数列において,具体的なものを扱っている際は生徒の理解度は高いが,「η」という一般性を用いた途端,苦手意識をもつことが多い。問題演習により漸化式から一般項を計算で導き出すことはできるようになったとしても,漸化式を立式することは感覚が掴めず困難なようだ。
そこで今回,「ハノイの塔」を用いた授業展開について紹介する。
数学的な活動を通して,楽しみながら漸化式の仕組みを理解し,立式できるようにすること。目に見える形の教材を用いることにより,具体から抽象への壁が低くなることが期待できる。
漸化式の導入として「ハノイの塔」を用いることが多いが,今回は,漸化式から一般項を求めることを教えた後,漸化式を立式させる観点で実施した。
「ハノイの塔」のルール説明を行う。
ある1本の柱に積み上げた円盤を1個ずつ動かし,残り2本の柱のいずれかに,元の積み上げたものと同じものができるように移しかえる。次の①②のルールに従った際,最も少ない回数で移しかえたい。何回で移しかえることができるか。
生徒用に準備した「ハノイの塔」を配布する。今回の授業では厚紙を大きさ違いに正方形に切ったものを円盤として準備した。
まず,円盤が1枚の場合,2枚の場合は教員が前で見本を見せる。次に3枚の場合を生徒に実験させ,答えさせる。7回との答えは容易に得られる。そして,4枚の場合は実験させる前に予想を立てさせ,なぜそのように予想したのかを書かせてから実験を行う。これを5枚でも同様に行い,最後に円盤がη枚の場合を考えさせる。η枚の円盤を移す回数をαη回とし,漸化式を立式させる。
(η+1)枚を考えさせる際に,次のような例を見せると考えやすい。
例えば4枚のとき
①上の3枚を移すのに7回
②一番下の1枚を移すのに1回
③その上に最初に動かした3枚を移すのに7回
4枚を上の3枚と一番下の1枚に分けて考えることがポイントとなる。これを理解させた後,円盤が(η+1)枚の場合を考えさせると分かりやすい。
(η+1)枚を上のη枚と一番下の1枚に分けて考えることができれば,
αη+1=αη+1+αη
∴ αη+1=2αη+1
と表すことができる。
αη+1=2αη+1 ⇔ αη+1+1=2(αη+1)
より,数列{αη+1}は,初項α1+1=1+1=2,公比2の等比数列なので,
αη+1=2・2η-1=2η
∴ αη=2η-1
(η+1)枚をη枚と1枚に分けて考えることが理解できれば,漸化式を立式できる。
生徒は楽しみながら取り組み,積極的に考えることができていた。多くの生徒は円盤が4枚,5枚の場合の回数の予想は正解しており,予想を立てた理由として,4枚の場合は,①3枚のときの回数を2倍して1を足した,②24-1を計算した というものが多く,それは円盤が1~3枚の場合から数字を見て計算法則を導いたものだった。そこで,3.(2)展開 のように3枚と1枚に分け,漸化式の考え方が分かるようにしたところ,①3枚のときの回数を2倍して1を足した という予想を立てた理由を書いた生徒は,自分の考えの根拠がしっかりと掴めたようだった。
数列を苦手とする生徒は多い。その原因は,公式に頼ってしまい,「η」という文字のもつ意味をしっかりと捉えられていないからだろう。η項目なのか,項数がη個なのか。細かな点を丁寧に指導していくことが大切である。そして,抽象化することの素晴らしさを感じてもらうためにも,意欲的に取り組みやすい目に見える形の教材の導入を行い,一見難しそうに見えるもののハードルを下げることで,より深い理解へと繋がる。