小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

既習事項を組み合わせて,新たな見方を味わう授業づくり
~第6学年 台形の面積の公式から他の図形の面積の求め方を考える~

6年 東京都 A教諭

1.児童の実態

本校では,算数科において担任と少人数加配教諭における少人数指導を行っている。第6学年は2学級のため,3分割をして授業を進めている。よって,単元の内容とレディネステストの結果から,適切なグループ分割方法や指導計画を指導者で話し合い,指導することができる。

本学年の児童は,知識・理解に関する内容においては,そこそこの定着度があるが,数学的な考え方が必要な場面になると,かなり個人差が出る。それは,「算数は計算をする教科だ」という児童の思いと,それによって既習事項を生かして新たな課題を考えるというサイクルができていないことが原因として挙げられた。

中学校進学を目前にした6年生に,数学への架け橋になる授業をしたいと考えた。「知っていて当然」になっていること(既習事項)と新たな課題,一見結びつかないようだが,見方を変えると関係している,そんな思いをもたせたいと考えた。

2.授業について

本時の授業は,課題として教科書に載っていない。「6年間のふくしゅう」で問題演習をしている際に,平面図形の面積を求める問題があった。そこには,2本の平行線の間に台形と三角形,平行四辺形がかかれていた。

「台形の上底と下底を動かせば,他の形になるぞ…」

台形の求積公式にある条件を付けると,他の図形の求積公式になることを考えさせたら面白いのでは,と思いついたところからこの授業作りは始まった。

<概要>

3.授業をつくるに当たって

例に漏れず,「6年間のふくしゅう」も2学級3分割で行った。私は,上位クラスを受けもつことになった。

このクラスは,計算の能力は非常に高く,速く正確に計算することができる。知識を発展・応用する力もある。

そこで,

と,文字を使って表していくこと,また,条件を考えた根拠をはっきりさせようと考えた。

4.指導の実際

○ねらい
台形の求積公式より他の図形の面積を求める際の条件について,図形の性質を基に考える。

台形の求積公式を確認する。

T: この図形の面積を求めてください。
C: (4+5)×4÷2=13.5
13.5cmです。
T: この図形はどうでしょうか。
C: (x+y)×3÷2で…
C: 答えはわかりません。
T: なぜですか。
C: xやyはいくつだかわからないからです。

本時の課題を知る。

T: ちょっとこの台形を,台形でなくしてみようかな。
この台形を三角形にするとしたら,どこをどう変えればよい?
C: 上底をなくす。
C: 下底をなくしてもよいね。
T: 「上底をなくす」って,この図の中の文字を使っていうと?
C: xの長さが0です。
T: 式でかくとどうなるかな?
C: x=0です。

☆この場面は,慎重に扱った。公式を文字を使って表すと,児童にとってみればxやyは定数としての扱いとなる。この後,このxとyは変数として扱うことになる。上底を変化させて0にするという「動き」を実際に見せることが大切であると考える。

T: そうだね。では,この「x=0」を台形の公式に当てはめてみよう。
C: (0+y)×3÷2
C: これは,y×3÷2だ。
C: 三角形の面積の公式になる!

☆この式の変形も,児童にとっては初めての経験となる。0+4=4であることは当然としても,0+y=y となるのはやはり抵抗があった。0に加える,または0を加える際に答えがどうなるかを言葉や意味を使って確認する事が必要となる。上位クラスであったのでこの説明でよかったが,そうでないクラスだと方法を考えなければいけないかもしれない。

T: xとyの値をいろいろと決めてみると,台形は他の図形になるね。どんな数の時に,他の形の面積を求める式になるか,考えてみましょう。

他の図形の面積を求めるために,xとyをどう決めればよいか考えよう。

自力解決をする。

T: 他にはどんな形ができそうですか?
C: 正方形ができます。
C: 長方形もできる。
C: じゃあ,平行四辺形もできると思う。
C: ひし形はどうかな。

☆「上底と下底を色々と動かしてみる」ことができることがこの課題を解決するための前提となる。5学年で,四角形にある条件をつけると,特別な四角形になることの学習や,図形の包含関係を想起させることも一つの手がかりとなる。

T: 今出てきた正方形,長方形,ひし形,平行四辺形について,xとyの条件を考えてみてください。

☆ワークシートを配布した。

他の形にするための条件と,その理由を発表する。

C1: 長方形は,x=yのときです。長方形は,向かい合った2組の辺の長さが同じだからです。
C2: 正方形は,x=yで,両方とも3のときです。正方形は,4つの辺の長さが等しいから,高さの3cmと同じ長さにならないといけないからです。

☆正方形と長方形については,ほとんどの児童が垂直に交わるという条件を落とした。こちらで気づかせようと思ったが,平行四辺形について考えた児童が,長方形と平行四辺形が条件が同じであることがおかしい事に気がつき,条件を見直す話し合いとなった。

発表した条件を見直し,整理する。

C3: C1さんは,それだと平行四辺形になると思います。
T: 平行四辺形と長方形の違いを表さないといけないね。
C4: 縦と横が垂直に交わらないといけないと思う。
T: 記号を使うとどう書きますか?
C4: x=y,ACとCDが垂直に交わる,です。
C5: C2さんの正方形も,垂直に交わらないと平行四辺形になっちゃう。
C6: 正方形になるには,x=y=3,ACとCDが垂直に交わる,だね。
C7: ひし形にもなる。これはx=y,AC=ABだ。

考えた条件を,台形の求積公式に当てはめてみる。

T: 長方形になる条件の「x=y」を,台形の面積を求める式に当てはめてみよう。
C: (x+x)×3÷2=2×x×3÷2=x×3
C: 「横×縦」と同じだ。
C: ちょっと待って,平行四辺形も同じ?
C: 平行四辺形の場合は「底辺×高さ」だよ。
C: 式にすると同じなんだね。

5.今後考えていきたいこと

本時において,必要であった既習事項は,

である。一つひとつは,何ら難しいことはない。本時の課題を解決するにあたって,児童に壁となったことは,

「新しい課題を解くのに,必要となる既習事項は何か?」を自分で発見することだと思う。

普段の算数の授業では,既習事項があって,それをもとに新しい課題を解決していくという授業がされることが多い。振り返ると,実際私もそうした授業をしてきたように思う。

しかし,今後中学校,さらには社会に出るにあたって,「この考えを使って,この問題を解決してね」ということは皆無に近いのではないだろうか。算数数学に限らず,ふと表れた問題,課題に対して,どう解決していくかは,それまで積み重ねてきた経験のうち,使えそうなものを自分でピックアップしていくことが必要なのではないだろうか。

算数・数学という教科を通して,そういった力をつけていくこともできるし,またつけていかなくてはいけないのでは考えるのである。

そのために,課題と既習事項のつなげ方を手だてとして考えていった。しかし,文中でも記した通り,大人にとってみれば,「その思考の流れはスムーズにいくだろう」と思うことであっても,児童にとっては「それっていいの?」と思うことがいくつかあった。手だてや授業を構成する際に配慮が足りなかった部分もあったが,それも踏まえて,前述の力を身につけさせるための授業を作れるように,これからも研鑽に励んでいきたい。