高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

新しい思考のアルゴリズムをつくる
~多様な学びのかたちを享受する~

佐賀県立致遠館高等学校 山﨑 俊明

1.はじめに

本校は,各学年6クラス240名の高校生と各学年3クラス120名の中学生が在籍する県立中高一貫校です。3期目のSSH指定を受け,理数科を高校の各学年に3クラス設置し,多様な取り組みを楽しみながら行っています。国公立大への合格者は130名程度であり,県内では有数の現役合格率となっています。更に,本校はICTの利活用を積極的に行い,AL(アクティブ・ラーニング)型の授業との相乗効果を狙った教育活動を実践しています。

2.授業のねらい

「外化(externalization)」と「内化(internalization)」の繰り返しによる思考力および理解力の強化を目指しています。また,授業の中にALを組み込むことで批判的思考力,協働的思考力,創造的思考力を掘り起こす事が可能になると考えています。また,学力層毎にクラスを展開することで,生徒の学力に応じた問題を選択する事が可能となります。

学習を苦手とする生徒においては,リフレクション(復習)までを1タームとした学習スタイルの定着を促すような問題を選択することがポイントとなります。次に,アッパー層(上位層)は授業中の発言内容を意識して問題を選択することがポイントの1つです。最後に,最も人数が多いミドル層の生徒は予習,インプット(概念注入),リフレクションのサイクルが回るような問題を選択しておく必要があります。ただし,この層においては,教科書を主とした学習での効果が最も期待できると言えます。

3.新しい教育のかたち

文系(高3生・アッパー層)の授業について

①予習課題(本時の理解を支援する)を学習用PCに配信する。

②黒板に解答を書く生徒を指名する。

③指名された生徒が板書している解答をロジカルな答案となるよう指導する。

④本時の解けるようになるべき問題と教材をPCに配信する。

⑤生徒は指定されたグループに分かれた後に,
個別に問題に取り組む時間を確保する。(図1)


図1

⑥グループワークの時間を利用して理解を深める。(図2)
(この時間を利用して教師への質問ができます)


図2

⑦他グループとの意見交換も可能であり,黒板などを使って相互補完をさせることもある。

⑧最後に,生徒の板書を基に教師による解説を行う。(図3)


図3

理系(高3生・ミドル層)の授業について

この層は,演習中心となります。そのため,紙ベースでの問題を利用しています。

①本時で扱う問題を解くための基本公式,定理,定義の確認を,IWB(電子黒板)を用いて行う。

②グループワークの時間を利用して理解を深める。(図4)
(この時間を利用して教師への質問ができます)


図4

③個人およびグループで発表を行う。(図5)(図6)

図5 図6

④生徒の板書を基に教師による解説を行う。
このサイクルを2回程度を目安に回して解法の定着をはかる。

⑤本時のリフレクション課題と次回の予習問題を指示する。

※IWBには数学Ⅰ~数学Ⅲまでの全ての教科書が入っているのでリフレクションが行い易い。また,インターネットを利用して現実事象を結び付けて学びを深める事ができます。

※使用している写真は学習会での授業風景です。

低学年(高校1年生)での指導

本校の高校1年生のクラスでは,電子化された問題集(自主学習支援アプリ「Libry(リブリー)」の試行版)を利用しています。ICTを利用することで脳をフル回転させ,興味・関心が高い状態を持続させることを心掛けています。

①IWBに電子教科書を投影することで,授業に集中させる。(教科書と参考書を同時にIWBに投影することがあります)

②「リブリー」のタイマー機能を用いて,解答時間を競わせることでモチベーションを上げる。(図7)


図7

③早く終わっている生徒には,IWBに発展問題を提示する。

※類題の多様性を担保することで,「させる課題」から「する課題」へと生徒の態度が変化しました。
より探究心の高い生徒に対しては,放課後に特別指導を実施しています。

4.今の課題と解決の方向性

教育改革の流れを鑑みると外化やALに軸足が置かれた指導を実践することになります。この場合の問題点は,授業時に生徒が解くことができる問題数が減るという事だと思います。そこで考えられる解決策は3つあります。

1つ目は,ICTの利活用だと考えています。卑近な例としては,IWBの利用による授業進度の向上があります。また,類題の提供,視覚的な効果を用いて理解力を促進することができます。

2つ目は,協働的な学習形態です。AL型の授業を通して,違った解法や多様な考え方に触れる事ができます。生徒同士での「外化」と「内化」のプロセスを通して思考が強化されます。

3つ目は,教師による生徒の学力に応じた問題の選択です。生徒の学力層毎に学習目標が異なりますので,最適な問題を選択するためには,今まで以上に教師間の連携が必要になります。加えて,教科の取り組みを「チーム学校」としての取り組みへと高めていくことが肝要です。

最後になりましたが,ICT(ハード)とAL(ソフト)のしなやかな融合により学習効果の向上が期待できると確信しています。小さな学校の取り組みが全国へ貢献できる事を願います。