高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
 探求活動(課題研究)

近畿大学附属豊岡高等学校「総合探究学習」
~「地域との連携」が学びを完全サポート~

近畿大学附属豊岡高等学校・中学校

1.はじめに

本校は,啓林館の「課題研究メソッド」を導入して3年目になります。高校1年次のオリエンテーションにおいて,探究学習における学びのプロセスや問いの立て方について課題研究メソッドを用いて説明しています。
また,従来の教科書のように,知識や技術を教員が教えるという形式ではなく,生徒自身が気になったところを調べるために活用しています。
本校の総合探究学習では,生徒たちが自ら設定した問いに対して,情報収集,整理・分析,まとめ・表現を繰り返し行い,自分たちの納得解を探ります。この考察の過程で思考力・判断力・表現力がつき,この力は教科学習にも波及すると考えます。
近畿大学附属豊岡高等学校では,令和元年度から総合探究学習を一新しました。
2つのメインテーマ「人文・社会科学」,「自然科学」から特化した地域密着型の「自然環境」「地域医療」「地域経営」の3つのコアテーマ。また,地元である豊岡市には芸術文化観光専門職大学(令和3年度開校予定)ができ,芸術のまち豊岡にふさわしい「コミュニティダンス」という探究学習。学校ver.3.0「学びの時代」において欠かせない「学外との連携」を実践しています。
また,2019年秋に導入したChromebookは総合探究学習に欠かせないアイテムとなっています。情報検索やスライドの作成,個人作業や協働的な作業など,Google Workspace for Educationのクラウドサービスを使った「新しい学び」に取り組んでいます。

2.総合探究【自然環境チーム】 担当教諭 石橋 孝輔

①はじめに

オゾン層破壊,砂漠化,地球温暖化,水資源の危機,エネルギー問題,食糧問題,生物多様性の劣化,人口爆発と貧困,森林破壊,ゴミ問題など,この地球が抱える環境問題は多様化しています。私たち人は「自然の恩恵」をいただいて生きています。資源を消費する側に立つ私たちがこの問題に対して正しい知識をもち,出来ることから消費を抑制し,資源を再生することがより強く求められるのではないでしょうか。まずはこの地域に出て,生徒各々で気になる点について情報を集めることから始めていきます。豊岡市では「コウノトリ野生復帰プロジェクト」と称して「環境にやさしい」をコンセプトに無農薬,減農薬農法を実施,コウノトリとの共生を目指していますので,興味関心がある生徒はこの分野の探究学習をおすすめしています。学習支援として市役所や民間団体,研究施設に協力関係を築いています。生徒自身の考える未来を形にして,SDGsについて問題解決できる人材を育成します。

②通年の取り組み(2020年度はコロナ禍のため9月から始動)

協力機関:豊岡市役所(コウノトリ共生課,農林水産課)
NPOコウノトリ湿地ネット
兵庫県立大学院地域資源マネジメント科

③活動実践例

(1)NPOコウノトリ湿地ネットと連携した活動

コウノトリの行動観察,湿地保全活動から見る豊岡市の環境,人とコウノトリが暮らすより良い社会の在り方をテーマに探究。

ハチゴロウの戸島湿地で実地調査

田結湿地で湿地保全活動

(2)兵庫県立大学院と連携した活動

シュレーゲルアオガエルとモリアオガエルの産卵地特性,谷戸環境変遷によるヘビ類を主とする両生爬虫類における影響の把握,コウノトリの繁殖期における雌雄の役割をテーマに探究

2月の探究発表会

コウノトリの郷公園で実地調査

座学で学んだ内容を踏まえて実際にフィールドワークを実施した。その結果,自分たちの目や耳で得たものに勝る情報は無く,自らが立てた仮説をもとに問題解決への意識が高まり,高校生らしい柔軟な発想で問題解決へと導く行動ができた。さらに,単年では終わらないような工夫をすることで,この活動がそのまま進路選択に繋がる生徒もいた。また,積極的に情報収集,考察を行うことで普段の学習にも集中力や自主性が培われたと感じる。

3.総合探究【地域医療チーム】 担当教諭 寺内 啓貴

①はじめに

医療の現場ではさまざまな問題が起こっています。現在のコロナ禍においても日々未知のウィルスと戦う姿には感謝と敬意を表したい。一方で豊岡市のような地方の医療現場に目を向けてみても人手不足や医療格差といった問題が山積しています。病気になった人を治療(キュア)するだけではなく,病気を未然に防いだり,病気とうまく付き合っていくために生活支援や介護予防(ケア)に力を入れる医療が求められています。地域医療チームでは将来但馬の医療を支えるべく医療や地域創生を志す者たちが地域の協力を得ながら医療課題について考えていきます。
この講座は1年完結型講座であり,今年度,中高一貫コース5年生と文理特進コース2年生で地域医療について探究をしたい生徒(希望者)を対象に開講しています。今年集まった生徒は8名(中高一貫コース6名,文理特進コース2名)で,医師や看護師を目指す生徒がほとんどです。最初の授業で,自分たちが地域医療に抱く疑問をブレーンストーミングでできるだけ多く書き出し,KJ法を用いて整理していきました。それを参考に,個々で探究したいテーマを考え,発表をし,興味関心の方向性が近いメンバーでチームを作りました。スタートは「コロナとAIについて」「食事療法について」「医師の負担をどのように軽減できるかについて」という3つのテーマに分れて探究を始めました。

②通年の取り組み(2020年度はコロナ禍のため9月から始動)

③活動実践例

(1)地元の開業医院に訪問インタビュー

コロナ禍において,豊岡市で初めて「オンライン診療」を始められた思いと,この1年で見えてきた問題点について教えて頂きました。また,「豊岡 在宅看取り日本一」の裏に潜む開業医,訪問看護師の努力と現状についてのお話を聴くことで,但馬地域医療の未来について深く考えるヒントを頂きました。

(2)公立豊岡病院に勤務する医師による講演会

但馬地域の急性期医療を一手に引き受ける公立豊岡病院から,本校卒業生である2人の医師に来校して頂き,生徒達の質問に答える形で講演会を開いて頂きました。開業医の先生の視点からお話を聴いた後だったので,大学との関係や,コロナ禍での病院の様子,さらには地域医療構想について丁寧に教えて頂きました。

(3)地元の社会人による講演会

予防医療の観点から,食生活を見直すことを探究するために,「オーソモレキュラー療法」を研究されている地元の社会人の方に来校して頂きました。この講演会では,本校の生徒にアンケートを行い,生活の悩みを食事で改善できないだろうかと,質問に答えて頂きました。糖質の取りすぎと,鉄分やたんぱく質の不足が招くさまざまな症状について聴かせて頂くことで,生徒達はより自分事に食の大切さを考え,また予防医療を広めていくことの難しさを感じることができました。

(4)豊岡市地域包括支援センターへのZoomインタビュー

直接訪問して豊岡市が実施している健康増進の取り組みをお聴きしたかったのですが,緊急事態宣言発令中のため,Zoomで質問に答えて頂きました。特に,高齢者向けの取り組みを中心に伺ったのですが,予想以上に参加されている高齢者が多いことに驚きました。Point制度を取り入れたり,アプリを利用したりなどさまざまな企画が行われている事を初めて知り,これらの企画をもっと広げることができないかと,PR活動に参加する相談もしています。

上記の活動は全て,生徒達が自ら行動し,自分たちの探究にどのような視点の情報が必要であるかを考えて企画していきました。スタート段階では細かな取り組みは全くの白紙でしたが,逆に自由度が高かった分,生徒達の活発な行動に繋がったように思います。総合探究学習の授業としては今年で終わりになりますが,多くは医療従事者を目指したり,医療に関わりたいと考えている生徒ばかりですので,今後も探究活動を続けられるようにサポートしていきたいと考えています。

4.総合探究【地域経営】 担当教諭 奥田 幸祐

①はじめに

「地域経営」チームは,地元豊岡市において人手不足に悩んでいる中小企業の「求人票作成」を通じて,高校生の目線で地元の企業や経営者の魅力を知り,情報発信をする探究活動に取り組んできました。この活動をはじめるにあたって,高校と大学の連携だけでなく,行政や金融期間,地元企業の協力を得ることが必要不可欠でした。北近畿における高大社公金連携による企業の課題解決モデルへ発展していくことを期待しつつ,高校生の地域への誇り(シビックプライド)を高めることが本プロジェクトの目的です。

②通年の取り組み

<令和2年度 カリキュラム・年間シラバス>

③活動実践例

(1)情報収集「豊岡の今を知る!」

豊岡市役所や地元の金融機関から講師をお招きして,高校生と大学生が共に学ぶワークショップを企画しました。「ワークイノベーション戦略」や「若者回復率」から見えてきた「若い女性にとっての『豊岡で暮らす価値』」,「いい会社の定義とキャッチコピーから見える企業の想い」などのテーマについて,新たな視点や価値観に触れ,生徒たちの中にある「小さな疑問」が探究のタネになりました。

(2)近隣の福知山公立大学学生との共同学習

大学生とはChromebookを活用してインターネット上で作業を進めました。Google Meetでオンライン会議をしながら,スライドを共同編集していく。大学生がインターンシップ,高校生が企業インタビューと役割を決め,得た情報をもとにして,「企業の魅力とは何か」,「どうすれば魅力を求職者に届けることができるか」を企業の担当者の方と考えました。
令和2年度は,緊急事態宣言により外部での活動は制限される中で,オンラインでの活動が軸となり,WEBや広告媒体を活用した情報発信をテーマとした活動になりました。

その他の活動,

5.総合探究【コミュニティダンス】 担当教諭 中嶋 徹

①はじめに

2018年に豊岡市環境経済部環境経済課・一般社団法人ダンストーク・近畿大学附属豊岡高校の3者協働で企画し,以来3年連続で同校進学探究コース1年生を対象に行なっています。このプログラムは,1年生83名が豊岡市内で活動する人々や,さまざまな地域資源に触れて感じたことや発見したことから,ダンス作品を創作・発表する「ダンスを通じた探究活動」です。3年目となる本年度は,10名の地域の方々にご協力をいただき,また,豊岡市環境経済部環境経済課のサポートを受けて,近畿大学附属豊岡高校と一般社団法人ダンストークの共同主催というかたちで実施しました。地域と学校,行政,専門家が共通の目的を持ってプラットフォームを形成し,それぞれの立場を活かして高校生を育てる,全国的にも稀有なプログラムです。

②2つの目的

③協力機関

一般社団法人ダンストーク (https://danstork.com/)(https://note.com/danstork

豊岡市環境経済部環境経済課(https://tonderu-local.com/education/19414.html

地域のアドバイザー(10名)観光協会,旅館,DJ,音楽家,住職,など多職種

④スケジュール

⑤活動内容

(1)アドバイザーとの出会い

10名の地域のアドバイザーより(各10~15分程度)ご自身の仕事・活動についてご紹介いただきました。 どのアドバイザーも,思い思いの方法で自分の住むまちへのそれぞれの想いを伝えてくださいました。これから社会に出て行く高校生たちにとって,まちに色んな大人がいて,色んな生き方があるんだと実感するような体験は貴重な時間となりました。

(2)ダンスとの出会い

ダンスワークショップの体験をしました。
ウオーミングアップから始まり,講師の動きに合わせて体を動かすことから,だんだんと自分の発想で動きを他人に伝えていくようなメニューに展開していきます。だんだんと即興で自分をさらし出さなければなりません。そして,最後はグループに分かれテーマに沿ってダンスを創作し,発表します。「燃えるように滑る」「ぬめぬめと転がる」などのいくつものフレーズから動きを作って,それを組み合わせながら構成やフォーメーションまで考えます。正解がないことに対して自分のアイデアを出し合いながら動きを作るので,自分の考えを伝えること,相手の考えを尊重することが重要になってきます。

(3)グルーピング・リサーチプラン作成

さらにお話を聞きたいアドバイザーを生徒たちが選びグループを作りました。それぞれのグループでもっと聞きたいことやもっと見たいことをまとめリサーチプランを考えました。そして,その中で出た質問や要望をアドバイザーに送り,リクエストに基づいた作品の題材・リサーチプランを相談・調整していただきました。

(4)リサーチ

各アドバイザーが活動されている地域を10グループに分かれて訪問してリサーチを行い,地域資源の中からダンス作品の為の材料(魅力)集めを行いました。どのグループもアドバイザーの熱い思いに触れ,まとめきれないほどの材料を集めてきました。

(5)クリエイション

リサーチの中で見つけたキーワードや感じたことからテーマを作り,2日間かけてダンスを創作しました。また,クリエイション期間中,可能な限りアドバイザーにも見学に来ていただきました。

(6)発表・アドバイザーとのミーティング

ご協力いただいた地域の方々の前で 10作品(1作品5分程度)を発表しました。
どの作品も思考を凝らしたものばかりで,いろんな意見を出し合いまとめ上げられたものと思われます。アドバイザーの方々だけでなく,今回生徒たちに携わっていただいた沢山の地域の方々に来ていただき,生徒たちも感謝の思いがより強くなり,発表に向けた励ましになったと思われます。
大きな拍手とともに発表が終わり,その後はお世話になった方々とのミーティングです。作品を創作する中での苦労や,何を伝えたかったかなどを共感していただき,いつまでも話は尽きないようでした。

今回は『地球研』(総合地球環境学研究所)からも見学に来られ,生徒たちはインタビューに答えていました。

④さいごに

素直で真面目で大人に従順な子が,果たしてそのまま大人になっても大丈夫なのかと思っていました。自分の思いや考えを表現し慣れていない生徒たちに,社会で生きていくのに必要な力を付ける経験もさせたいと考えていました。そこで,コミュニティダンスに出会いました。我々教師は『正解』を引き出そうとしてしまいがちですが,ダンスの創作には正解も間違いもなく,一人ひとりの表現力・創造力を引き出し,0から創り出すプロセスが最も重要です。これまでに生徒たちが表現したものはどの作品も素晴らしく,達成感や自己肯定感を高めることのできる貴重な体験となっています。
高校生たちの目線で地域の魅力に気付き,出会った大人たちの熱い思いやこだわりに触れる。そんな中での人とのつながりは,この地に対する可能性と安堵感を生み,将来のUターン就職につながると信じています。そして,きっと地域を盛り上げてくれる大人となってくれることと期待しています。

6.おわりに

現在,全国の学校で総合的な探究の時間を活用した取り組みが紹介されています。先進校の取り組みを参考にしながら,地方の私立学校としての本校の強みを生かした総合探究学習を計画しました。当初は,ゴールがない学びである総合探究に対して,「何をどのようにやればいいのか」がわからず,模索しながら進めてきました。
総合探究学習の成果を一つのものさしではかることはできませんが,ある生徒が次のような感想を述べてくれました。

・・・学校の外の社会で問われる問題は答えがないように思われるが,問題が複雑なのでそのように思われるだけということだ。そして,問題の答えは得られにくいとしても,答えに近いものを得られるように,複雑さを嫌悪するのではなく,その複雑さに耐え,地道に小さな理解を積んで問題全体を把握していかなければならないと思った。
つまり,学校で扱う比較的単純な問題は社会に出てから出会うであろう複雑な問題を解くために必要で,今学校で習う答えのはっきりした問題はしっかり解けるようになっておかなければならないと考えるようになった。今後は,このことを心にとめ,学習し,得た学び,知識を複雑な問題に応用する術を考え,学んでいきたいと思う。