主体的・対話的で深い学びを実現するための授業について構想するとき,単元全体を見通して,育成したい資質・能力を明確にすることが必要であると考えます。
本実践は,2分野「動物の体のつくりと働き」について単元構想し,その中から「運動器官のつくり」について実践した授業について紹介します。本実践は,他の単元においても適用できるように,単元構想シートの枠組みから研究したものです。「単元計画」では,各項目でどのような探究の過程をたどるのか,また,その過程で実現させたい主体的・対話的で深い学びの要素が生徒の具体の姿でわかるように示しました。「本時の指導」では,授業を構想するときに,主体的・対話的で深い学びを実現するための教師の手立てがわかるような構成に仕上げました。
本単元は,「第2分野(3)生物の体のつくりと働き」の中の一部である。この大単元では,生物を学びの素材として,生物の観察,実験を行い,細胞レベルで見た生物の共通点に気付いたり,生物の体のつくりが生命を維持するための働きと関連していることを見いだしたりする過程をたどりながら探究する。植物と動物を比較して共通点,相違点について分析して解釈し,その見方や考え方を働かせて探究することを通して生物について総合的な理解を深めさせ,生命を尊重する態度を育てることがねらいである。
この大単元は,「生物と細胞」,「植物の体のつくりと働き」,「動物の体のつくりと働き」,の三つの中単元からなっている。「生物と細胞」において,まったく異なる生物であるように見える植物と動物を細胞レベルで見たとき共通する点があることに気付かせる。次に「植物の体のつくりと働き」「動物の体のつくりと働き」では,それぞれの生物について,生きるための働きを維持するために体は巧妙なつくりをしていることを見いださせ,植物と動物の相違点を実感させることのできる構成となっている。
本単元では,それぞれの小単元において,「課題の把握」「課題の探究」「課題の解決」の過程を経ることで,比較したり,関連付けたりする見方・考え方を働かせて探究させる。この過程を繰り返すことで,見方・考え方が広がり,科学的に探究するために必要な資質・能力を身に付けさせることができる。さらに,この探究の過程の中で,日常生活に見られる道具やものの中に,生物のつくりや働きが生かされていることに気付かせることで,自然の事物・現象を科学的に探究することの面白さや有用性にふれさせることができる価値ある単元である。
知識及び技能 | 思考力,判断力,表現力等 | 学びに向かう力,人間性等 |
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動物の体のつくりと働きとの関係に着目しながら生命を維持する働き,刺激と反応について理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付ける。 | 動物のつくりと働きについて物質交換の視点,そのつくりと働きの関係性の視点で捉え,総合的に関連付けて説明することができる。 | 動物の体のつくりと働きに関する事物・現象に進んで関わり,科学的に探究しようとする。さらに,動物のつくりと働きの巧妙さにふれ生命を尊重しようとする。 |
動物の体のつくりをその働きと関係付けながら探究する。
時 | 学習 内容 |
主な育成すべき資質・能力 | 主な評価の 観点と(方法) |
学習過程において重視する での要素 |
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1 |
消化と吸収 |
食べたものが体の中でどのような役割をはたすのかを想起させ,小学校で学習した学習内容を基に仮説を設定しようとする。 |
態度 (ワークシートの記述分析) |
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2 | だ液によってデンプンが分解されることを観察,実験によって見いだすための検証方法を立案する。 |
思考力 (ワークシートの記述分析) |
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3 | だ液によってデンプンが分解されることを観察,実験によって見いだすことができる。 |
技能 (ワークシートの記述分析) |
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4 | いろいろな消化酵素のはたらきにより,それぞれの成分が吸収されやすい物質に分解されることを説明することができる。 |
知識 (小テスト) |
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5 |
呼吸 |
全身の細胞がエネルギーを必要とし,細胞内で養分から取り出していることを説明することができる。 |
知識 (小テスト) |
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6 | 血液によって,全身に運ばれた養分と酸素はエネルギーを取り出すために利用され,二酸化炭素や不要物ができることを説明することができる。 |
知識 (小テスト) |
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7 |
血液 |
流れる血液や血管のようすを肺循環,体循環と関連付けながらとらえることができる。 |
思考力 (ワークシートの記述分析) |
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8 | 血液成分のそれぞれのはたらきについて物質交換の視点をふまえて説明することができる。 |
思考力 (ワークシートの記述分析) |
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9 |
排出 |
体の中に取り入れられた物質がどのように変化していくかを各器官のはたらきと関連付けて説明することができる。 |
思考力 (ワークシートの記述分析) |
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10 |
刺激と反応 |
草食動物と肉食動物の目のつき方,消化器官の長さの違いを把握し,その意味を生活のようすの違いから説明できるようになる。 |
判断力 (ワークシートの記述分析) |
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11 | 感覚器官とその刺激を関連付けて説明できるようになる。 |
知識 (小テスト) |
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12 | ヒトの神経系が脳とせきずいと末しょう神経からなることをとらえ,それぞれのしくみについて説明できるようになる。 |
知識 (小テスト) |
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13 | 刺激を感覚器官が受けとり,反応が起こるまでの経路について説明できるようになる。 |
知識 (小テスト) |
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14 本時 |
骨格と筋肉のはたらきによって,動物の体が動いていることをいくつかの例を挙げて説明できる。 |
思考力 (ワークシートの記述分析) |
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15 | 単元の |
動物の消化,呼吸,血液循環,外界の刺激に対する反応,排出にかかわる器官について物質交換の視点でとらえ,総合的に関連付けて説明することができる。 |
表現力 態度 (ワークシートの記述分析) |
知識及び技能 | 思考力,判断力,表現力等 | 学びに向かう力,人間性等 |
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骨と筋肉のつくりをその働きとの関係に着目しながらとらえるとともに,それらを探究するための観察,実験などに関する技能を身に付ける。 | 骨格と筋肉のはたらきによって,動物の体が動いていることをいくつかの例を挙げて説明できる。 | 骨格と筋肉のはたらきに関する事物・現象に進んで関わり,科学的に探究しようとする。 |
骨と筋肉がどのようにつながっているかに着目し,その働きと関連付けながら探究する。
過程 | 主な学習の流れと子どもの学びの姿 | 教師の指導の手立て | |
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導入5分 |
1.骨と筋肉のはたらきについて疑問を見いだす。 |
〇骨と筋肉の模型を見ながら,小学校4年生で学習した既習事項を基に,新たな疑問を見いださせる。「腕を上げて,どの筋肉を使いましたか?」と尋ねる。腕や指を曲げさせてどこの筋肉を使っているか,考えさせることで多様な意見を引き出し混乱させ疑問を持たせる。 |
主体的な生徒の姿 |
2.めあてを設定する。 |
〇めあてが生徒の言葉から引き出せるような発問をする。 |
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めあて 「体が動くしくみを説明できるようになる。」(生徒から引き出した言葉で表現する。)
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展開35分 |
3.骨と筋肉のしくみとそのはたらきについて仮説を個人で設定したのち,班で意見交換する。 |
〇骨と筋肉のしくみとはたらきについてあらかじめ個人で仮説を設定させ,班で意見交換させた後複数の班に発表させる。 〇骨と筋肉のつながる場所(けん)についての仮説を立てることができるよう次のような介入をする。 ◆割りばしとゴムを,筋肉を「考えるヒントにしましょう。」と言いながら渡す。 ◆骨と筋肉のつながる場所について接する隣の骨に筋肉がついていることに気付かせるため鳥の手(手羽先)を見せる。 |
対話的な生徒の姿 |
4.骨と筋肉のしくみとそのはたらきについて検証実験を行う。 5.結果の処理と考察を行う。 |
〇他者とのかかわりの中で自分の考えをより妥当なものにしたり改善策を考えたりたりすることができるよう机間指導しながら意図的な介入をする。 |
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6.考察したことを表現する。 |
〇より説得力のある表現ができるよう,図で表したり,ポイントをしぼったりして表現するよう指導する。複数の班に発表させる。 |
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終末10分 |
7.本時を振り返る。 |
〇まとめを提示し,ノートに記入させる。 |
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まとめ「筋肉は関節をはさんで複数の骨につき,たがいに向き合うようについた筋肉がちぢんだりゆるんだりすることで動いている。」 |
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8.適用課題に取り組む。 |
〇班の仲間と共に適用課題へ取り組む。 |
深い学び | |
(適用課題例)
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知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
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〇行動観察 | ◎ワークシートの記述分析 | 〇行動観察 |
板書の一部
骨と筋肉のつながりを確認している
考察したことを発表している様子
割りばしとゴムの思考ツール
割りばしとゴムで検証している
この授業は,同僚の先生方に参観していただき,様々なご意見をいただきました。理科が好きな生徒も苦手意識をもっている生徒も主体的に取り組む姿が見られたこと,対話したくなるような課題設定ができていたことが成果として挙げられました。授業の終末で「この仕組みってクレーンやショベルカーの仕組みに利用されている。」と子どもたちのつぶやきの中からでてきたことこそが,深い学びを実現できた証拠であったのではないかという意見もいただきました。
単元全体を見通して授業を構想するにあたって,今回紹介した「単元構想シート」を活用することが有効であることを実感しました。