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理科

紫芋粉を用いた化学変化の導入

札幌市立常盤中学校 濱塚 尚蔵

1. はじめに

本実践は,2学年物質領域「化学変化と原子・分子」の1章「物質の成り立ち」の導入として行ったものである。日頃から,学習そのものに対して積極的な生徒があまり多くないと感じており,理科に関しても自ら手を伸ばして課題に取り組む場面は少なく,目的意識をもっていない生徒もいる。ただ,実験そのものには興味・関心をもち取り組む生徒は多くいると思うので,実験の中から新たな課題につながるように思考が広がっていくことを期待して,本実践を計画した。

2. 本時のねらい

本単元は,化学変化についての観察,実験などを通して,見通しをもって解決する方法を立案するとともに,原子や分子のモデルと関連付けながらその結果を分析して解釈し,化学変化における物質の変化や量的な関係を見いだして表現する力を養うことが主なねらいである。

本題材では,課題解決のために具体的な計画を立て,いくつかの手法を試みることをねらいとする。また,その結果から新たな課題を自ら見いだすことで,目的意識を明確にした,次につながる思考のプロセスを作りたい。本時の次に行われる炭酸水素ナトリウムの熱分解の実験では,検証方法の意義を理解できずに実験に臨む生徒が多いと過去に感じていたため,前段階の導入を工夫したいと考えた。食べ物という身近な存在に対しては,普段あまり化学が関わっていると意識している生徒は多くない。そこに焦点を向けさせることで興味・関心を引くとともに,探究的な学習につなげていくことを目標とする。

3. 授業の流れ

(1)本時の目標

・パンケーキ作りを通して,化学変化に対する興味をもつ。

・炭酸水素ナトリウムを入れて加熱すると,どのような変化が起きているかを推測することができる。

(2)本時の流れ

流れ ○生徒の活動 ・教師の関わり

つかむ
(10分)

○2つの失敗例を観察し,どのような失敗なのか理解する。
(膨らんでいるけど緑色,紫色だけど膨らんでいない)

・紫芋粉を使用してパンケーキを作ろうとしたら失敗してしまった。失敗例を2つ紹介する。

・どうすれば紫色でふわふわのパンケーキになるか考えるように促す。

【学習課題】
紫色でふわふわのパンケーキを作るにはどうすればいいのだろうか。

実験観察
(35分)

○試行錯誤しながら,紫色でふわふわのパンケーキを作る。

<予想される実験>

○炭酸水素ナトリウムを入れず,別のもので膨らむものを探す。(砂糖,炭酸水など)

○炭酸水素ナトリウムを入れ,色を変えるものを探す。(レモン汁,オレンジジュースなど)

・失敗作に用いた材料や分量を紹介し,実験の参考にするように促す。

<用意しておくもの>
水,炭酸水素ナトリウム,砂糖,牛乳,レモン汁,酢,スポーツドリンク,アルカリイオン水,オレンジジュース,炭酸水

交流
(45分)

○実際に作ったパンケーキを情報カードとともに,前に並べる。

○試した実験結果からわかったことを,ホワイトボードを用いて発表し合う。

【課題解決の姿】
パンケーキは炭酸水素ナトリウムを用いると膨らみ,紫色にするためには酸性の物質を入れるとよい。

・発表内容を整理する。

・アントシアニンによる色の変化を確認する。

次時に向けて
(50分)

○炭酸水素ナトリウムが関係していたことを確認し,なぜ炭酸水素ナトリウム入りだと膨らむのか考える。

○観察したことや予想したことを交流する。

・加熱していた時の変化を想起させる。

【次時の学習課題】
炭酸水素ナトリウムを加熱すると,どのような変化をするのだろうか。

(3)本時の評価

・パンケーキ作りを通して,化学変化に対する興味をもつことができたか,実験の様子から評価する。

・話し合いの様子やワークシートから,炭酸水素ナトリウムを入れて加熱すると,どのような変化が起きているかを推測することができたかを評価する。

4. 授業のようす

◎生徒に提示した失敗例


左:紫色だが膨らんでいない
(水のみ)

右:膨らんでいるが緑色
(炭酸水素ナトリウムと水)

◎自分たちで混ぜるものを選んでいる生徒たち


用意されたものの中から好きな物を選んで入れる。

液体は2種類以上混ぜないことがルール。

◎できあがったものを情報シートとともに,並べる生徒たち


並べるときには「紫色○,ふわふわ○」,「紫色○,ふわふわ×」,「紫色×,ふわふわ○」,「紫色×,ふわふわ×」,の4つのグループに分類する。

並べる際に,他の班の結果を見たり,実際に触って膨らみ具合を確認する姿もあった。

◎各班の考察の一部

5. 実験の内容

①ビーカーに紫芋粉入りの小麦粉を入れる。

②紫色でふわふわのパンケーキを作るのに必要だと思われるものを入れて,よく混ぜる。
※液体を2種類以上混ぜない。

③混ぜたものをアルミカップに入れて,加熱前の様子を観察する。

④ガスバーナーの弱火で加熱する。

⑤加熱後の様子を観察したあと,実験情報カードとともに前の机に並べる。

6. まとめ

【成果と課題】

・化学の単元の最初の時間として,多くの生徒が興味をもつことができる単元導入となり,次時へとつながるものになった。

・自由度が高く,生徒が試行錯誤を繰り返しながら探究する姿が見られた。

・「ふわふわ」や「膨らむ」ということの定義を明確にしていなかったので,生徒が「これは膨らんでいるのか」と悩んでしまった。

・最初に提示した失敗例の条件をもっと明確にすることで,見通しをもって実験を進めていくことができたのではないかと感じた。