高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
 探求活動(課題研究)

愛知県立豊田西高等学校における「SS課題研究」の取組
~全校生徒が3年間を通して探究活動に取り組むために~

愛知県立豊田西高等学校 楫本 紘司

1.はじめに

愛知県立豊田西高等学校は,平成25年に文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け,令和3年度で指定9年目を迎える。本校の位置する豊田市は,トヨタ自動車をはじめとする製造業が盛んであるとともに,一歩郊外に出ると自然豊かな山間地帯が広がっている。豊田西高校では,このような環境を最大限に活用し,「産学公との連携」をテーマに,ものづくりや自然保全活動など,幅広いSSH活動に取り組んでいる。
本校のSSH活動の一つの軸となっているのが課題研究である。課題研究は平成27年度に第3学年理系を対象に開始した。その後,対象学年,対象類型を徐々に広げ,現在は全生徒が全学年で取り組んでいる。本校の課題研究においては,参考資料として「課題研究メソッド」(啓林館)を活用し,学習活動を円滑に行っている。

2.3年間を見通した指導計画

豊田西高校では,課題研究の授業を3年間で計5単位で実施している。そのうち2単位(「SS課題研究Ⅱ,Ⅳ」)は探究活動で必要となる情報的な知識及び技能を学ぶ時間であり,残り3単位(「SS課題研究Ⅰ,Ⅲ,Ⅴ」)を探究活動本体に位置付けている。1年間で1単位ずつ実施し,系統的に探究活動に取り組むことができるようにしている。3年間の指導計画(令和3年度版)は表1のとおりである。本格的な探究活動に取り組む期間を第2学年の6月から第3学年の5月までとし,第3学年の7月に実施する「SSH成果発表会」でのポスター発表を目標に段階的に探究活動ができるよう,指導計画を立てている。また,実験器具や情報機器が十分に確保できるよう,授業の時間帯を学年で分けている。

3.各学年での探究活動

第1学年の「SS課題研究Ⅰ」では,課題研究で探究活動に取り組む上で必要な資質を身に付けることを目指している。オリエンテーションに続いて入る,「『SS課題研究Ⅰ』を始めるにあたって」という単元は,参考文献の「課題研究メソッド」の序章及び第1章を活用した授業を展開している。課題研究を小中学校の自由研究のようなものであると捉えている生徒が多いため,課題研究の主旨や探究活動の在り方に対する共通理解を教員と生徒の間で得る上で大変重要な単元となっている(図1参照)。

図1 『「SS課題研究Ⅰ」を始めるにあたって』ワークシート

図2 NIEと連携した学習

図2 NIEと連携した学習

本校は令和2年度までNIE(Newspaper in Education)の研究指定校だったため,そのノウハウを生かしたテーマ発見に関する探究活動にも取り組む。この活動は新聞の活用に目を向けさせることと,成果をまとめ,発表する能力を養うことを目的としている(図2参照)。
また,2学期には統計活用の方法を学ぶ。その際,「課題研究メソッド」の第4章2「結果をまとめよう」及びAppendix5「統計の基礎」を活用する。文系・理系を問わず,定量的な分析を心掛けるようにすることで,第三者に説得力をもって研究成果を正しく伝える技術を学ぶ。
さらに,2学期末から3学期にかけて類型別の講座を行い,第2学年から始まるグループ単位の探究活動で求められるスキルを身に付ける。
7月と2月には上級生の研究発表を聴く機会がある(「SSH成果発表会」における第3学年の研究発表(7月),「SSH中間発表会」における第2学年の中間発表(2月))。発表内容を理解した上で積極的に質問することが望まれるため,事前に聴く発表を決め,ポスターを見た上で,質問事項を考えるようにしている。

図3 先行研究の調査

図3 先行研究の調査

第2学年では,いよいよ本格的な探究活動に取り組むが,その際特に重要になってくるのは,テーマ設定・課題設定である。本校では,「課題研究メソッド」の第2章を効果的に用いて,リサーチクエスチョンの設定,先行研究の調査を重視した授業を展開する(図3参照)。特に,研究計画書を書く段階においては,担当教員と何度もやり取りを重ねながら内容をブラッシュアップさせていく。その際,「課題研究ノート」(啓林館)や自作教材を活用しながら書き直しを重ね,研究計画書を完成させる。
研究計画を確立させて,生徒はやっと実験・調査に取り組むことができるが,そこでも,研究倫理やアンケートの取り方など,留意すべき点が多数ある。「課題研究メソッド」第3章3-1やAppendix6等を参考に,本校独自の教材を作成・配付し,これらを徹底させている。

研究が終わると,まとめ,ポスターセッション形式の発表に取り組む。本校では「課題研究メソッド」第5章4を参考にしているが,ポスターのレイアウトのテンプレートを本校で事前に示しておき,生徒がそれを参考にポスターを作成することで見栄えの良いポスターができるように工夫している。PowerPointを活用するスキルに個人差があることに対応する上で,このテンプレートの活用によりポスター制作の時間短縮を図ることが,研究活動の時間を確保する上でも欠かせない。またその際,参考文献・引用文献について,「課題研究メソッド」Appendix4を参考にするよう指導している。なおこれらについては,本校独自のテキスト「ポスター発表の手引き」も作成している。このポスターを用いて,2月に「SSH中間発表会」での発表に臨んでいる。

図4 SSH成果発表会

図4 SSH成果発表会

第2学年での中間発表会を経て,第3学年では改めて研究計画を立てる。その際,前年度の研究活動の反省を踏まえるとともに,中間発表会での評価や指摘を反映した計画を立てるよう指導している。この研究は第3学年の5月まで取り組み,7月の「SSH成果発表会」でポスター発表を行う(図4参照)。発表会においては,発表する3年生への指導はもちろん,聴衆となる1,2年生にも質疑応答を積極的に行うよう指導している。上級生の発表に対して質問をするには勇気が必要であり,例年質疑応答が低調に終わる傾向にある。そのため,あらかじめ発表用のポスターを見て質問を考えさせるなどの工夫をしている。
第3学年の2学期には,研究成果をA4用紙1~2ページにまとめる作業を行う。また,それと並行して,生徒自身が第2学年の生徒への研究指導を行うとともに,自身の経験を踏まえて感じた研究活動における留意点を後輩へのメッセージとして書き残す予定である。

4.評価・教員の指導力向上

研究活動の評価に関しては,本校独自のルーブリックを用いて,自己評価及び教員による評価の両方に取り組む。令和3年度版のルーブリックを図5に示す。評価規準としては,本校SSH研究開発項目である「生徒に身に付けさせたい資質・能力(4観点11項目による評価)」に対応したものとなっている。

図5 課題研究におけるルーブリック

図6 新転任者向け研修会

図6 新転任者向け研修会

研究活動の指導についても,教員間で習熟度の差がある。そのため,毎年,課題研究教員研修会を実施し,教員の指導力向上を図っている。また,初めて課題研究を指導する新転任教員もいるため,本校の課題研究の主旨と指導上の重要な留意点を理解してもらうことを目的に,4月上旬に新転任者向けの研修会を実施している(図6参照)。さらに,全教員に「課題研究メソッド」を配付し,生徒に対して共通の方針に基づく的確な指導ができるようにしている。