3年生のセンター対策の授業ではプレゼンテーション方式をとっている。一人ひとりが担当する問題を与えられ,担当した子どもたちは,その子なりに言葉を選び,説明し,質疑応答を受ける,という形態である。今回は,その中でグループ学習および全体討論の中で議論させることによって,子どもたちが持っている「言葉(語彙)」に対する理解がどのように成長していくか,について考えてみたい。
【問題】
関数が極値をもたないとき,定数の値の範囲を求めよ。
Aさんの解答および説明の概要は以下の通りである。
(解答)
判別式D/4=
極値をもたないということは,判別式D≦0となればいいので,
よって …(答)
(説明の概要)
まずを微分して,の範囲を求めたいので,判別式を作ります。
極値をもたないということは,判別式D≦0となればいいので,
この式が成り立って,それを解くと が答えとなります。
質疑応答では次の2点がでた。
(1)なぜの範囲を求めたいときに判別式を使ったのか。
(2)極値をもたないときに,なぜ判別式D≦0となればいいのか。
Aさんなりに工夫して説明をしようとしていたが,そもそも判別式というものの捉えが弱いため,言葉を変えながら何回と説明をしても多くの子どもたちの理解にはつながらなかった。そこで,(1)「判別式」という言葉をどのように子どもたちが理解して(知って)いるのかを確認および再理解するために,グループ学習を導入し,議論させた。
発問は「判別式とは何か?」。
~出てきた意見~
・D ・ ・範囲を求めるもの ・2次関数で使う
・D/4=
・を求めるもの ・2次方程式で使うもの ・グラフで使うもの
・2次方程式の解の公式の中にある式
・D>0のときは解をもつ,D=0のときは重解,D<0のときは解がない など
グループでの議論およびそれを全体での討論とする中で,5分以上経過し,ようやく2次方程式および解の公式との関係性,2次方程式の解の個数,が子どもたちの言葉から出てくるようになった。
本来であれば,「判別式とは○○で…」などと,まとめたいところではあるが,そうせずに,次の発問へと続く。次の発問は「なぜ極値をもたないとき,判別式D≦0となればいいか」。発問のハードルが少し高いと判断し,補題として「次の3つのグラフ(1) (2) (3) をそれぞれ書く中で極値を持たない条件を考察せよ」の発問を続けた。
~出てきた意見~
・極値って何? ・極値は山と谷 ・最大値と最小値
・(3)は=0が解けないけどどうすれば…
・ が2個解をもつときに山と谷ができる など
これは,10分以上の議論が経過し,ようやく の解の個数と極値との関係性が少しずつ子どもたちの中で出てきた。
以上をふまえた上で,質疑応答の(2)について各グループで議論し,グループなりの解を得させた。
~出てきた意見~
・2個解をもってはいけないから
・極値をもたないということは,1個か0個しかダメだから
・極値をもつということは2個答えがでてくるということだから
・極値をもたないということは, のグラフが接するか離れているから
・極値をもたないということは, の解の個数が1個か0個だから
極値をもつということと の解の個数の関係性や,2次方程式の解の個数と判別式の関係性,もしくは2次関数と軸の関係と判別式との関係性について,子どもたちなりの解釈が成長した感がうかがえた。
3年生にもなって判別式の捉えが全く弱いということに対するこちらの鍛え方の弱さを反省するとともに,子どもたちの言葉を積み上げることによって,子どもたちなりの解釈の成長が見られることの新たな発見があった。しかしながら時間は有限であり,現実に差し迫った「入試」というものから逃れることはできないため,「こちらが整理・説明して終わり」となってしまうことが多い。ただ,子どもたちが「課題にぶちあたったときにどう乗り越えるか」という視点に立ったとき,それぞれの子どもが持っている知識や知恵をぶつけ合うことで,課題克服への道を新たに創造する,という経験はとても大切なのではないか。そう考えたとき,私は「数学」という授業を通して,少しでも「議論することで理解が深まる」「議論することで道が開ける」という経験をさせたい。