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数学

数学Ⅱの絶対値を含む領域の指導について

大阪府 常翔学園高等学校 杉田 佳一郞

1.はじめに

数学Ⅱの領域において,単に直線の上側・下側,円の内側・外側は直感的にも理解しやすいが,ここに絶対値は含まれると理解できない生徒が多かった。

グラフの対称性や平行移動を利用することによって生徒の反応が良かったので紹介します。

2.ねらい

絶対値を含む領域において,複雑な場合分けがグラフの対称性を利用することによって比較的簡単に理解できるようにする。

3.授業展開

3年生の数学演習での授業であるため,すでに2年生で基本的な事は理解していた。そこで,導入部分では場合分けによって図示する指導を行う。

この指導後に,複雑な場合分けが必要な演習問題を提示し,グラフの対称性を利用することで理解を深めることを目的とする。

4.指導内容

(例題1)   1 ≦ | x | + | y | ≦ 3

ここで,1 ≦ | x | + | y | ≦ 3の不等式において,
xを-xとおき換えても同じ不等式であるのでy軸対称
yを-yとおき換えても同じ不等式であるのでx軸対称
であるので,原点に関しても対称である。

したがって,上記(i)のx≧0,y≧0の領域を図示することによって,その対称性により(iv)が図示されることが可能である。

(例題2)不等式 x+y≦ | x | + | y | を満たす領域を図示せよ。
                            小樽商大

(例題1)をふまえた上で,この不等式を満たす領域は,
x軸,y軸,原点に関して対称なので
x≧0,y≧0 すなわち第1象限のみを図示すると

この段階で生徒達は絶対値を含む不等式の領域ではグラフの対称性を意識するようになった。

(例題3)不等式 1 ≦ || x | -2 | + || y | -2 | ≦ 3の表す領域をxy平面上に図示せよ。
                                      大阪大

(例題1),(例題2)をふまえて

で場合分けをするのは大変だと気づき,かつx→-x,y→-yとおきかえても同じ不等式であるので,グラフ対称性を利用しようと考える。

ここで  | x | -2, | y | -2 の処理についてどうするかを考えた。

1 ≦ | x-2 | + | y-2 | ≦ 3と考えると,ここで平行移動を用いた。

すなわち x≧0,y≧0において
1≦x+y≦3を考え,対称移動させた後,
x軸方向に2,y軸方向に2平行移動した。

この領域をx軸,y軸,原点に関して対称移動させる。

この際,まず空白部分を移動させてから図示するほうがわかりやすいことも生徒から学んだ。

5.生徒の様子

最初に生徒達が「絶対値=ややこしい」と感じていたのが,
逆に|x|,|y|・・・対称移動

x-2,y-2 ・・・平行移動とすることで問題文に親しみを感じた様子となり,効果を実感した。

6.終わりに

絶対値への苦手意識,また入試問題も数年の流れの中で変化していることに気づく一過程としては良かったと感じている。

拙稿をお読みいただき,ご教示下されば幸いです。