本校3年生の伝統行事として,30年以上継続して実施されている和歌山市加太町の城ヶ崎海岸での磯実習の取り組みを紹介したい。
4名1チームの班活動で,テーマ設定から必要な器具の用意,事前学習と,磯実習後のレポート作成まで協力して行っている。伝統的に一貫した取り組みとして確立しているが,この取り組みは昨今話題の「主体的対話的で深い学び」そのものではないかと考えている。
磯実習の実施日は,潮汐表を見ながら干潮時間が昼ぐらいになる4月下旬から5月上旬で設定している。城ヶ崎海岸の磯で潮が引きながら2時間程度実習をして実習終了が干潮時間になるのが理想的である。なお,雨天時は須磨海浜水族園の見学に変更され,これまでのテーマ設定等すべて白紙になってしまう。
磯実習までの取り組みは,2年生から始まる。2年生3学期最後の理科の授業で,磯実習の様子の写真やビデオを見せて,概要を説明し,春休みの課題としてワークシートを課している。内容は「『磯』という言葉にはどんなイメージがあるか」,「『磯』とは具体的にどのようなところかをまとめよう」,「『磯』にすむ生物を調べて,名前や簡単な説明」,「『鬼の洗濯板』と呼ばれる地形について調べる」の各項目である。
最低1時間は確保するが,それ以上の時間が確保できる場合は,食物連鎖や潮の満ち引きについて学習をしたり,過去のレポートを見て評価させる年もある。
磯実習実施日から逆算して7時間分,週4回の理科授業の内週2回を事前学習にあてている。
①テーマ設定の説明,班員の役割分担(班長・用具2名・記録),テーマ設定用紙の配布
②班のテーマ設定,カウンセリング
③テーマ設定の続き,テーマ決定次第事前学習
④事前学習,必要な用具の希望調査
⑤事前学習,必要な用具の確定(数量調整)
⑥レポートの書き方,当日の持ち物等説明
⑦当日の班での持ち物の確認,事前学習内容の班内での交流
磯実習の目的として
・海岸(磯)生物の生態を探る。(潮間帯の生物と環境)
三圏の接する場所における生物と環境の関係を現地で学ぶ。
・和泉層群の堆積の様子を探る。(砂泥互層の堆積環境と古生物)
数千mに及ぶ厚さを持つ和泉層群のでき方を現地で推察する。
を掲げている。
それをもとに「今回の磯実習の目的に合っているか」「自分たちの調べてみたいことか」「1時間半程度で調べられるか」「危険なことは伴わないか」「レポートとしてまとめられるか」を満たすテーマを考えさせている。テーマ設定の際は,各班に参考図書やiPadを配布しており,テーマが形になった段階で教員とのカウンセリングを経て正式決定としている。
過去の研究テーマは以下の通りである。
班で分担して,研究テーマに沿うかたちの下調べを行っている。4人班で内容が被らないように相談させている。この事前学習と前出の春休み課題のワークシートはレポートに綴じさせて,個人評価で採点している。
バット,ルーペ,ピンセット,ヘラ,トング,解剖はさみ,サンプルびん,温度計など理科室にあるもので貸し出しできるものは相談の上貸し出している。城ヶ崎海岸では,アメフラシやヒトデが多く生息しているので解剖をする班もいるが,メスは使用させず解剖はさみのみとしている。
磯の岩場を歩くことがはじめての生徒が多いので,はじめの十数分はほぼ全員怖々で生き物を見つける余裕も全くない状況であるが,徐々に磯の生物を発見し歓声が聞こえてくると,各班勢いづいていき本格的にテーマに沿った調査活動をはじめ出す。アメフラシなど生き物を触ることも恐る恐るだった生徒がどんどん大胆になっていく様を見ると,毎年ながら興味深いものがある。
当日の教員の体制であるが,3年の学年教員団はもちろんであるが,アドバイザーとして非常勤講師を含めた全理科教員がこの行事に帯同する。授業を担当していないで生徒の名前と顔が一致しない場合もあるが,そのような教員にも生徒たちは積極的にアドバイスを求めてくるのは微笑ましい限りである。
磯実習後は,班でのレポート作成である。班で協力して,研究テーマに沿った結果と考察をまとめていく。まとめの作業は授業内では時間保障していないが,提出までの期間を1ヵ月設けてじっくりと作業してもらうようにしているが,その間に体育大会や修学旅行があるために,1ヵ月でもタイトな日程のようでバタバタと各班作業をしている。
結果と考察については,班単位での評価として,前出の事前学習や課題の個人評価と合計した点数を磯実習のレポート評価点として採点している。
提出されたレポートは,当日の映像とともに文化祭で教科展示として出展している。これは予告もしているので,毎年魅力的な表紙のレポートが仕上がってきて,内容とともに楽しみにしている。
3年生の出だしの7時間が本来の授業内容とは違う取り組みで消化されてしまうのは,カリキュラム的には正直苦しいところはある。しかし,「主体的に」班で協力してテーマ設定し,「対話的に」確認し合いながら活動し,レポート作成時の考察で学びを「深める」ことができる機会をもうけているこの取り組みはすばらしいものであり,今後も継続して実施していきたいと思っている。