理科の授業では,観察・実験活動を中心に思考を重ね,表現することを通して知識理解へとつなげている。また,直接体験できない事象を扱うことも多く,視聴覚教材やモデル化された教材を活用した授業も重要なものとなっている。
また,観察・実験活動には正しく行うための技能の習得,観察や記録をするためには正しい視点の学びが必要となる。さらに,他者の観察・実験の結果や考察をもとに思考を深めていく協働学習の展開も重要である。
これらの学習活動を日々の授業で効果的に実現するための一つの方策としてICTの活用が挙げられる。
ここでは実物投影機,液晶プロジェクター,デジタル教科書を用いて,的確な指示・説明が可能となる授業実践のいくつかを紹介します。
<学習内容>「顕微鏡の使い方」
・ ホワイトボードを用いた提示方法について
観察実験器具を用いた授業では,器具そのものの利用方法だけでなく,資料の扱い方など事前にポイントとなる内容を生徒に伝える必要がある。技能面だけでなく観察の視点や安全面での配慮など多岐にわたる。
上の写真はホワイトボードをスクリーンとし,液晶プロジェクターを用いて教科書を映しているところである。
大きく映し出して提示するだけではなく,書き込みをすることで,生徒に対してより的確な指示を出すことができる。
また,生徒に配布したワークシートを映したり,教卓上を投影したりすることで実物を用いた説明が容易になり,実験観察活動などの際に,準備物などが容易に確認できる。(生徒を前に集めたり,拡大コピーしたりするなどの手間がない)黒板に貼り付けるタイプのスクリーンもあり,普通教室でも利用できる。
<学習内容>「微生物の観察」
・ コリメート法による撮影と表示について
次の写真は顕微鏡を用いた微生物の観察を行ったときのものである。ここでは光学式顕微鏡の接眼レンズにコンパクトデジタルカメラのレンズをあわせて撮影した。
顕微鏡などの観察器具を用いた授業では,観察している対象が正しいものか,適切な状況(倍率など)で観察できているか等を確認する必要がある。資料集などの写真と同等の試料であればよいが,必ずしもそうとは限らない。そこで,生徒が観察したものを撮影し,全体に提示することを行った。
デジタルカメラは各社から様々なものが販売されているが,接眼レンズに直接あてがうだけで撮影は可能である。また,カメラのズーム機能も利用することで,より実際の視野に近い状態で撮影することができる。
ここで,撮影後の画像をスムーズにプロジェクターや大型テレビに投影できるかが重要なポイントとなる。今回はwi-fi機能を持つメディア(デジタルカメラに入れるSDカード)を用いて,撮影後に数秒でPCに自動転送されるよう設定した。ワイヤレスで自動的に転送されるため,授業を止めることなく展開でき,同時に多くの記録をとることもできる。このことによって生徒は「何を見ればいいか,どこを見ればいいか」がわかる。微生物の顕微鏡観察では,ピント位置の間違い(レンズやプレパラートの表面のほこりやキズにあわせてしまう)や,気泡を微生物と勘違いするといったことがよくある。そのたびに生徒は「先生!これは何ですか?」と声を上げることが多い。このような場面で,間違いや勘違いという体験を共有することができるため,効率よく観察に入ることができる。
また生徒の机の上のものを全体へ表示することもでき,個々の生徒のスケッチや実験結果などを教室全体へ提示し,情報を共有化できるだけでなく,生徒の発表を容易に行うこともできる。
<学習内容>「メンデルの実験」
・ 実証実験と表計算による集計
この単元では,減数分裂の際に雌雄の遺伝子がそれぞれ2分され,受精を通して組み合わせられるという「分離の法則」を学ぶ。その結果,優性形質の純系と劣性形質の純系の孫の代には優性形質対劣性形質が3対1となることを学ぶのである。
この内容では,実物を観察し現象を捉えることは難しい。生徒の理解としては,記号化された遺伝情報の組み合わせを考えるという操作的な定義付けのみとなってしまう。
そこで,この現象をモデル化し,検証する活動を行った。
ケースに対立形質を表す2種類の玉を同数ずつ入れたものを準備し,そのケースを雌雄として各グループに2つずつ配布する。生徒二人一組となり,それぞれが雌雄の役を分担し,ケースから無作為に玉を1つ取りだし,優性の法則から現れる形質を記録するのである。
これを数十回繰り返したものを各グループで集計するのであるが,この段階ではサンプル数が少ないため,3対1から離れた結果が出ることも少なくない。また,単純な計算の繰り返しはこの学習で注力して取り扱う内容ではない。そこで,各グループの記録をクラス全体のものとなるよう表計算ソフトを用いて集計した。また,他クラスの結果もすべて記録した。生徒はグループの記録が入力されるたびに,集計結果が3対1に近づくことに驚きの声を上げ,他クラスの結果もあわせることでより高い精度で検証することもできた。簡単な活動ではあるが,体験的な定義付けを行うことができた。
生徒の感想をみると,操作的な定義づけのみの段階では「環境によっては3対1にならないのでは?」といった考えが多くみられたが,本授業後では「一部の結果だけみるとずれているように見えても,全体を見ると3対1になることがわかった」「AaとaaならAが半分出てくるから1対1になると思う」といった考えが多くを占めるようになり,理解が進んだことがわかる。
<学習内容>「生命の連続性」デジタル教科書の活用
デジタル教科書は,単に教科書が画像化されているだけではなく,動画やアニメーションといったインタラクティブな教材が多く,教育効果が高いと考えられる。ペン機能による書き込みも容易にでき,生徒に観察の視点をはっきりと伝えることができる。
理科の学習では,可能な限り実物を観察・実験するべきである。しかし,学習内容によっては困難な場合がある。このような場合に視聴覚教材を用いることはよく行われている。デジタル教科書では適切な教材が提供されているため,教材研究の時間も短縮することができる。特にアニメーションの画面を操作することによって現象をシミュレーションできる教材は,条件を変えての発問に利用できる。たとえば,細胞分裂の様子では,繰り返し順番を確認することができる。右の教材はクリックすることで円の中の遺伝子が入れ替わるものである。交配するときの遺伝子の組み合わせを変え,何度でも発問して繰り返し思考する場面を設定することができる。デジタル教科書は便利である反面,生徒にとって「見ただけ」で終えてしまうような使い方にならないように配慮しなければならないが,教科書と同じ画像であるため,復習の際にも追体験しやすく,デジタル教科書を用いるメリットとなっている。
<学習内容>「化学変化とイオン」簡易ホワイトボードの活用
近年,学習用端末などを用いて,個々の生徒やグループの考えなどを表示するといった場面が紹介され始めている。協働学習の1つの形態ではあるが,このような学習は,機器が導入されていないからできないというものではない。
1年生の学習で,金属と酸の反応を学習している。そこで,イオンの概念を学習した後で,マグネシウムに塩酸を加える実験を演示した。見えなくなってしまったマグネシウムはどこにいってしまったのか?グループで協議させた時の様子が右の写真である。
グループで協議した結果をポリプロピレンのシートにホワイトボードマーカーで記入させ,教室の前の黒板に貼り付けた。様々な考えが出てきて,他のグループの考えを共有する中で思考を深めることができた。各グループが教室前の黒板に書き込みにくる時間を省略できるだけでなく,このシート上で個々の考えを表現し合い,まとめることができた。また,このシートは静電気で張り付くため,容易に提示でき再利用もでき便利であった。
このような活動は従来からよく行われてきたもので有効な手法であるが,各グループからの集約に工夫が必要となる。最近,タブレット端末などの導入によってこの課題を解決する方法が示されているが,授業改善を視野においた実践をすすめることで,機器が導入されたときに有効に活用できるようになると考えられる。
参考文献