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算数

挑戦!!~目的意識をもたせた5年 輪投げの実践~

5年 兵庫県三木市立緑が丘小学校 牛島 敏雄

学年:5年下(pp.86-87)
単元:『考えを広げよう,深めよう 輪投げ』

1.単元解釈

この単元は,解として考えられる結果を,条件等によって整理し,絞っていく「論理的思考力の育成」をねらった単元である。

輪投げの活動を通して,順位や誰がどこに入ったかなどを考えていく。しかし,ただ闇雲に数値や順位を入れていくのではなく,ヒントを手がかりに,焦点を絞ったり,条件を整理したりすることで,より効率的に解決することができる。そのヒントが,教科書にはふきだしの形で書かれている。

「あきらさんが正しいとすれば・・・」「さとしさんのヒントと絵を照らし合わせると・・・」など,論理的に解決していく姿がめざされる。

2.1時間目の扱いに関する解釈

1時間目には,さくらさん,しおりさん,すみれさんの3人が輪投げをし,ヒントを手がかりに,順位を決定していく活動を扱っている。ヒントとして3条件が挙がる。

条件を考えずに,3人の順位を予想すると,起こりうる可能性は「さ,し,す」「さ,す,し」「し,さ,す」「し,す,さ」「す,さ,し」「す,し,さ」の6通りである。(引き分けがないと考えた場合)この6通りから①~③の3条件にあてはまるものを考えればよい。

このように見ると,「し,す,さ」が正しい順位であることがわかる。ただし,このようなやり方は,考えられるすべての場合を挙げてから一つずつ条件と照らし合わせるため,時間がかかる。(効率的ではない)

そこで,条件仮定を用いる。えんぴつくんが言っているように,「1位がさくらさんだとすると・・・」と仮定し,①~③に見合うものを探ることで,一気に条件を見ていくことができる。

1位がさくらさんだとすると,①と③を成立させるには,2位がしおりさん

→しかし,②が成立しなくなる。

1位がしおりさんだとすると,①と③を成立させるには,2位がすみれさん

→②も成立する。

1位がすみれさんだとすると,①が成立しない。

よって,「し,す,さ」の解が得られる。条件の仮定をすることで,効率よく解にたどりつくことができる。また,このような過程を順序よく説明できることが大切である。

3.2時間目の扱いに関する解釈

2時間目は,あきらさん,かつやさん,さとしさんの3人が輪投げをし,誰がどこに入ったかを考える活動である。手がかりとして,「3人の合計点」「どこにいくつ入ったかのイラスト」「ヒントのことば」がある。

まず,すべての可能性を挙げてみる。1回で得られる点数の可能性は0点~5点のため,3回の合計点として最高点が15点,最低点が0点となる。以下に全パターンを示す。(順番は考えない)

3回の入り方

15点 (5,5,5)
14点 (4,5,5)
13点 (3,5,5) (4,4,5)
12点 (2,5,5) (3,4,5) (4,4,4)
11点 (1,5,5) (2,4,5) (3,3,5) (3,4,4)
10点 (0,5,5) (1,4,5) (2,3,5) (2,4,4) (3,3,4)
9点 (0,4,5) (1,3,5) (2,2,5) (1,4,4) (2,3,4) (3,3,3)
8点 (0,3,5) (1,2,5) (0,4,4) (1,3,4) (2,2,4) (2,3,3)
7点 (0,2,5) (1,1,5) (0,3,4) (1,2,4) (1,3,3) (2,2,3)
6点 (0,1,5) (0,2,4) (1,1,4) (0,3,3) (1,2,3) (2,2,2)
5点 (0,0,5) (0,1,4) (0,2,3) (1,1,3) (1,2,2)
4点 (0,0,4) (0,1,3) (0,2,2) (1,1,2)
3点 (0,0,3) (0,1,2) (1,1,1)
2点 (0,0,2) (0,1,1)
1点 (0,0,1)
0点 (0,0,0)

この56通りのすべてを条件に照らし合わせることは合理的ではない。前時に扱った「効率的なやり方」をしていく必要がある。

ここでは,3つの手がかりを1人ずつ一気に見ていく。

あきらに関する手がかりは「合計が9点」「3回ともちがうところに入った」である。そこから(0,4,5)(1,3,5)(2,3,4)に絞られる。そして,イラストを見ると,どれもいけそうである。

かつやに関する手がかりは「合計が10点」「同じところに2つ入った」である。そこから(0,5,5)(2,4,4)(3,3,4)に絞られる。そして,イラストを見ると,どれもいけそうである。

さとしに関する手がかりは「合計が8点」「最高点のところにはいったけれど,1回はずれた」である。そこから(0,3,5)が決定する。

つまり,さとしだけは2つの手がかりで入り方が決定する。ここを解決の入口としてあきら,かつやを決定させていく。

イラストから,さとしの分(0,3,5) を抜くと,1点が1つ,2点が1つ,3点が1つ,4点が2つ,5点が1つとなる。

もう一度,あきらとかつやの可能性を見ると,かつやは(2,4,4) しか可能性がなくなる。そこであきらは残りの(1,3,5)となるのである。

解決に至るためには,条件を仮定したり,一気に貫いてみたりする見方が必要となる。そうすることで,効率よく解くことができる。また,頭の中だけで解決させることは非常に困難である。メモなり表なりに書かせて,アウトプットすることが必要である。

4.実践での特色

今回,2時間目の解決方法を少しアレンジした。「かつやのふきだしを空欄にし,何を言ったか当てる」というゲーム形式にしてみた。
この活動のよさは以下の2点である。

  • ①ゲーム形式にすることで,子どもがより自主的に取り組む。
  • ②ふきだしを当てる活動にすることで,オープンエンドとなる。
    • ①では,「教科書会社に挑戦!」ということで,ふきだしの中身を当てさせた。教科書会社がどんなことばを用いたかを考えさせる活動となり,解を求めるだけでなく,「一字一句当ててやろう」と,より意欲的に活動した。
    • ②では,さとしが(0,3,5) で決定し,次にあきらを考えると,あきらは(1,3,5) か(2,3,4) のどちらかになる。かつやも(2,4,4) か(1,4,5) のどちらかとなる。つまり,かつやのふきだしが消されることで,1つには絞ることができないのである。あとは,「かつやが何と言ったか」ですべてが決まる。もし,かつやが「すべて違うところに入った」と言えば(1,4,5) に決定する。「すべて偶数だった」と言えば(2,4,4) に決定する。決定のさせ方は多様に考えることができ,オープンエンドとなる。さらに,「かつやがこう言ったら,このように決定する」といった条件仮定を用いることになり,前時の活動がより生きると考えた。

授業当日に子どもたちから出てきた解答は,以下の通りである。

このように,2つのうち1つに絞るための言葉を考えていく活動は,今まであまり経験していないものである。違いを見つけ,言語化していくことに興味をもち意欲的に取り組むことができた。

5.実践の成果と課題

  • ふきだしをブラインドにし,「教科書に挑戦」というゲーム要素を取り入れることで,「よし!」「当ててみせるぞ」と意欲的に取り組んだ。
  • 「最高点は5点のことだから・・」「合計点の表を見ると・・」「もし,かつやさんが偶数と言っていたら・・」など,根拠を示した発言や仮定した発言を多く聞くことができた。
  • グループで考える活動を通して,一人では解決できない子も友達の考えを借りながら「こうしたらいいのかな」と解決に向かうことができた。
  • 子どもの思考順に寄り添いながら進めることで,「次はこれをすればいいんだ」と筋道の立て方を理解させることができた。
  • グループで話し合いをする時間設定が中途半端になってしまい,グループによって進行状況に差が出た。
  • 導入を丁寧に扱いすぎたため,メイン活動の発言を十分に拾いきれなかった。
  • 実際に論理的な思考力がついたかどうか,一人にもどって適用題に取り組む時間が必要である。

6.考察

今回,論理的思考力を育成するために,途中過程をブラインドにし,逆思考的な要素を組み込んだ。その結果,「もしこうなったら,結果はこうなる」といった仮定の発言や「こうなるには,こうすればよい」といった逆思考の発言を導くことができた。教科書に書かれていることばを当てるという活動も意欲を高めるきっかけとなった。

しかし,すべての単元でこのような活動を仕組むことは難しい。今回の研究をより汎用性のあるものにするために,他単元においても隠す位置を十分に考慮しながら,逆思考型の問題提示をしていきたい。

7.板書