小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

『台形の面積』における導入問題の工夫
~三角形と台形の面積,どちらが大きい?~

5年 北海道旭川市立近文小学校 武田 要

1.はじめに ~なぜ「台形の面積の求め方」なのか~

ひし形及び台形の面積の求め方は,今回の学習指導要領の改訂で,5年生に新たに追加された指導内容の1つである。これまでもひし形や台形の面積については求めることを扱ってはきたが,「面積の求め方を考える」つまり「面積をどのように求めたらよいのかと考え,公式化する」ことまでは扱ってはいなかった。しかし,平成23年度からは,どの教科書にも「台形の面積の求め方」が堂々と記述されている。

この「台形の面積の求め方」を考える学習では,数学的な思考力や表現力を高める次のような活動を展開することができる。

○既習の三角形や平行四辺形の面積の公式を基に,等積変形や倍積変形の考え等を用いて新たな図形(台形)の面積の公式を創造的,発展的に作り上げる。

○新たな図形(台形)の面積の求め方について,筋道立てて考えたことを表現し,伝え合う。

以上のような活動を繰り返し行うことで,面積に対する理解を深めるとともに図形についての感覚を豊かにすることができると考える。

2.導入問題の工夫 ~課題意識を高める導入問題とは~

「台形の面積」を扱う導入場面については,扱いたい台形を提示して「台形の面積の求め方を考えましょう。」または「台形の面積の求め方を考え,説明しましょう。」という活動を促している教科書が多い。啓林館の導入は前者であるが,このままでは提示された図形を見て,「今日の図形は台形だ。面積の求め方を考えてみよう。」という受身的な流れで,課題が設定される。

そこで,既習内容の想起と活用を促し課題意識が高まるように,次のような導入問題を設定することにした。

次の三角形と台形の面積は,どちらが大きいでしょうか。

この導入問題により,次のような展開を期待することができる。

○導入場面において「三角形の面積を求める」ことで,既習内容を想起させるとともに,その後の活用を促すことになる。

○三角形の面積は求めることができるが,「台形の面積の求め方はどうすればよいのか?」という課題意識を高めることができる。

3.具体的な授業の流れ

(1)本時の目標
台形の面積の求め方について考え,説明することができる。

(2)本時の展開

指 導 の 流 れ 教師の指示や発問(T)・児童の反応や発言(S)

○問題を提示する

  • 2つの図形を提示し,問題文を板書する

T 今日はこの2つの図形の面積について考えます。

S 三角形と台形だ。

S 三角形の面積は前にやっているから,求めれるけど,台形の面積を求めるのかな?

T 問題を書きます。一緒にノートに書いてください。

次の三角形と台形の面積は,どちらが大きいでしょうか。

S あれ,どっちが大きいんだろう。

S 三角形は,たぶん…7×4で14cm²だと思うけど…。

○答えを予想させる

T では,見た感じでもいいですよ。予想してみます。
「三角形という人」~ 0人
「台形という人」 ~ 32人
「どちらも同じ」 ~ 6人

○既習を確認し,課題を明確にする

T この三角形の面積は求めることができますか。

S 三角形の面積は,8×4÷2=16で16cm²。

T そうだね。底辺が8㎝で,高さが4㎝だから…

S 底辺×高さ÷2で14cm²になります。

T では,今日は何を考えればいいのかな。

S 台形の面積がわかればいい。

S 台形の面積の求め方を考えればいいと思う。

T それでは,今日は

台形の面積の求め方を考えよう。

○自力解決を図る

  • 図形を印刷した児童用のプリントを配布する

T まずは自分で考えてみましょう。プリントに,いろいろ書き込んでいいですよ。わかったことはノートにまとめて,説明できるようにしてください。

《予想される児童の考え》

ア 2つの三角形に分割して求める

イ 三角形と平行四辺形と分割して求める

ウ 面積の同じ平行四辺形に変形して求める(等積変形)

エ 同じ台形をつなげて平行四辺形にして求める(倍積変形)

オ 方眼の数を数えて求める~この場面ではもう出てこない

○集団解決を図る

  • アとイから取り上げ,「分ける方法」としてまとめる

T アの考えを説明してください。
(省略)

T アとイの考えは,似ているよね。どんな方法だろう。

S 形は違うけど,分けて求めている。

S 今まで習った形に分けて求める方法です。

T そうだね。この2つは「分ける方法」だね。

  • ウを「平行四辺形に変える方法」としてまとめる

T 次にウの考えを説明してください。
(省略)

T 面積の同じ「平行四辺形に変える方法」だね。違う平行四辺形に変えた人もいました。○○さんはどんな平行四辺形にしたのかな。(変形の仕方が違う考えを紹介)

  • エを「2つ分で平行四辺形にする方法」としてまとめる

T 次にエの考えを説明してもらいますが,図を見ただけでわかりますか。

S 同じ台形をひっくり返してつなげている。

S 三角形のときと同じで,台形を2つつなげて平行四辺形にしている。

T では,○○さん説明してください。
(省略)

T 台形を「2つ分で平行四辺形にする方法」だね。

○問題の答えを確認し,まとめる。

T 今日の問題の答えは,どうなりますか。

S どちらも16cm²になるから,答えは「同じ」になる。

T そうだね。実はこう(下図参照)考えると「同じ」だよね。

T では,台形の面積の求め方でわかったことはありますか。

S 台形の面積の求め方には,いろいろな方法がある。

S 台形の面積の公式もつくれるんじゃない。

T 台形の面積の公式がつくれるかい。

S 三角形の面積の公式と同じように,エの考えを使って2つ分にして求めて2でわればいいと思う。

T すごいねぇ。エの考えを使えば公式にできます。2つ分で平行四辺形にして,「底辺×高さ÷2」になるね。教科書を見て,公式を確認しよう。(上底や下底などの用語も確認)

○練習問題を設定する。

T 台形の面積の公式を使って面積を求めよう。
(省略)

【参考文献】
相馬一彦・早勢裕明『算数科「問題解決の授業」に生きる「問題」集』明治図書2011年