現在,「学び合い」が多くの学校研究のキーワードとなっているが,子供同士で学び合うことは,単に考えを伝え合うということだけではなく,学び合うことで考えのよさを実感し,学習意欲を高め,学力を向上させることが重要である。そこで,グループで話し合い,疑問やアイディアを出し合って,協力して問題を解いていくという学び合い(協同的な学び)を取り入れてきた。このような学び合いのある算数授業では,一人一人が自分の考えや疑問を伝え合うことで,相手にわかりやすく説明しようという意欲が高まり,学力を向上させることができる。この協同的な学びのよさを取り入れて,日常の授業実践を行ってきた。
グループで話し合う場面では,少数ではあるが,自分の考えを持たず常に友達の考えを聞くことを優先させてしまいがちな子供がいる。今回の実践では,一人一人が自分の考えをもってグループで話し合わせるために,短時間ではあるが自分なりの考えをもてる時間を設定して進めてみた。
(1)単元名 場合の数
(2)本時の指導(4/8時間)※「組み合わせ」の第1時目
(3)学習の展開
①既習をもとにして気づきを出し合う。
A,B,C,Dの4チームでドッジボールの試合をします。どのチームとも1回ずつ試合をすることにすると,試合の組み合わせは何通りになるでしょう。
C 今までの学習と違うところは,順番が関係ないところだと思います。
C 樹形図で,A対BとB対Aは別にしたけど,同じことと考えます。
②気づきから学習課題を見出し,グループで相談しながら見通しを持つ。
T 落ちや重なりなく調べるにはどうすればよいですか。
C 順序よく数えるには,樹形図を使えばいいと思います。
C 対戦するペアを並べていけばいいと思います。
C 表を使って考えたいです。
T 表はどんな表になりますか。
C 体育でドッジボールをやった時の表を使えばいいと思います。
T ではみんなでその表のかき方を考えてみよう。(途中まで表を板書する)
③グループで学び合う。(ホワイトボードで考え方を説明する)
※グループ学習の前に,5分間の自力解決を行うというのが本授業での試み。自分の考えを持たせてからグループで話し合いをさせた。
④全体で学び合う。(ホワイトボードを黒板に考え方に分けて掲示させる。)
T 気付いたことはありませんか。
C 表で考えたチームが一番多いです。でも,重なりがあるから全部は数えません。
C チームE(写真上段右端)は,今まで学習した樹形図を使っています。
C 樹形図でも,今までと違って重なりを書かない図になっています。
C チームCは,重なりがあるので2で割っています。
C チームFは,樹形図ではありません。
C (チームFの児童)これは,それぞれの直線が対戦の数になります。
樹形図をかいていて思いつきました。
全員 すごい!(思いついた子供の名前を使って,○○法と名付けた)
C チームDは,図と計算で考えました。1チームが3試合するから,全部で12。でも,それぞれが重なっているから2で割ります。
⑤数値や条件を変えて自力解決する。
全員が自力解決することができた。
・見通しのあとで,グループで自分の考えを伝えられるようにするために,数分間であったが自力解決させた。短時間(5分間)にしては,ほとんど全員が自分なりの方法で解くことができた。しかし,どの授業でも短時間で自力解決できるとは限らないので,考えや疑問を持たせる時間としてとらえ,グループ学習に生かしていく。
・グループ学習では,一人一人が自分の考えをもって臨んでいるので,ノートを見せながら説明し合う姿が見られ,活発な話し合いになっていた。さらに,どのやり方が速くて簡単な方法なのかを検討する場面が見られた。
・全体の学び合いでは,ホワイトボードを同じ考え同士で並べるなど,自ら分類することで,共通点と相違点が浮き彫りになった。全員を黒板の前に座らせ,分類したホワイトボードを見せながら,疑問や気付きを言わせることで,主体的な学び合いにすることができた。
・主問題2では,4チームを5チームにした時の試合数を問題にしたが,自分で理解できたやり方を使って,一人一人が容易に問題を解くことができた。
問題解決型の学習「自力解決,全体解決」という従来の学習スタイルから,「グループ解決,全体解決,自力解決」という学び合い(協同的な学び)を取り入れることで,協力して問題を解こうという姿が見られるようになった。問題解決型の学習では,見通しを持たせた後,すぐに自力解決させるが,見通しを持てない,または問題の意味を把握できないでいる子供が必ずいる。教師のヒントをひたすら待つ子供からは,算数への意欲や学力の向上は望めない。苦手意識を助長してしまうこともあるだろう。
しかし,「協同的な学び」を取り入れた学び合いの授業を実践していくと,疑問を自由に質問したり,一人一人が考えを伝えたりしながら,互いに考えを交流し合い,主体的に理解しようという意識が高まる。友達の考えをつないでいこうという習慣が身に付くことで,算数の学び方がわかり,苦手な子供は算数が好きになり,得意な子供はさらにわかりやすい説明をしたがるようになるなどの意欲が高まってきた。
さらに,学び合いでは,教えてもらう場面も多く,「○○さんに聞いてわかった。」という意識が高まり,互いに学び合うことのよさを実感するようになる。そうすると,互いに助け合うという気持ちが芽生え,関わり合うことのよさや友達のよさを感じることができるようになる。クラスの子供同士の人間関係がとてもよくなり,クラスの結びつきが強くなっていく。子供一人一人が意欲的に学び合うことで,みんなで伸びようというよい雰囲気が生まれ,子供たちがどんどん変わっていくことが実感できるようになった。今回の実践では,短時間ではあるが自力解決の場を設けることにより,一人一人が自分なりの考えをもって話し合うことで,さらにグループや全体での学び合いが活発になってきた。
このような学び合いの授業を実践していくと,疑問を自由に質問したり,考えを伝えたりしながら,互いに考えを交流し合い主体的に理解しようという意識が高まってくる。友達の考えをつないでいこうという習慣が身に付くことで,算数の学び方がわかり,意欲がさらに向上していき,子供もクラスも変わっていく姿が実感できる。今後も,思考力・表現力を身に付け,学力を向上させる学び合いを展開していきたい。
協同学習は,まさに人間力を育てる教育であり,グループで相談したり話し合ったりすることは,思いやりの心,仲間を尊重する心を育てます。協同学習を行うのは,仲間とつながりみんなが幸せになることを目指しているからです。
横浜国立大学 石田淳一教授
<参考文献>
『聴く・考える・つなぐ力を育てる「学び合い」の質を高める算数授業』
『子どももクラスも変わる!「学び合い」のある算数授業』
共に明治図書;石田淳一(横浜国立大学教授)・神田恵子 著
山形県算数学び合い研究会ブログ
http://vaio0819.blogspot.jp/