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数学

『思考できる生徒』の育成の授業づくり

広島県立福山誠之館高等学校 実藤 知洋

1.はじめに

新教育課程の学力形成,及び生徒の変容にともない,自律した学習者を育成するための「授業づくり」が急務となりました。実際に現場で感じることは,『思考できる生徒』は学力が伸びる。しかしながら,一足飛びに思考できる生徒(主体的に学習する生徒)を育てることは容易なことではありません。思考できる生徒の育成のために,どのような授業づくりをしたらよいかを思案し,以下の2点について実践してきたことを報告します。

2.思考できる生徒

上記で書かれているように,漠然と思考することは難しく,思考する題材が必要であり,思考するための基礎基本的な力と思考する視点の形成が必要である。

3.基礎基本の定着を図るための授業づくり

2分間の小テスト → 授業(本時の授業内容) → 5分間の確認(振返り)テスト

上記の流れで,50分授業を年間にわたって実践し,次の2点を毎時間意識して取り組みました。

ア 生徒が能動的に受ける授業

イ 生徒の理解度をモニターし,クラスにあったオーダーメイド授業

4.2分間の小テストについて

(1)目的

基礎基本の徹底

(2)キーワード

『スピードと正確性』『復習』

(3)期待される効果

授業の導入に際し脳の活性化を図り,能動的な復習ができる。

(4)事後アンケート

2月末に,2分間小テストに関しての5段階評価と自由記述のアンケートを行いました。

ア 対象  (平成29年度)3年4~7組の発展講座30名

イ アンケート項目

①以前より『スピードと正確性』があがった。

②この小テストは効果があると思うか。

③『スピードと正確性』は『数学の学力』に必要だと思いますか。

④自由意見記述

ウ アンケート結果

①~③については5段階評価を行い,その結果は次の表の通りです。(単位 人)

1思う 2まあまあ思う 3どちらともない 4あまり思わない 5思わない
20 10
28
28

④自由意見は次の通りです。

(5)小テストの事後指導

小テストを1問でも間違えると昼休憩,放課後に追試を実施する。

5.5分間の確認(振返り)テストについて

(1)目的

ア 受動的な学習者から能動的な学習者へ
イ 生徒が自己評価できる
ウ 授業者がモニターできる

(2)内容

本時に扱った内容

(3)方法

ア 生徒は何を見てもよい。また質問をしてもよい。
イ 次時まで採点・添削して返却

(4)成果

ア 具体的な演習によって,生徒が自己評価でき,誤認識を確認できた。

イ 次時にフィードバックでき,再度定着を図ることができた。

ウ テスト結果が授業評価に直結した。

エ 生徒の理解度を毎回把握することで,そのクラスにあったオーダーメイド授業ができた。

6.思考する視点の形成のための授業づくり

(1)生徒目線に立った授業づくり

問題に対して,『どのように解こうか』と生徒に聞く

教科書,参考書等に載って入る解法はシンプルで美しいものである。しかし,現状の生徒の目線から問題を捉えたときに思いつく解法を大切にする。

論理的に破綻しなければ,最後まで付き合う。論理的に破綻したら,その箇所を指摘する。論理的に破綻することなく,答えに行きつくケースもある。

(2)生徒参加型授業づくり

①あえて間違った解答を黒板に書く
②黒板の解法で足りない所を探させる

①何も考えずに黒板を写さないようにさせる。思考しながらノートをとるようにさせる。
→色々な場面で,すぐに間違えに気付くようになる。

②足りない個所を探すことで,黒板にある解法全体を生徒自身がその場で復習することになる。また,見落としがちな場合分けや細かい条件も意識するようになる。

(3)論理的思考の強化型授業づくり

『なぜ』を大切にした授業

定理や公式を鵜呑みにする生徒は多い。そのため,『なぜ』成り立つのかを生徒に聞く。常に『なぜ成り立つのか』という視点を大切にする姿勢を身に着けさせる。
逆に,『なぜ成立しないのか』という視点も重視する。(生徒の発想を大切にする)

(4)数学という教科における思考するための視点の提示

ア 別解の提示
イ 解法の本質の提示
ウ 仮定と結論の明確化

7.数学という教科における思考するための視点の提示の授業づくりの例

(1)別解の提示

思考することが苦手な生徒の1つの特長は,解法は1つであると考えている傾向にある。そのため,初見の問題では思考できず白紙というケースが多い。

別解の提示は「思考する習慣作り」には有効である。数学は自由に発想する教科である。あらゆる分野の知識を用いて題意にアプローチしていくことが重要であり,思考する第一歩である。

例えば,以下の解法が考えられる。
①数学的帰納法
②平均値の定理
③(左辺)—(右辺)と因数分解と数の評価
④1文字固定
⑤a/b=t と1文字へ変換
⑥視覚化(面積による評価)

(3年理系の最上位クラスで,授業中に生徒から出てきた順番に並べています。H29.9.12実施)
*加えて,多面的にアプローチできる問題は重要な解法を多く含んでいるケースが多い。

(2) 解法の本質の提示(その1):分かったつもりを防止

解法を丸暗記する生徒は,「分かったつもり」になっているケースが多い。そのような生徒は,定期考査では対応できても,初見の問題で対応ができない。つまり,分かったつもりでは,思考することができない。思考する習慣を生徒に身に着けさせるためには,1題1題に対して,本質的な理解ができているかを生徒に問う指導が求められる。

有名問題であり,解答は3で割った余りに着目して分類し,証明するのが一般的である。

解法を丸暗記している生徒は,『なぜ,3で割った余りに着目して分類して証明するか』『4で割った余りに着目してはいけないのか』という問いに答えることができない。

(3) 解法の本質の提示(その2): 数学を思考するために必要な知識

ポイントは2点ある。

1点目は本質的な理解できていないと,恒等式に気づかず,何をしていいか分からない生徒が多い。2点目は恒等式だから,具体的な数値を代入して,答えを導いて終わっている解答も多い。十分性の議論がない。

深い学びのためには,数学を思考するために必要な知識が不可欠である。

(4)仮定と結論の明確化

仮定のみから思考する生徒が多い。結論として,今何が問われているのかを把握せずに思考してしまう場合,途中で行きづまってしまうケースがよくみられる。

(H28.9.20実施 2年次の難関大補習(37名受講)実施)

初めは,仮定のみから思考し,全員できていなかった。
途中で,結論の話を指導すると,大半の生徒が最後まで解答できた。

8.成果と課題

(1)成果

全体 最上位クラス
過去4年間の平均(誠之館高等学校) 48.5 58.1
今年度 53.1 62.9(担当)

ア アンケート(平成29年12月実施,3年担当クラス)

(自由な意見)

イ 分析

(2)課題

①受験レベルの問題となると問題数が多くなるため,解法の理解でとまる生徒がいる。近い形の類題の場合は思考し解くことができるが,初見の問題には手が出づらい。思考できる生徒を育成するためには,まだまだ研究していかなければいけない。

②思考する視点の形成のための授業づくりで実際に実施して感じたことは,教員側も数学の圧倒的な力が必要とされることである。まだまだ力がないので,生徒のために勉強していく必要がある。