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理科

すべての生徒が主体的に実験考察するために
~ホワイトボードとライティングシートを効果的に活用した実践~

徳島県名西郡石井町石井中学校 久米 輝

1.はじめに

私は指導の際に,生徒に実験を通して考察する力をつけ,その楽しさを伝えたいと考えている。生徒が1年生時に理科意識アンケートをとると,「理科が好き」と答えたのは73.9%,「実験するのが好き」と答えたのは92.5%であった。しかしながら「実験結果をもとに考察するのが好き」と答えた生徒は47.2%にとどまった。さらに「授業中に発表するのが好き」と答えたのは19.3%と低かった。このことから,実験は好きではあるが,結果について深く考えることができる生徒が少ないことが課題であることがわかった。

2.実践のねらい

アンケートからもわかるように,理科や実験は好きであるが,自ら考えたり,自分の考えをまわりの人に伝えたりすることには消極的な実感がある。その一方で「友だちの意見を聞くのはおもしろい」と答えた生徒は67.1%であった。そこで生徒が自ら考え,伝える機会を増やしたいと考えた。そして実践を通し,生徒に考察して伝える能力を身につけさせ,その楽しさを感じ取らせることを目標とした。その手法の一つとして,実験考察のときに,ホワイトボードとライティングシートを効果的に活用した実践を紹介する。

3.実践のポイント

(1) 班編成

実験の班編成を以下の6点に留意して行った。

  • ① 可能な限り男女混合にすること
  • ② リーダーとなる生徒の配置
  • ③ 理科が得意で,発表も得意な生徒の配置
  • ④ 理科は得意だが,発表が苦手な生徒の配置
  • ⑤ 理科は苦手だが,発表が得意な生徒の配置
  • ⑥ それぞれの人間関係にも配慮すること

この班編成にしたことで,実験結果について正しい意見だけではなく,その意見に対して疑問を投げかける場面が増えた。また,実験が失敗したときには,その原因を深く考える場面が見られた。

(2) ライティングシート(60cm×80cm×25枚) (株)光和インターナショナル

班での考察は,1年生時には,A3用紙やホワイトボードを使って行っていたが,大きさが不十分であった。そこで,サイズも大きく,経済的なライティングシートを使用することにした。このシートはマーカーとティッシュペーパーを使えば,ホワイトボードのように,字を書いたり消したりすることが容易に行える。生徒はホワイトボードを使っているとき以上に,多くの意見を書くことができていた。本実践では,ライティングシートを個人で考察させるときと,班で考察させるときに使用した。

(3) 班での考察と発表の仕方の工夫

ライティングシートを使って班で考察するときは,班員が書いたそれぞれの意見を消さず,赤や青のマーカーを使って囲んだり,つないだりするようにして,まとめるように指導した。自分の意見がまとめに生かされるので,一人ひとりが自分の意見が大事にされていると実感できると考えた。班の結論はホワイトボードを使ってまとめさせた。このことで,ライティングシートに記入した班員の意見を振り返ることもできた。

発表はホワイトボードに記入した発表内容を,実物投影機を使って大型テレビに映し出して行った。発表内容も事前に班内で相談させた。この発表方法を行うことにより,発表する姿勢や内容の向上につながり,他の班の発表を聞く姿勢も大変よいものになった。

4.授業実践例

ライティングシートとホワイトボードの活用の具体例として,本県の理科研究大会での実験内容を紹介する。本実験では,一人が一つの実験をして,なおかつ安価で準備することができるように工夫した。(実験道具は,無料で手に入る物と百円ショップで購入して準備)

実験内容は,皮膚の感覚点である,温点冷点を調べるものである。生物は,刺激の種類によって感じる感覚点の数が異なる。そのことを実験結果から気付かせ,感覚点の数の違いの理由について,自らの今までの体験や知識をもとに考察させて,表現させた。

温点・冷点探し実験器具として,フィルムケースを使用し,直径1.2mmの銅線10cmをフィルムケースのふたに通した。フィルムケース内に入る銅線の部分を図のようにらせん状にすることで,熱伝導の効率を向上させた。また,銅線を通したふたの部分にシリコンシーラントを使用して,お湯や水が漏れるのを防いでいる。また,アルミ保温シートをフィルムケースに巻くことで,お湯や氷水の温度変化を防ぐことができる。温点と冷点を測定するには測定する面積と数を一定にする必要がある。今回の実験では,鉢底ネットを使用した。温点と冷点を測定する穴の数は,4×4個の計16個で行った。

この実験の前の授業で,温点・冷点はどちらが多いかを予想させた。授業のはじめに,班の予想とその理由について,発表させた。その後,実験の流れを伝えて実験を行った。実験の際に,レポートに数を書かせたり,班員の数も記入させたり,他に何か気づいたことをメモするように指導した。実験後,器具の後片付けを行い,考察できるスペースを確保した。

考察では,まずライティングシートを班員の真ん中に置き,なぜ実験結果のようになるのかを個人で考察させた。時間としては,5分~7分程度とった。ライティングシートには,気づいたことや,今まで習ったことなど,とにかく多く書くことを指導した。あまり意見が出ない班には,ヒトとして,その数の違いによって都合のいいことがあるのか,どんなことに役立つのかを考えさせた。次に班での討論を行った。班長が赤や青のマーカーをもって,いい意見を丸で囲んだり,ラインで結んだりして,班員の意見をまとめさせた。時間としては5分ほどとった。ライティングシートでまとめた内容を,発表用として,ホワイトボードにまとめた。この時間は5分程度とった。最後に各班の結論を発表させた。発表が終わった後,教師から温点・冷点についての解説を加えて授業を終えた。

5.成果と課題

3年間持ち上がりで生徒たちを担当できたので,ライティングシートとホワイトボードを使った実践についての効果を追いかけることができた。効果の確認のために,2年生の2学期と,3年生の1,3学期にアンケートを行った。授業中の発表については,「授業中よく発表した」では,1年生時が16.8%であったのに対し,2年生時では43.6%,3年生時には,66.7%と格段に向上した。さらに「授業中発表するのが好きだ」と答えた生徒が,1年生のときは19.3%であったのに対し,2年生時には31.7%まで向上した。

また,「授業中友だちの意見を聞くのはおもしろい」という生徒は,2年生時には87.1%であり,3年生時では83.1%となり,これらの発表に対する生徒の意識が向上したという結果は,ライティングシートとホワイトボードを使用して実験考察をした成果だと考えている。

また,「ライティングシートを使うことで,使う前より考察するようになった」と答えた生徒は2年生時には87.1%となり,3年生時には91.0%となっていた。さらに「実験レポートの考察を考えるのが楽しい」と答えた生徒が,2年生時には,39.6%,3年生時では62.9%となった。その考察内容についても,1年生時より,しっかりと考察されているものが増えたように思う。これらの結果から,ライティングシートを使うことで,主体的に実験考察を行い,伝える能力が身についたと考えられる。

そして,3年生3学期に行ったアンケートでは,ライティングシートのいいところは何かという質問をした。すると,「みんなの意見が見えるからいい」という意見が最も多く見られた。また,「自分の意見が認められやすい」との意見もあり,ライティングシートに書かれた自分の意見が消されずに残されることと,自分の意見が班の結論に反映されることで,生徒一人ひとりに自己肯定感が育まれたと考えられる。

次に多かった意見としては,「実験の考察をまとめやすい」で,次いで「考察がしやすい」が多かった。また,「自分だけでは,よくわからなかった実験でも,考察のときに他の人が色々な考えを書いてくれているので,実験について理解しやすい」や,「頭に深く残る」や,「みんなの意見を線で結んだり,図を使っていたりするので,わかりやすくまとめることができる」,「結果は同じでも,なぜそう考えたのかが,班によって異なっていたり,同じであったりしたところが楽しかった」などの意見もあった。

さらに,「ライティングシートを使うことで,自然現象のことを考えることが増えた」と答えた生徒が77.1%となり,理科の授業だけではなく,日常生活で見られる自然現象にも目を向けて考える楽しさを感じる生徒が増えたと考えられる。また,ライティングシートの考察だけで終わることなく,ホワイトボードを組み合わせて発表することで,「言葉だけで発表するよりわかりやすい」と感じたのは,2年生時には95.0%で,3年生時では97.6%となっていた。以上のことから,ライティングシートとホワイトボードを使った考察の有用性が示された。

ライティングシートとホワイトボードを使う実践での課題は主に2点である。1点目は,考察から発表まで時間がかかることである。そのため,時間配分を考えないと,全部の班の発表までを1時間の授業におさめることができない。

2点目は全ての実験においては使えないということだ。実験によっては,その答えがすぐに出てしまい,考えを深めることができない。そのため,教師があらかじめ本実践に向く実験かどうかを検討する必要がある。

ライティングシートを使った実験は,2年生では,●銅の炎の中での還元,●水の電気分解,●痛点・圧点,●温点・冷点,●回路の各点の電流と電圧の測定,●炭素を使った酸化銅の還元である。3年生では,●塩酸の電気分解,●指示薬の色を変えるもの(pH試験紙を使った電気泳動),●塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の中和で実践した。

6.おわりに

本実践により,一人ひとりの意見が尊重されるような考察方法が生徒たちに定着してきた。大切なことは,一人ひとりが自信をもって,自分の意見を発表できることだと私は考えている。考察すること,発表すること,発表を聞くことを通して,生徒は自ら考察して伝える能力が身につき,考察する楽しさも実感できると考えている。今後も,生徒が生き生きと主体的に取り組むことができる実験や授業を目指し,研究を続けていくつもりである。