高学年の子どもで,三角形の定義が正しく答えられる子どもはクラスに何人いるだろうか。また,三角形を作図させた時に,正しい三角形がかけない子どもはいないだろうか。
自身が以前高学年を担任していた時,三角形を見て「これは三角形である。」と言えても,三角形を説明できなかったり,正しい三角形がかけなかったりする子どもが必ずいた。それらの子どものほとんどは,三角形がどんな形をしているのかは捉えられている。ただ,それを言葉で表現するとなるとうまく説明できなかったり,作図しようとするとうまく定規を操作できなかったりするのである。
本単元「三角形と四角形」を指導するにあたって,現在2年生の子どもが高学年になった時に,どの子どもも「三角形とは,3本の直線で囲まれた形」と言えるようになっていてほしい,定規を使った作図がすらすらできるようになっていてほしいという思いが強くあった。そこで,概念形成と作図の習熟を目指した指導の在り方について以下の2点を仮説とし,実践に取り組んだ。
仮説Ⅰ | 様々な図形を三角形(四角形)ではない理由を説明することで,三角形(四角形)の概念形成をより確かなものにできるであろう。 |
仮説Ⅱ | 作図した三角形(四角形)を実物投影機で拡大提示し正しくかけているかを確かめ合う活動を行うことで,より正確に作図する力を身に付けられるだろう。 |
子どもは,これまでに第1学年で「さんかく」や「しかく」という形を感覚的に捉える学習を行っている。身の回りには多くの「さんかく」や「しかく」があり,子どもにとっても捉えやすい概念だと考えられる。それが,第2学年となり本単元では「3本の直線で囲まれている形を三角形と言います。」と学習する。直線については単元3『長さ』で学習はしているものの,第1学年までの「さんかく」と比べると,一気に抽象度が増す。そこで,教科書では,点と点を直線で結び動物を囲むという活動で導入することによって,概念形成を図る展開がされている。
確かに,三角形の定義を説明することは難しい。しかし三角形に近い形(右図参照)を提示し,「これも三角形?」と聞くと,「いや,なんかおかしい。」と言う子どもは少なくない。1本は直線であるのに対し,残りのもう2本にあたる辺が直線ではないことには多くの子どもが気付くことができる。最初に子どもから挙がるのは「曲がっている。」「ふくらんでいる。」という日常言語であるが,次第に「直線ではない。」という算数用語を使う子どもが出てくる。
このように,三角形に限りなく近い三角形ではない図形を捉え,「この図形は三角形ではない。」と理由付けて説明するこの学習の積み上げが,三角形の概念形成につながる最も重要な学習ではないかと考えた。
直線の作図は,これも第2学年の単元3『長さ』で学習している。ただ,教科書の扱いはあまりなく,1時間直線を引く学習を行うだけでは子どもたちが定規を使って直線を引くことはできない。本学級においては,筆算やテープ図をかく時にも定規を使って習熟を図ってきた。それでも,定規を使って思ったところにきれいな直線を引くことはなかなか難しい。
子どもたちは,本単元p.40で初めて平面図形の作図を学習する。作図についてはこれから学年が上がっていくにつれて,より高度になっていく。平面図形の中でも特に易しい一般三角形を作図するこの段階で,より短時間でより丁寧に作図できる力を身に付ける必要がある。
そこで,子どもたちが作図した三角形を実物投影機で拡大提示したものを確かめ合う活動を行う。ノートにかいた小さな図形は,一見三角形に見えるものであっても,実際は直線でなかったり,頂点が合っていなかったりする。そのノートを見ながらでは,直線かどうかはなかなか確かめられない。しかし,実物投影機で拡大提示すれば,簡単に判別できる。自分のかいた図形や友達のかいた図形を拡大提示で何度も見合い確かめることで,より正確な作図を心がけられるようになると考えた。
第1時は,教科書p.39・40の絵を使って教科書通りに展開した。点と点を直線で結んだ後できた形の仲間分けをし,その理由を説明させると,板書中央にあるような意見が出た。
その中の,「3つの線でかこまれているのと4つの線でかこまれているの」と言った子どもの意見を使って,「線のところを直線とすると,これが三角形(四角形)と言うんだよ。」と定義した。しかし,授業前段の点と点を直線で結ぶ活動において,うまく三角形や四角形がかけていない子どももいた。そこで,授業の終わりに,「三角形や四角形をかくのって,なかなか難しいね。書き直していたら時間も足らなくなりそうだね。では,うまく三角形や四角形になっていなくてもいいから,その代わり前に,「これは三角形四角形ではないよ。という形をかきに来てくれる?」と問いかけると,多くの子どもたちが一斉に前に出てきて,思い思いの図形をかいていた。(板書右)中には,明らかにお絵かきをしている気分の子どももいたが,特にふれずに授業を終えた。
そして第2時は,前時の終盤に子どもたちがかいたたくさんの図形を提示して始めた。 いくつか三角形らしい図形を取り上げ,「これは三角形?」と投げかけ,三角形ではない理由を説明する活動を全体やグループで繰り返し行った。いくつか繰り返した後,「この中に,本当に三角形はない?」と聞くと,多くの子どもがないという中,「あれは三角形じゃない?」という子どもが出てきた。一見三角形に見える図形は,意見が分かれた。そこで,三角形であるか否かを話し合うと,そこでは,「すべて直線であるか」や「3本の直線によって囲まれているか」が何度も話題となり,子どもたちの中でも三角形かどうかを判別するには,「3本の直線によって囲まれているか否か」を考えることが共有できた。
第3時は教科書p.41には進まず,三角形の作図の習熟を図る学習を行った。「三角形をかこう」と課題を提示し,自由にノートに作図させた。そうしてできた三角形が正しくかけているかどうかを実物投影機で拡大提示して確かめていく活動を行った。ここで,留意すべきは,うまく三角形がかけたつもりの子どもに対して周りから「それは三角形じゃない。」と言わせないようにすることである。誰しも「うまくかけた。」と思った図形を「間違いだ。」と指摘されることは快く思わない。そこで,書き終わった子どもたちに「自分のかいた三角形を先生に見せた時,○してもらえると思う?」と聞き,①完璧な三角形で○をもらえる,②細かく言うと三角形ではないかもしれないけど,おまけで○をもらえそう,③三角形とは言えないから○はもらえない。のいずれかを意思表示させた。そうして③に挙げた子どものノートから順に拡大提示で確かめ合うようにした。自分で③に挙げた子どもの作図であるので,「辺が曲がっている。」や「頂点と頂点がつながっていない。」という意見が出ても,言われた子どもも納得である。次に②に挙げた子どものノートを取り上げると,「○でいいんじゃない?」や「それは三角形とは言えない。」と意見が分かれ始める。そこで,子どもたちが話し合うことが三角形の概念形成の再構成となる。その中で,「それが三角形でないなら,①に挙げた私の三角形も○にはならない。」と言う子どもが出てきた。こうして一人一人が自分の作図した三角形が正しいかどうかを吟味することになり,より正確な三角形をかこうとする姿が学級全体に広がった。うまくかけない子どもは,自然と「どうすればそんなにうまくかけるの?」と聞き,うまくかけた子どもが定規のあて方やノートを回転させる等の書き方を説明し,学級全体で「より正確な三角形の書き方」を考えながら繰り返し作図を行うことができた。
子どもたちにより確かな概念形成と作図の力を付けさせたいと考え実践に取り組んだ。一見三角形に見えるが実は三角形ではない図形が,三角形ではない理由を説明させる活動は,三角形を捉え,どうして三角形と言えるのかを説明させるよりはるかに子どもの説明したいエネルギーを引き出すことができた。単元の前半だけでなく,単元を通して,また宿題の答え合わせをする中で,「どうしてこれが三角形ではないの?」と繰り返し聞くことで,三角形の定義が子どもに定着していったと感じている。
一方,作図の力については,手の巧緻性等個人差もあり,苦手な子どもにとってはなかなか楽しく取り組むことができない学習となった。教科書の単元計画にはない時間を設定し,どっぷり1時間たくさん三角形をかき続けても,「ぼくはうまくかけない。」という子どももいた。算数の時間外でも模様作りや,ノートの文字を□で囲む等,定規を使う場面をより多く設け,定規を使う習慣作りが必要だと感じている。