電流が磁界から受ける力の原理については,単なる説明で終えてしまうことが多い。しかし,今回ご紹介する授業では,磁界の強弱を,生徒自ら「磁界の強め合い,弱め合い」「磁石による磁界や電流による磁界」などの既習の知識や「磁界の調べ方(鉄粉や方位磁針,磁気プローブ)」などの習得した技能を駆使して,磁石と電流を流したコイルを組み合わせた実験装置を用いて実験し,磁界の強弱を視覚化して得られた結果から,電流が磁界から受ける力の原因を見出すことをねらいとした。
課活用させる課題 重視するプロセス(◎科学的現象を推測するプロセス ●結論を結びつけ解釈するプロセス ◆探究過程や学び方を活用するプロセス◇科学を応用,環流する力)矢印は学びの機能(啓林館「未来へ広がるサイエンス」による)
本単元を通して,学びの機能の面から,以下の点に留意した。
一つ目は,学びの連続性を意識した単元構成を工夫した。理科を学ぶことの意義や有用性を体感させるためには,単元での学習内容に日常とのかかわりを見出すことや学習全体のストーリー性が重要である。そこで,章の学習内容にあわせたブースに,スピーカーやモーターなど電流を利用した装置や学習にかかわる教材を用意し,モジュール形式での導入を行った。
二つ目は,既習事項とのつながりに気づかせる支援を行い,課題解決に役立つという経験をさせる。生徒が学習内容を継続的に記録し,自己の変容を見取れるような学習シートを用いる。教師は記述内容から生徒の気づきや疑問,学習のつまずきを把握し,次時の授業構築に生かせるような工夫をした。学習の内容を振り返ることで学習前の疑問が解決し,さらに新たな疑問に対してもより良い課題の解決方法を考えられるようになるなど,自己の変容を感じることで,次の学習への学習意欲を高めるきっかけとしたことである。
三つ目は,個人で考えたことを他者に伝える言語活動の場面を設定することで,相互の考え方の修正や整理に役立つ体験を多く取り入れたことである。これらは,生徒が自ら他者との関わり合いを求めるような学び合いの環境づくりにつながると考える。本時でもこの学び方を活用させて,課題解決に向けた思考の深まりを期待した。
1 目 標
2 展 開 *は本時における教師の見取るべき事柄
流 れ | 探究的思考力のはぐくみ | 生 徒 の 活 動 | 教師の関わり |
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前時の確認 |
類推するた
めの思考力 |
・前時までの学習内容を扇風機が回転する様子や分解したモーターの磁石やコイルから確認する。 ・コイルが動く,規則性を確認する。 ・なぜ磁石と電流が流れるコイルには力がはたらくのか ・学習課題をたてる |
・これまでの学習を想起させる。 ・学習課題把握のための発問 |
つかむ |
【学習課題】コイルが動くとき,磁界の中でどのようなことが起こっているのだろうか
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推測する
プロセス 学び方を
活用する プロセス |
・力がはたらく理由を既習事項から予想する。 ・予想について他者の考えを参照する。 ・予想を確かめる(検証実験の)ためにどのような方法にするとよいのかを既習事項をもとに考える。 ・磁界の中でコイルに電流を流した時の磁界がどのようになっているかを表わす。 |
*自分の考えを既習事項を用いて表現できているか。 ・実験方法の確認(磁気プローブ,磁界視覚化教材) ・検証実験に必要な物品を配布する。 |
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調べる |
・実験結果を班でまとめてホワイトボードに記録する。 |
・既習事項の説明教材も使用させる ・発表者の立ち位置,声の大きさを指導する。 *結論を既習事項や科学的な言葉を適切に用いて導き出しているか。 ・身近な電気製品に目を向けさせる。 ・次時の学習課題につなげる助言 |
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交流する |
結論を解釈
していく プロセス |
・結論を既習事項や検証実験の根拠に基づいて説明する。 ・班で考えたことについて発表を行う。 |
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まとめる |
【課題解決の姿】
磁石がつくる磁界と電流がつくる磁界の強め合い・弱め合いを考えると,強め合っている方から弱め合っている方に(電流は)力を受けることを理解している。 |
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立ち返る |
身のまわり
の事物・現 象に環流す る力 |
・電流が磁界から受ける力を利用した身のまわりの電気製品を考える。 ・モーターやスピーカーの仕組みについて考えていくことを伝える。 |
3 評価
・目に見えない磁界を視覚化するために
・フレミングの法則説明器 |
・スピーカーを分解し,磁石とコイルからできていることを確認 |
◎本時の実験装置
本時では,既製品のコイルの磁界観察用の実験装置にU字磁石を組み合わせたものに,ラミネート加工したシートを重ねたものを考案し,使用した。実験成功のポイントとしては,使用するU字磁石は消磁するなどして磁力がかなり弱い物を使用することが必要です。写真の装置では,抵抗を入れず2A程度の電流が流れるようにするとはっきりとした模様が出ていました。なお,実験の際には,生徒への火傷や感電などの指導を十分にして実験を行いました。
<成果>
<課題>
電流の利用は我々の生活にとって身近な事柄であり,現代の生活には欠かすことができない。身近な電気製品や家庭や社会での電気の利用について認識させ,その原理についてできるだけ実感をともなった理解をさせたいと考えている。また,本単元の学習が第3学年理科や技術科での「エネルギー変換」の学習とも関連することも意識しながら学習を進めることを考えた。今後も,学ぶ意欲を高め,探究的思考力を育む授業の構築に努めたい。
参考資料