最近,タブレットPCなどのICT機器を活用した授業が注目され,さまざまな授業実践事例が報告されています。その中には,生徒自身がタブレットPCを囲み,操作しながら話し合いを行う事例や,プレゼンテーションソフトでスライドを作成して発表するといった事例も報告されており,ICT機器の活用の幅が徐々に拡がりつつあります。
一方で,実際の現場においては,機器の整備が不十分だったり,機器があっても上手く活用できていなかったりする場合が多いのではないでしょうか。
今回は主にデジタルカメラを活用した理科の授業実践を報告させていただきます。「今さらデジカメ?」とお思いになるかもしれませんが,今や誰でも持っていて,操作も簡単なデジタルカメラを活用することで,最新のICT機器を使用できることと遜色ない効果が期待できます。
デジタルカメラ(以下デジカメ)は,今やほとんどの学校に普及しており,その操作方法や機能については一度触れてみれば誰でもわかるものです。デジカメを授業で活用するためのポイントは以下の通りです。
○ 画像,動画を保存・再生できる
ボタンひとつで画像・動画を記録できます。実験の手順から結果までを画像や動画で残したり,ワークシートを撮影して発表のスライドを作成したりすることができます。プロジェクターに直接つないで,大画面ですぐに再生することもできます。
○ メモリーカードでデータのやりとりができる
デジカメのメモリーカードで,保存データをPCに移動してデータの管理ができます。
生徒が保存したデータをPCで管理しておくことで,次時の指導や,評価材料に活用できます。
○ 持ち運びが便利である
教室や理科室はもちろん,屋外にも持ち運びができるので,理科の様々な単元で活用できます。
以上のポイントを踏まえて,普段の授業でどのように活用していくのか,具体例を挙げながら説明いたします。
私は授業の時にデジカメを常備しています。机間指導の際,生徒のワークシートやノートをデジカメで撮影すれば,すぐにプロジェクターで大画面に出力し,意見の共有ができます。投影されたプリントを使って生徒に説明をさせたり,多くの生徒の意見を次々に投影して見せたりすることもできます。
プロジェクターに電子黒板の機能があるものであれば,投影された自分のスケッチに書き込みをさせながら,気づいたことなどを発表させることができます。もし生徒のスケッチが特徴を捉えたものであれば,そのスケッチを使って教師からの解説を行います。
こちらで用意した資料や図版よりも,生徒の成果物を活用して授業を進めることで,生徒は興味を持って授業に参加することができます。
また,動画機能を使えば,生徒の作業過程を撮影して,全体に共有することができます。1年「光による不思議な現象」で,凸レンズで出来る像を作図する作業があります。この作業は,直線や平行線を描く作業があり,正確に描くには定規の当て方などにコツが必要です。そこで,机間指導の際に作業の上手な生徒の手元をデジカメで動画撮影し,その動画を見せながらポイントを解説します。動画は一時停止も可能なので,停止した状態の動画に電子黒板の描画機能で書き込みを入れて説明することもできます。
この方法は,グラフを描いたり図を描いたりする場面など,手元の作業を見せたいときに有効です。
生徒が班ごとに行う実験や観察では,班ごとに1台のデジカメを渡します。
そのデジカメの活用方法を1年「凸レンズでできる像」の実験を例に説明します。
1年 「凸レンズでできる像」
① 実験
まず,実験前にデジタルカメラと班ごとのメモリーカードを配布します。
実験を行っている最中に,その実験の結果を撮影させます。結果を撮影させる際,実験の手順に沿って撮影すること,実験の結果がよくわかるように視点に注意することを指導しながら撮影させます。
またそのとき,実験中に気づいたことや小さな発見も動画や画像で撮影するように指導しておきます。
実験が終わったら,取り損じた画像や必要のない画像は削除させます。
② 授業準備
教員がメモリーカードを回収し,各班の画像をPCに記録しておきます。その際,次時の考察で利用できそうな画像や動画があればピックアップしておき,ワークシートに載せたり,解説の際にプロジェクターで投影したりする準備をしておきます。
③ 結果のまとめ・発表準備
導入で教師が前回の実験の動画を投影しながら実験の目的や手順を振り返ります。班ごとにデジカメとメモリーカードを配布し,前回撮影した画像や動画を見ながら実験の結果を確認し,まとめます。
④ 発表
発表では,実物投影機にメモリーカードを差し込み,撮影した画像を投影しながら説明させます。そのとき気づいたことや発見があれば,その時の画像や動画を再生しながら説明させます。
⑤ まとめ・解説
教師が生徒の発表資料と画像を投影しながら解説します。また,他クラスの授業での発表や気づきで良いものがあれば,その画像や動画を投影して紹介します。
授業終了後,生徒の発表資料は画像で保存しておき,評価に活用します。
今回紹介した実践は一例で,ほぼすべての単元で活用できます。ICT機器というと,何か難しいもののように感じますが,誰でも操作できるデジカメを活用した授業であれば,すぐに実践できると思います。
私はデジカメを活用した授業を実践したあと,PCにカメラがついて持ち運び便利なタブレットPCや,画像に書き込みができる電子黒板,また,動画や様々な提示資料が盛り込まれたデジタル教科書など,さまざまなICT機器に興味を持ち,授業に導入しています。
これからICT機器を使ってみたいという先生も,使ったことが無い先生も,ぜひICT機器活用の第一歩としてデジカメを授業に取り入れてみてください。