どの子どもも「わかる」「できる」「身に付く」授業づくりとは,言葉では端的に言えるが,いざ実践を行うとなると,目の前にはいろいろな子どもがおり何をどのように指導したらよいかはっきりとした指導法がなかなかみえてこないのが現状である。先行研究を調べてみると,この「わかる」「できる」「身に付く」という観点における研究は,今までいろいろな先行研究があるが,今回は,愛知教育大学教職大学院教授である志水廣教授が,長年にわたって現場の先生方と一緒になり,現場の必要感からボトムアップで開発をされた志水メソッドに添って私なりに実践を行ってみた。紙面の関係上,すべてを記載することはできないが,詳細は志水廣先生のホームページ(http://www.schoolweb.ne.jp/weblog/index.php?id=2370003)や書籍をご覧いただきたい。
志水メソッドとは,先に述べたように愛知教育大学教職大学院教授である志水廣先生が開発され「音声計算練習法」「○付け法」(「まるつけほう」と読む)「意味付け復習法」「適用問題定着法」「ヒント包含法」の5つから構成されている。これらの5つの手だてを1時間の授業の中で用いながら指導を行い,テーマの達成を目指すことになる。
今回の紙面では,紙面の関係上,志水メソッドの5つのうち3つの「音声計算練習法」「○付け法」「適用問題定着法」の実践紹介をする。
「音声計算練習法」とは,「できる」ために暗算力を磨き,問題解決の有力な道具にするための方法である。計算カード表を用いて行う。まずは,一人で1分間練習を行う。次に,1分間ペア同士で練習する。音声計算練習法の参考動画については,志水廣先生のユーチューブ動画「音声計算 小学校動画+方法_0002.wmv 」(http://www.youtube.com/watch?v=lAa9XhnbPWw&list=UUsK19qBArMjl-t-6Ir5imEg&index=6&feature=plcp)を参照のこと。また,児童生徒が使用する計算カード表については,小学校版(1年~6年生分)については,書籍「算数科 学ぶ喜びを育む学習の創造」,中学校版(1年~3年生分)については,「中学校数学科 志水式音声計算トレーニング法」(5 引用,参考文献に詳細あり)にある。
「○付け法」とは,教師が机間指導のとき,子ども一人ひとりに声をかけながら,子どものノートに赤ペンで○をつけていく方法である。基本的な考え方としては,全員に○をつける,×はつけない。部分肯定の精神で行う。○付け法の参考動画については,志水廣先生のユーチューブ動画「藤江小学校 少経験者研修.wmv ○付け法の実際の授業」(2分23秒~3分17秒を参照)
(http://www.youtube.com/watch?v=ukSNxloX-n8&list=UUsK19qBArMjl-t-6Ir5imEg&index=3&feature=plcp)
「ムービー中学校数学○付け法の実演.wmv」
(http://www.youtube.com/watch?v=3k0G9Qw9SAI&list=UUsK19qBArMjl-t-6Ir5imEg&index=7&feature=plcp)を参照のこと。
「適用問題定着法」とは,練習問題を一斉指導の形態で,問題のスモールステップに配慮しながらフラッシュカードなどで,次々に提示して答えを言わせる方法である。
4年,1けたでわるわり算の筆算(啓林館4年上P.20 ~ P.21),
12時間中の2時間目
答えが何十・何百になるわり算の計算の仕方を10や100を単位にして,そのいくつ分と考えて計算できる。
今回の私の指導場面における1時間の流れは,下の表のようになる。啓林館の教科書では,4年上P.20~P.21の場面である。
この本時の指導計画を作成するにあたっては,小学校では,担任一人で基本的に全教科を指導しなければならず,1教科あたりにかける教材研究は,どうしても短時間にならざる得ない。そうした現状のもと,日々の授業をより充実した算数学習にするために教科書で授業を行うことを心がけている。そうすることで,子どもが分からなくなったときに,教科書を寄りどころになれたり保護者の視点から考えた場合にも,家庭で算数学習のことが話題になったときに,教科書で親子共々で振り返られたりする利点があると考えている。
時 | 学 習 段 階 | 志水メソッドに関すること,留意点,手だて (表中の※は,3(4)で具体的な場面について記載) |
---|---|---|
4
6 |
1 復習の場面
・3けたの足し算を一人で式と答えを声に出して練習し,その後,ペアで練習を行う。 ・P.20の図版を黒板に掲示し,わり算の意味を考え,既習内容でない60÷3や120÷3などを本時考える問題(学習課題)とする。 |
・※1 音声計算練習法を用いる。 ・ヒント包含法を用いて,既習内容と本時の学習内容の違いを明確にする。 ・今回は,子どもたちの意識を集中するために,図版を黒板に掲示する。 |
8 |
2 問題の把握
・P.21 1 ㋐ 60÷3の考え方を教師が子どもと対話をしながら説明する。 |
・10円玉に置き換える考え方は,子どもの発想ではなかなかむずかしいので,教師が説明する。 |
7 |
3 自力解決
・P.21 2 ㋑ 120÷3の計算のしかたを考える。 |
・※2 ○付け法を用いて,子どもの考えを部分肯定し,声かけをしながら○つけを行い発表への意欲を高める。 |
12 |
4 思考の練り上げ
・120÷3の計算のしかたを話しあう。 ・600÷3についても同じようにできるか確認する。 |
・意味付け復唱法を用いて,話し合いを子どもの言葉で授業を創る。 |
8 |
5 まとめ
・フラッシュカードを用いて一斉指導で練習問題を行う。 ・教科書P.21 ③の問題を行う。 |
・※3 適用問題定着法を用いて,「わかる」状態から「できる」状態にする。 ・※2 ○付け法を用いて,声かけをしながら○つけを行い,本時のねらいの評価を行う。 |
上の表の授業展開におけるアスタリスク(※)について解説する。
※1の「音声計算練習法」について
4月より現在のクラスの担任となり約2ヶ月が経った。本来であれば学習をしている単元の既習内容に関わる音声計算練習をするればよいが,計算を道具として使えるようにすることを主目的に考え,現在は,1桁の3項のたし算(学習内容としては,1年生)を行っている。
指導ポイント
・ 計算のやり方がきちんと理解できてから行うこと。計算のやり方が曖昧な状態で行うと,間違ったやり方が定着してしまう。
※2の「○付け法」について
自立解決と適応題(練習問題)の場面の2カ所で行った。
自力解決の場面における学習課題は,「120÷3の計算の仕方を考えてみよう」である。
[自力解決の場面] Kさんの場合
1回目の机間指導のとき
上のように書いていたので,
「さっそく120÷3と書いてるね。その調子!」と声かけを行い,○をつけ,さらに自力での解決を深められるようにした。
2回目の机間指導のとき
上のように書いていたので,大きく○をつけながら「10円玉4つという考え方がいいね。発表の場面で,言えると良いね」と声かけをし,○をつけ,話し合いでの発言につながるようにした。
[適応題(練習問題)の場面] Mさんの場合
1回目の机間指導のとき
上のように書いていたので,「式をちゃんと書いているね。いいぞ」
と声をかけを行い,部分○(小さい○のこと)をつけた。
2回目の机間指導のとき
①~⑦まで問題を解き終わっていた。「あっているよ。自信をもって問題を解いていってね」と声をかけ,①と②だけに○をつけた。
指導ポイント
※3の適用問題定着法について
子どもたちは,本時のねらいである何十・何百になるわり算の計算は,2問しか学習していない。計算の答えの求め方がなんとなくしかわかってない子どもが多いことが予想される。以下のA写真,B写真(上り下り法とも呼ばれている)を用いて,「わかる」から「できる」「身に付く」ことをねらい指導を行っている。
指導ポイント
志水メソッドの最大のよさは,どの子どもの考えも部分肯定しながら,その考えを生かし,算数を創っていくことにある。特に,○付け法は,算数の授業になると,私が○つけをしながら声かけをしなくても,逆に「先生,○をつけて」と子どもに声かけをされてしまう。○付け法は,子どもにとっても教師にとっても授業への意欲を搔きたてる指導法だと日々の授業を通して感じている。