中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

学ぶ意欲を高め,科学的思考力を育む「音」の授業

横浜市立新羽中学校 澤井 孝一

1.はじめに

理科好きを増やしたい。理科の授業を通して人を育てたい。そう思いながら日々教壇に立っているが,なかなか思い通りに理想の教育は進まない。追われてばかりの多忙な現状の中で心がけているのは「コンパクトにインパクトのある授業」。シンプルに生徒を楽しませること。そして学ぶことや考えることの楽しさを実感させること。勉強は楽しいものだと思い込ませたいと願っている。

今回ご紹介する授業もそんな思いの中で,身近な教材の利用と簡単な工夫で基礎的な物理概念を学ぶ展開を考えたものである。生き生きと学ぶことができたようすをご報告する。

2.授業実践例

(1)1年生物理単元「音」の展開

小項目 内容 教材
第1時 音の性質

実験① 「音の正体を探る」(10種実験)

考察 音はどのようなときに出るのか考える

結論 音は物体の振動によって生じる

ホラ貝

音の正体を探る教材

第2時 音と振動のようす

実験② 「音と振動のようすの関係を調べる」(モノコード)

考察 振動のしかたと音の大きさや高さとは,どのような関係があるのか考える

結論 音源の振幅が大きいほど音は大きくなり,振動数が多いほど音は高くなる

手作りモノコード

(ティッシュboxやバットに太めの輪ゴムをかける)

第3時 音の振動と波形

実験③ 「音の大きさや高さと弦の振動との関係を確認する」(オシロスコープ)

考察 波形と音の大きさや高さとは,どのような関係があるのか考える

結論 振幅と振動数が波形で表現できる

PCオシロスコープ

ゴムロープ

第4時 音の伝わり方

実験④ 「空気が音を伝えることを調べる」(真空容器)

考察 一方の音さの振動がもう片方の音さにどのようにして伝わっていったか考える

結論 音は波として,いろいろな物質の中をすべての方向に伝わる

調理用真空保存器

糸電話

魚洗鍋

第5時 音の伝わる速さ

実験⑤ 「音の伝わる速さを調べる」(音速測定)

考察 音の伝わる速さから考える

結論 音は空気中を約340m/秒の速さで伝わる

打上花火の画像

校庭での手旗あげ

(2)第1時と第3時での工夫点

〔第1時〕

○インパクトのある導入

ホラ貝の音を教室に響かせ,「この音の正体は何だろう?」と問いかける。安いものでも2万円位するが,インパクトは抜群である。

○興味・関心を高める,音の正体を探るための教材

①ストロー笛

手軽に作れる手作り楽器

②ワイングラスハープ

水の量の違いで音階がつくれる

③塩の振動模様

ボールに黒ビニールを張り,食塩を広げて声をぶつける

④オタマを叩くと鐘の音色

骨伝導の原理で,大きな鐘の音に聞こえる

⑤中華鍋のしぶき

魚洗鍋といわれる金属鍋,コツをつかめば水が高くはねる

⑥糸電話

古典的だが奥が深い。経験のない生徒が結構いる

⑦風船電話

糸電話の糸の代わりに細長い風船を利用する

⑧カリンバ

アフリカの楽器。安価なキットがある

⑨ミニ音叉

ギターのチューニング用の小さい音叉(440Hz)700円程度だが,いろいろな場面で活用できる
シャーレに入れた水に浸すとしぶきが上がる

⑩何でもスピーカー

黒板や窓ガラス,ゴミ箱,机など吸盤がつくところならスピーカーになる。2,000円程度で入手。携帯音楽プレーヤーと組み合わせておけば,どこでも簡単に利用できる。貼り付けたモノが振動するのを直接感じることができる

○言語活動の充実のための付箋紙の活用

「考える」「話し合う」「整理する」「発表する」といった 4つの活動を少人数で展開する取り組みが考えられる。そこに付箋紙の特性を効果的に用いることで,より主体的・創造的な学習へ発展させていくことを考えた。

〔第3時〕

○学ぶ意欲を高めるための導入の工夫

最初の発問として,「音は目で見るにはどうしたらよいか?」と問いかける。

<予想する答え>「楽譜で表す」

音の正体と音を決める要素を思い出せる→「音の正体は振動,高さと大きさがある」
「楽譜はそれらが表れているだろうか?」

音の高さ → 音階  音の大きさ → ???  (音の長さ → 音符)
→ オシロスコープの波形の紹介

○科学的な概念を理解して,課題を解決するために必要な科学的な思考力をはぐくむ

〔弦の振動〕  〔オシロスコープの波形〕

<自転車用ゴムロープを利用し,振動のようすと波形の意味を理解させる>
振動するゴムロープの中心に目立つような印をつけ,その点がどのように動くのかをよく観察する。速い動きと遅い動きの違いを表すには,時間軸のある波形がふさわしいことを理解する。

○ICT機器を活用して,課題や科学的な概念の理解を深める

小さな画面しかないオシロスコープでは,全生徒に見えるようにするには難しい。大画面テレビや電子黒板を利用し,コンピュータのソフトでオシロスコープを画面表示すればよい。

いくつかのフリーソフトが出ているので,利用方法によって使い分けるとよい。コンピュータを操作するのに,プレゼンテーションマウスを使う。無線でマウスが簡単に操作できるので,生徒に対しながら展開できる。(価格は1万円前後)

○話し合いを通して,結果を分析,解釈,説明することで,思考力・表現力をはぐくむ

オシロスコープの波形と音の大小,高低の関係を理解するために,班ごとに話し合い,考察していく。考えやすいように,あらかじめ4つのパターンの波形を用意する。それらの波形と音の関係を考えさせる。振動数と振幅に注目させる。発表活動も行い,言語活動の充実につなげる。

(3)第3時の具体的展開

学習項目 学習内容 教師の支援・留意点


(10分)
自ら学ぶ意欲を高めるための導入の工夫

○本時の目標の確認

○音を視覚的にとらえる方法を考える。

○音は波形で表示できることを理解する。

○波形は振幅と振動数で表されることを理解する。

○教室に引いた長いゴムロープを振動させて,波形との関係を説明する。



(35分)
ICT機器を活用して,課題や科学的な概念の理解を深める
演示実験

○様々な音の波形をオシロスコープ(コンピュータ)に表示してみる。

○音の特徴と波形のようすの関係に注目させる。

話し合いを通して,思考力・表現力をはぐくむ

○記録・考察

○音と波形の関連を班で話し合い,特徴をとらえる。

○様々な音で,波形のどの点が変わってくるのかを大まかにとらえさせる。

○音の大小,音の高低を変えた4つパターンについて,波形の記録を配布する。

○実習・考察

○音の大小,音の高低を変えたオシロスコープの波形を分析して,どのような音なのかを考察する。

○記録・発表

○考察した結果を発表する。

○発表を元に結果を確認する。

○考察・話し合い

○音の大小と振幅の関係,音の高低と振動数の関係について,オシロスコープの波形と関連することを見いだす。

○見いだした関係をホワイトボードにまとめて,発表する。

○波形のどの部分が振幅や振動数を表しているのかを確認する。

○波形を表示するよう助言する。




(5分)
科学的な概念を理解して,科学的な思考力をはぐくむ

○本時のまとめ

○音の大小と振幅の関係,音の高低と振動数の関係について,波形との関連を確認する。

○1時間の内容を振り返る。

3.おわりに

音に関する学習は全5時間の展開である。音の正体をつかみ,音の伝わり方や音の速さを知り,音の大小・高低と振動の関係を理解する。毎回,実験と話し合い活動を中心とした展開により,大変動きのある授業となった。意欲的に実験に取り組む姿や活発な話し合いが多く見られた。各自のレポートにも,気づきや発見が数多く記されたり,深く鋭い考察に驚かされることが多かった。また,自己評価の欄では自分のよかった点を表現するようにしているが,自慢げに書いている生徒が多く,しっかりと学習に取り組み,楽しく学べたようすが表れていた。

導入の工夫や身近な教材を活用して興味・関心を高めること,一人一人が考える時間を確保すること,話し合いと発表の機会を多く設けることなど,少しの展開の工夫で授業のようすは大きく変わる。今後も学ぶことの楽しさが実感できる授業の構築に努めたい。