「大学入学共通テスト」へのカウントダウンはすでに始まっている。1990年に始まったセンター試験はマークシートでありながら,「暗記だけでは解くことができない,考えさせる設問がある」と教員の間では評判であった。しかし,凄まじい速さで時代は変化していき,文部科学省は「変化の激しいこれからの社会では,知識の量だけでなく,自ら課題を発見し,答えや価値を生み出す力が重要になる」という考えの下,これからの時代に求められている力を測る新しいテストへと移行することを決定した。
数学においては,数学I・Aの試験時間が60分から70分へと延長され,問題の一部に記述式を導入するということが公表された。全国の高校で先行的に実施されたプレテストでは,問題の質・量ともにこれまでのセンター試験とは大きく異なり,平均正答率が47%と現行のセンター試験の平均点を10%程度下回る結果となった。さらに,プレテストを受験した学校はいわゆる進学校が大半であり,現状のまま施行すればさらに低い正答率となるであろう。受験した生徒の大半は,「解答時間が足りない」と答える,入試制度としてうまく運用させるためにはまだまだ課題がある。そのような中,2019年12月17日に文部科学省は2020年度の共通テストから記述式問題導入を見送ることを発表した。また,今年度のセンター試験数学I・Aでは一部で新傾向問題が出題された。今後の入試改革を見越し,高校数学教員の立場としては,どれだけ生徒が不安なく試験に臨むことができるかを常に考えて授業することが求められる。一方的な教授型の授業だけでなく,「主体的・対話的で深い学び」を保障できる授業へと改善を行い,生徒の「思考力・判断力・表現力」を育成していかなければならないであろう。特に,生徒一人ひとりが受動的に授業に臨むのではなく,初見の課題に出会ったときに,どれだけ自分で考え,チームで相談し,課題を解決しようと努力できるかが勝負の分かれ目であると考えられる。
しかし,どれだけ授業改善を行ったとしても,授業自体の評価は難しく,本当に生徒の「思考力・判断力・表現力」が高まっているかどうかは,なかなか測りづらい部分である。そのため,本稿では,目的の達成を明示するために,生徒にきちんと力がついてきているかどうかを誰もが目で見て分かる「中間考査・期末考査・実力テスト・小テスト」といったテストに焦点を当てた。プレテストの問題の傾向や大手出版社が発刊している問題集及び各種研修会等で学んだことを参考に,共通テストを意識したテスト問題作成に取り組むことにした。問題作成を通して,入試制度が変わるいま,どのような課題に取り組んでいくべきかを明確にしたいとも思う。その中でも特に気をつけたこととしては,「①教員の過度な負担になりすぎない。②テストの時間内に生徒が程よく思考できる問題である。③振り返り(誤答分析)を行い,テスト問題を改善していく。」の3点である。
本稿の構成は以下の通りである。1節では,大学入学共通テストの特徴やプレテストの結果等を引用して,どのような傾向があるかを述べる。2節では,1節で考察した傾向を踏まえ,城ノ内高校数学科教員チームで作成した問題とアンケート結果等を交えて結果の考察を行う。また,2019年7月22日に徳島県立総合教育センターで実施された「大学入学共通テスト対応の問題作成」という研修で学んだことも紹介する。3節では2節の結果や問題作成を通じて感じたことを踏まえて,数学科教員として今後取り組むべき課題を明確にする。
ここでは,大学入試センターが公表している「大学入学共通テストの導入に向けた試行調査(プレテスト)(平成29年11月実施分)の結果報告」をまとめた内容を掲載する。
大学入試センターが問題の作成にあたり,意識したことは
の3つであると示されている。これらのことを通じて知識理解の質を問う問題や思考力,判断力,表現力を発揮して解く問題を全分野で重視し出題されている。
平成29年度実施のプレテストでは平均正答率が30%前後であり,例年のセンター試験と比較すると数学で出題された問題は生徒にとって,あまりにも難易度が高すぎることが分かる。受験者のアンケートでは,「試験時間が短かったと回答したものが約80%,問題の文章量が多かったと回答したものが約90%,問題が難しかったと回答したものが約90%」との評価が得られている。受験者の多くが高校2年生だったこともこの結果に大きな影響を及ぼしている可能性があるが,やはり思考のための時間が足りないことが大きな問題である。特に数学I・Aでは,問題文が非常に多く,全体としての問題数も多いため,生徒の思考力を問う前の段階で差がついてしまう可能性があり,本末転倒になりかねない。
そのような結果を踏まえ,平成30年度に実施されたプレテストでは全体的に読みやすく,得点率も少し向上している。おそらく本番で出題される問題はさらに読みやすく,時間内に最後まで取り組めるような問題が出題されると予想される。
そのため,「生徒がテスト時間内に程よく思考を深めることができるような問題」を対象として研究に取り組むこととした。
また,生徒に「深い学び」とは?というアンケートをしてみた。
生徒たち自身はよく洞察し,「深い学び」について深く考えることができている。上記のことも参考にしながら,問題作成にあたった。
この章では,前節で記述したことを参考に定期考査や実力テストの際に共通テストを意識した問題の作成に取り組んだ。以下のことに留意して掲載していく。
①問題の意図 ②問題を解いてみての生徒感想 ③結果の考察
また,今回の研究では平成30年度および令和元年度の城ノ内高校4,5年生(中高一貫のため)を対象として問題の作成に取り組んだ。本来はすべての問題に対して分析を行うべきであるが,ページ数があまりにも多くなるため,前半3問は問題分析を行ったものを,後半17問は問題とその解答のみを掲載する。
<問題> 問1~問20
2019年7月22日に徳島県立総合教育センターにて実施された「大学入学共通テスト対応の問題作成」という研修において,大学入学共通テストに対応した作問を複数の教員で行った。同じ問題に対しても様々なアプローチ,工夫がこなされており,非常に興味深かったため,各先生方に許可をいただき,掲載させていただくこととした。氏名を伏せて,以下に掲載いたします。
(テーマ)円周率は3.05よりも大きいことを示せ。(東京大学 2003年 理系)
<作問例> A先生~F先生
本研究のテーマである「思考力・判断力・表現力を高めるような問題作成」を振り返ると,無意識の内に,「教科書で足りない部分を補完するような問題」を中心に作成していたことが分かる。教科書や参考書の解説を十分に吟味し,別解はないか等を考える多角的な視野を養うことが思考力・判断力・表現力の育成につながることを指し示しているのではないだろうか。問題作成の中で気づいた思考力を問うための問題の種類を分類すると,次のようなものが挙げられる。
上記のようなパターンがすべてではないと思うが,考えうるものをすべて列挙してみた。これらのパターンをプレテストと照らし合わせてみると,大学入試センター側も上記のようなパターンで出題しているものが多い。特に多いものは,パターン③である。各社が刊行している新入試対策の問題集の多くもこのパターン③である。今回の研究を行う中で,テスト全体の時間配分を考えた際に,パターン④の問題を出題することは不適切であると感じたため,そのような問題をあまり多く作成することができなかったことは反省すべき点であり,これからの入試を見据えて,作問の工夫をし,定期考査に適するレベルであり,かつ「思考力・判断力・表現力」を総合的に評価できる問題作成をすることがこれからのテスト作りに必要なことであると実感した。
一方,メリットも非常に大きかった。
作問にご協力いただいた各先生方に感想をお聞きしたところ,次のようにご回答いただいた。
これらのことからも分かるように,これから取り組むべき課題が多く見えてきた。
また,プレテストでも出題されていたような教科横断的な作問,日常生活の中の事象を数学化し考察するような作問にも挑戦しようと試みたが非常に苦しみ,結局良い問題ができなかったため,今回の発表には間に合わなかったことが非常に悔やまれる。ネタとしてはいろいろありそうであるが,それを問題のレベルまで引き上げてくることは至難の技であり今の自分の実力では難しいと感じた。もしそのような作問をされている先生方がいらっしゃいましたらぜひご教授ください。
みなさんもご存じのように共通テストからは記述式問題が削除されることが決定した。しかし,今後入試制度がどのように変わろうとも揺るがない「思考力・判断力・表現力」を身に着けさせることができるように継続して作問に取り組んでいきたい。