宇大附属中では,これまでの研究で,生徒が妥当性を探る訓練をすることで,内発的価値だけでなく,利用価値や成功期待に関しての動機づけが高まり,成果の向上につながるのではないかという仮説を立てた。その上で毎日の授業づくり・実践を行っている。今年度は,「事実をもとに共に妥当性を探る力の育成」をテーマとして,研究を進めてきた。
今,生徒に求められている力は,教科の内容を確認し覚えるだけでなく,他教科も含めた既習の知識や概念,科学的なデータを基に,持続可能な社会を構築しようとする資質・能力である。本時では,得られた情報と既習事項とを活用し,対話的な学びを通して,深い学びにつなげたいと考えた。
前時に,生徒同士の対話などを通して「乾燥帯に植物を根づかせることはできるか」という学習課題を設定した。さらに,知識構成型ジグソー法による協働的な学習を行い,個人や班の意見をまとめることができた。
本時では,これまでに学習したペルティエ素子を用いて,乾燥帯において植物を生育することができるのかどうか,発表役と聴き役に分かれて話し合い活動を行い,意見の妥当性を検討し自分の考えをまとめさせようと考えた。その中で,乾燥帯に関して,社会科で学習した事項を積極的に活用させると同時に,植物の分類,植物の生育条件,飽和水蒸気量曲線を利用して空気中から水滴となって表れる水蒸気量の算出をさせたり,太陽光や半導体素子を利用した発電等について考えさせたりすることで,既習の様々な単元を総合的に活用させることができると考えた。本授業を通し,多面的な視点に立って様々な解決策を考えさせたり,それを根拠とともに発表させたりすることで,妥当性を探る力を身に付けさせたい。また,再生可能なエネルギー資源の開発の必要性や,エネルギー資源を有効に利用する方法の開発などを,より身近に感じられるような展開にしたい。
【自然事象への関心・意欲・態度】
【科学的な思考・表現】
おおむね満足 | 「十分満足」の一例 | 努力を要する生徒への支援 |
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・データを科学的に分析し,自分の考えの根拠を示すことができる。 |
・データを科学的に分析し,自分の考えを,具体的に根拠を示しながら説明をすることができる。同時に他の人の意見に質問をするなどして,自分の考えを比較することができる。 |
・机間指導をしながら,グループで協力できるよう,質問できる雰囲気づくりに努めたり,グループ内での発言の機会を与えたりする。 |
具体的目標 | 学習活動 |
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1 これまでの学習を振り返り,本時の学習内容を確認する。
乾燥帯に植物を根づかせることはできるか?
・ペルティエ素子を用いることで,現在までにうまく活用できていないエネルギー(乾燥帯でいうと砂漠に降り注ぐ太陽の光エネルギーや地熱)を,有効利用することができないか。 |
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○本時の課題に対して見通しをもち,主体的に学習に取り組む。
○調べた資料をもとに,科学的な根拠に基づいて考え,表現する。
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2 各班で知識構成型ジグソー法による学習後の個人での考えを基にして,班で話合い活動を行い,ホワイトボードへ発表資料をまとめる。 ・論理に矛盾がないか確認する。 ・発表資料には,班名,メンバー,資料の出典,結論を必ず書く。 |
○活動に積極的に参加をする。
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3 4人グループのうち,2名がグループに残り発表する(説明する)役割を担う。残りの2名は他の班の説明を聞き付箋に記入する。
付箋の色
青色 「よくわかったこと」 |
○振り返りを通じて,自分の思考を整理し深めることができる。
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4 他の班の発表を聞いたことを踏まえて,振り返りを行う。 ・新しく得られた情報 ・他の説明を聞き考えたこと |
5 教師の話を聞く。(まとめ) ・今回,乾燥帯という現在住んでいる環境とは異なる場面の想定であったが,自分のこととして捉えてもらいたい。 ・今回扱ったペルティエ素子は,使われていないエネルギー資源の有効な利用方法の1つであり,次回は他の有効な利用方法について考えてみよう。 ・今後もエネルギー資源を有効に利用する場面を考える必要がある。 |
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6 感想をプリントに記入する。 |
2時間の学習活動を通して,生徒たちは活発に話し合い活動に取り組むことができた。(図1)。
図2に話し合い活動の際に使用したホワイトボードでの説明例を示す。今回の授業では,「できる」と考えている生徒が7割,「できない」と考える生徒が3割であった。生徒が調べた内容をみると,少ない水でも育つ植物について詳しく調べている班,ペルティエ素子を活用する際に,太陽光発電システムを使いエネルギーを循環させようと考える班,また集めた水を貯蔵しようと考える班があるなど,多種多様な意見があった。他の班の説明を聞き自分たちの考えとの相違に気づき,認め合う場面もあった。
今回は,ペルティエ素子を利用し,空気中の水分を利用して植物が育つための水を確保するという設定であったが,乾燥帯で考えることよりも,熱帯雨林のような気温が高く,湿度の高い地域で使用することの方が実用的ではないかという考えの生徒もいた。テーマを越え,より実用化ができる地域を模索しようとする姿勢が印象に残った。
今回の実践では,義務教育の最終年度である生徒たちに,必要となるデータを班で協力しながら集め,そのデータを基に現実社会において実現可能かどうかを判断する,研究の面白さを伝えたいという思いがあった。本授業・単元をきっかけとして,進学や就職後にも何らかの研究に携わる生徒が一人でも増え,将来日本の科学技術を支えてくれる人材となることを願っている。