5年「分数を調べよう」と「分数の計算の仕方を考えよう」
思考力・表現力の育成には,結果だけに目を向けるのではなく,そこに行きつくまでの過程が大切である。特に,書くことにより,児童は道筋を立てて考えたり,自分の考えを整理したりすることが期待できる。そこで,1時間の授業の中で問題把握からまとめまでを数,式,図,表,グラフ,言葉などを用いて自分の考えを書かせることで,思考過程が表れるノートを書けるようになり,思考力・表現力の育成が図られると考えた。
本実践は,各学習場面において,ノート記述の視点を発問と朱書きコメントにより明確に示し,ノート記述の手本を見せれば,児童が図表現,数式表現,言語表現ができるようになり,思考過程が表れるノートを書くことができるであろうと考え,行ったものである。
授業における各学習場面(問題把握,自力解決,比較検討,まとめ)で児童自らが望まれるノート記述ができた状態をさす。
先行研究やこれまでの実践から,「ノート記述の視点と望まれるノート記述」についてまとめた。
手立て | 意図 | 方法 |
---|---|---|
手立て①発問 | 学習場面ごとにノート記述の視点を明確に示す。 | 高学年を対象とした記述の視点を示す基本的な発問を載せる。 |
手立て②手本A (見本) |
教師見本と児童見本により,ノート記述を具体的に示す。 | 教師見本は模造紙1枚を横向きして児童用のノートに見立て,問題把握からまとめまでの書き方を示す。
児童見本は望ましいノート記述や工夫ができている児童のノートをA3拡大カラーコピーして掲示する。 |
手立て②手本B (ノート提示) |
自分のノート記述を自己評価させる。 | 比較検討後に,友達とノートを見せ合い,ノートの書き方を振り返らせる。 |
手立て③朱書き コメント |
授業後回収したノートに,児童一人ひとりのノート記述についてフィードバックを行う。 | ノート記述の書き方に関わること,思考を表す内容に関わることの2点について適宜コメントを入れる。原則,肯定的なコメントを記述する。 |
移行期の実践のため,5年生の「分数を調べよう」(11時間)と「分数の計算の仕方を考えよう」(9時間)の20時間を連続で行った。
指導段階 | 指導の意図 |
---|---|
指導段階1(7時間分) 「分数を調べよう」1~7時間 |
手立て①~③により学習場面ごとに望まれるノート記述を毎時間明確にし,しっかりと指導する。 |
指導段階2(8時間分) 「分数を調べよう」8~11時間と「分数の計算の仕方を考えよう」1~4時間 |
手立て①~③を減らしながら,学習場面ごとに望まれるノート記述を個々の児童の実態に合わせて習熟を図る。 |
指導段階3(5時間分) 「分数の計算の仕方を考えよう」5~9時間 |
手立て①~③がなくとも,学習場面ごとに望まれるノート記述ができることを目指す。 |
(ア)学習場面ごとのノート例
単元終末において,「分母が7の真分数を小数で表すと,同じ数の組み合わせが繰り返されるきまりを見つけることができる。」という学習を行った時のノートを示す。
問題把握
児童一人一人が本時のキーワードを捉え,児童全員が自分なりの言葉で,学習課題を立てられた。
自力解決
□/7の分子に8まで入れて計算したり,分子に10や17まで入れて計算したりする児童もいた。
そして,「何か気づいたこと」として自分の考えを全員が1つ以上,多い児童で5つ書けた。自力解決の時配が12分であったため,もう少し時間があれば,もっと書けた児童もいたと考えられる。
比較検討
発表した友達の考えをつけ足して書いたり,友達のつぶやきを吹き出しや色文字で書いたりした児童もいるが,聞きながら書く難しさや時間の確保の足りなさから,メモを取れている児童は半数ほどであった。
まとめ
96%の児童が本時のねらいに迫ったまとめを自分なりの言葉で書けていた。
まとめを読むことで,教師は,一人ひとりの児童がこの学習をどのように理解しているかを評価することができた。
(イ)抽出児童の変容
第1時間目
ノートの書き方として,見開きの2ページを用いて描くことはできているが,定規を用いて直線をひいたり,マスの中に文字を入れて丁寧に書いたりすることはできていない。
また,自分の考えもほとんど書けておらず(左半分下),板書を写したのみである(右ページ)。
そこで,コメントには「見開きでゆとりをもって書けたことはとても見やすいノートになるのでよいですね。明日からは,定規を使って線を引き,文字はマスの中に入れて書きましょう。」とノートの書き方に関わる部分についてだけ朱書きした。
このような児童にとっては,書き方に気をつけて書かせることで,見違えるほど見やすいノートになるため,書こうとする意欲が高まる。
第18時間目
指導段階を経ていくと,各学習場面を捉えて自分の考えを書き表すことができようになった。学習課題では,本時の課題を捉え自分の言葉で書き表している。
自力解決では,整数と真分数に分けるやり方で答えを導き出している。どことどこを計算したのか,赤と青を用いて式の中に書きこみ,その後,順序よく計算の仕方を説明している。液量図も用いて描いているが,こちらは一方の分数を表す量が違っていた。
比較検討場面では,友だちの発表を受けて,「仮分数に直す方法」として吹き出しで表し,その計算の仕方を書き足している。
まとめでは,仮分数に直すやり方,整数と真分数に分けるやり方について触れ,約分についてもまとめている。
このように,第1時間目から第18時間目までの間にノート記述が変容したことが分かる。この児童は筆圧が薄く,自信がない文字であったが,ノートを自分で書けるようになると,筆圧が濃くなり,書く内容も徐々に増えていき,書くスピードも上がっていた。
(ウ)手立ての有効性
ノート記述させるための手立ての中で,児童自身が参考になったものを選択させた。
(【表5】参照)
【表5】児童が参考になったと選択した手立て
手立て | 人数 | % |
---|---|---|
①発問 | 10 | 37 |
②手本 A教室掲示(教師見本) | 21 | 77.8 |
A教室掲示(児童見本) |
22 | 81.5 |
Bノート提示 |
8 | 29.6 |
③朱書きコメント | 24 | 88.9 |
④その他(電子黒板) | 17 | 63 |
(比較検討時のホワイトボード) | 1 | 3.7 |
(児童27名が複数回答している)
このことから,児童にとって最も参考となる手立ては,教師からの朱書きコメントで,続いてノート記述の見本を見ることであった。
○手立てのうち,朱書きコメントと児童・教師見本が児童にとって有効であった。学習問題からまとめまでを自ら考え自分の言葉で書けるようになったことで,思考力・表現力が育まれてきたと考えられる。
△ノート提示という手立ては,見せ合う時間の位置づけとその時間の確保を工夫すれば,児童にとって参考になったと考えられるので,検討していきたい。
○ノートに書けば,意見を聞くし,発表もしたがる。
自分の考えを書くようになると,友達の考えに耳を傾けるようになる。自分が途中までしか書けなかったことでも,友達の考えを聞いて「わかった!」という声が自然と上がり,続きが書けていた。また,自分がノートに書いたことを伝えたくなったためか,今まで自信がなく発表できなかった児童の手も挙がるようになった。
○ノートを書けば見る。
自分で書いたノートは,どこに何を書いたか記憶があるので,ノートを頻繁に振り返り,問題を解く際にノートを活用する姿が多く見られるようになった。しかし,ノートに書いていなければ,振り返るものがなく,「できない,難しい,分からない」の繰り返しになっていくと感じた。
【参考文献】
算数授業研究,65 筑波大学附属小学校算数研究部 東洋館出版社
中村亨史(2010) 研究紀要,39