全国学力・学習状況調査小中学校報告書によると,エネルギーまたは物理領域,とくに電気単元の正答率が低い。
電気単元の理解が難しいことの原因の1つに,「見えない」ということがある。そこで,可視化した教材を提示することによって,概念形成の助けになるのではないかと考え,電流回路を可視化した「ビー玉モデル」を作製し,それを導入した授業を行った。
(1)電流回路を可視化した,より分かりやすいモデルを提案すること。
(2)新しいモデルを活用することにより,電気単元の理解度を向上させること。
抵抗・電流・電圧・電池の概念学習教材として「ビー玉モデル」を作製した。水流モデルや粒子モデルはこれまでに多く報告されているが,その多くは電流学習用教材であったり,大がかりであったりする。
今回は,簡便かつ抵抗・電流・電圧・電池のすべての概念をイメージできることを考慮して作製した。材料は,100円ショップやホームセンターで手に入るような身近な素材である。
ビー玉を持ち上げるための装置として,バンダイ社製のスペースワープという玩具の一部を利用した。この玩具は単2電池で動くが,スピードが制御できないため,理科室にあるような電源装置または手回し発電機をつなげた。
斜面の部分には,抵抗をイメージさせるために,配線レールの溝に,三角柱のひごを短く切ったものを貼り付けた。導線を意味する平らな部分には,段差はない。
ビー玉が一つ放たれると,連鎖的に押し出されるようになって,最後の一つが戻ってくる仕組みである。このことは,自由電子をイメージさせるのに活用できる。
図1.ビー玉モデルの構想図
写真1.ビー玉モデル
中学2年生の電気単元の導入として,2コマ(100分)の授業を行った。
通常の授業では,抵抗や電圧はあとで実施するが,今回は初めに実施した。事前事後調査を行い,抵抗・電流・電圧・電池の概念について学習前後での比較,知識理解の定着度について検証した。
調査結果から,乾電池の+極と-極から電気が流れ,豆電球で衝突して光っているという,いわゆる「衝突説」が2番目に多い,ということが分かった。しかし,生徒が誤解しやすい図であったため,問題を修正して再度授業前と後に質問した。その結果,正答者数が2名増えただけで,衝突説は依然としてクラスの約半数を占めており,誤概念の変容は難しかった。電気のように目に見えない現象では,このような誤概念をもちやすく,具体物を示せないために,指導が難しいと感じる教師が多いのではないだろうか。
つぎに,電気概念の変化について述べる。 表1の上段は,電圧について知っていることを質問した結果を示し,下段はイメージについての結果である。この表から,授業前には,よく分からなかったり,無回答が多かったりしたが,授業後には無回答はなくなり,電圧は高さであるというイメージをもっている生徒がクラスの約半数に増えたことが分かった。
図にはないが,電流や電気抵抗,乾電池の概念についてもイメージができる生徒が格段に増えた。しかし,その内容について見ると,乾電池では電池の形そのものの図であったり,実験で使用した用具そのものを描いていたりしたので,理解しているとはいえない。
表1.電圧概念の変化(値は人数)
アンケート調査の結果から,児童生徒の多くが電気単元を難しいと感じ,教師も生徒に理解させるのが難しいと感じていることが分かった。
その対策として,ビー玉モデルを開発し,提案した。その結果,電圧の概念形成に有効であることが分かった。
しかし,電流の衝突概念はあまり変わらなかったので,そのことに留意して繰り返し指導していく必要がある。さらに,モデルの簡素化をし,個別化する必要もある。
<参考文献>