さや,中心から図形の頂点までの距離と方向に着目して,拡大図・縮図の頂点の位置を決めようとする「位置を表したり決めたりする考え方」を理解し,主体的に活用ができたのではないかと考えている。