マインドマップ®は,啓林館指導書第2部詳説「未来へ広がるサイエンス1」P.196にもあるように,イギリスの教育者トニー・ブザン(Tony Buzan)が提唱した図解表現技法の一つである。本校では,学力向上のための一環として「ブザン教育協会」より講師を招きマインドマップ講演会を実施(H21.7.15)し,それと前後して理科や国語科の中で利用したり,授業で小型ホワイトボードを活用したり,言語活動充実に向けた様々な取組を展開している。ここ数年間,理科の授業で実施した取組を中心に紹介する。
マインドマップでは,まずセントラルイメージとよばれる象徴的なイラスト等を中心に置き,そこから放射状にブランチ(枝)を延ばし,キーワードやイメージを繋げていく。その際,発想が広がりやすいように1ブランチに1単語を載せ(文はさける),サインペンやイラストを使ってカラフルに仕上げる。さらに,ブランチは直線ではなく有機的な曲線を使う。…等のきまりもあるが,導入はなるべく簡略化し,マップへの抵抗感を少なくするよう心掛けている。
言語活動を行った理由…理科において,特に知識の習得が必要な単元や,理論の組み立てが理解しにくい単元において,生徒の理解や知識の定着を助ける良い方法はないかと模索していたところ,マインドマップの存在を知り,2007年度より授業や長期休業中の宿題として利用し始めた。
具体的な活動内容…授業の板書でマインドマップが生かせそうな章で使用したり(図1~4),単元末に重要語句のまとめを生徒一人一人に描写させたりしている。(図5~8)
図1 1年板書例「種子植物」
図2 2年板書例「脊椎動物の体表
図3 2年板書例「無脊椎動物」
図4 3年板書例「生殖」
図5 1年生徒作品「植物の仲間」
図6 2年生徒作品「雲の種類」
図7 2年生徒作品「電流とその利用」
図8 3年生徒作品「運動とエネルギー」
班毎に小型ホワイトボードを用意し,教科書の「考えてみよう」や実験時の記録等の班別活動で利用させている。理科室では月交代の班編成を組み,各テーブルにホワイトボード用のペン等をケースに入れ設置してあるので,いつでもすぐに班の考えをまとめ,提示することができる(図9)。
プラス(株)「方眼入りホワイトボード〈裏面マグネット付き〉B118J(図11~12)」を班に1枚ずつ購入してもらったが,1枚1,000円以上するので,余った卒業アルバム原稿用方眼紙をパウチ加工して同様のシートを作成してみた(図9~10)。貼付用磁石は別途必要だが,形や大きさの自由度も高く,A3ラミネーターがあれば非常に安価に導入できる。市販ボードに比べ多少マーカー跡が消しにくいが,掃除用のメラミンスポンジを使えば水なしで難なく消すことができる。さらに,市販ボードよりも軽量なので,多数貼った時も黒板の上下の移動がスムーズにできた。
図9 マーカーと自作ホワイトシート
図10 シート拡大図(表は方眼)
図11 ホワイトボードを使った結果提示 |
図12 ホワイトボードの使用例 |
図13 自作シートの使用例 |
【成果1】重要語句同士のつながりがどうなっているのか考えながら図で表現していくので思考力が高まる。また,枝の伸ばし方やイラスト・色等をどのように表現するか工夫する活動なので,理解力・記憶力をともに活性化させることが出来ると考える。活動時は,導入前に想像していたほど生徒の抵抗感はなく,逆に教師側の頭の固さを感じる結果となった。
【成果2】マインドマップは作者の理解度を端的に示すことが分かる。例えば,図14の「岩石の分類」を見たとき,作者は5つの堆積岩を並列に並べているが,岩石起源の3つと生物起源の2つは別グループにすべきである。よってマップは生徒の理解度の確認ツールともなる。
図14 生徒作品「岩石の分類」
【成果3】マインドマップは箇条書きと違って,後から途中の枝に継ぎ足していくことができるので,発想を広げていくときや,自分の考えを提示するときに利用しやすい。班活動など授業で意見を交流し,まとめるような場面でもマップが利用できた。
【成果4】マインドマップに二つとして同じものはない。どうしても発想が広がらない生徒は他人のマップをまねる者もいるが,全く同じにはならない。個性が強く出たオリジナルなものができることがマインドマップの特徴である。ゆえに,脳に深く刻まれるという長所となるのだが,創造力や発想力の乏しい生徒の中には,「マインドマップは面倒だ」とマイナスイメージを持つ者もいる。ある程度の"慣れ"は必要である。
【成果5】講演のメモ等,自分自身の日常生活でもなるべくマインドマップ(一色描き)を使うよう心がけているが,脳が活性化されるのか眠くなりにくいことがわかった。
≪課題1≫なかなか筆が進まない生徒もいるので,最初からきれいな完成品を求めるのではなく,まずA4横コピー用紙に鉛筆で下書きさせ,教師が確認・助言後,清書厚紙に色やイラストを使って仕上げさせるようにしている。
≪課題2≫他教科でもマインドマップを利用してもらえるよう,他の先生との協力が定着への近道である。本校では国語科でもマップを活用した授業を試みている。読取後の内容をマップにさせた結果,段落構成が理解できている生徒は適度に枝分かれしたマップを描けるが,そうでない者は,ほとんど枝分かれのない一本道のようなマップを描いてしまうことがわかった。
【成果1】以前は,実験結果等をその都度黒板に書かせていたが,煩雑で実験が中断しムダが多かった。ホワイトボードを使うことにより,効率がよくなり班活動が活性化した。
【成果2】ボードに書く者と内容の発表者を分けている班や,空きスペースに補足的な図やイラストを書き込む者もいる。「ボードが掲示される」という緊張感が,読みやすい字の大きさや分かりやすい書き方,図の利用等,表現活動を活性化している。
【成果3】黒板に白いボードを貼ることで,視覚的なアクセントが生まれ,クラス全員での共通認識に有効である。また,実験後の考察時間が足りないときにはボードをはずし残しておくことができるので,次時の振り返りにも好都合である。
【成果4】自作シートの方眼の利用。太陽の通り道の観測時,ペンの先を透明半球の中心にうまく合わせられない生徒が多い。そこで,図15太陽観測用「ホールシート」と名付けた十字に切込みを入れたボール紙を作り,観測時にまず直線状になった太陽光の交点が透明半球の中心を指す位置でシートを静止させ,中心の穴(ホール)をペンで塗りつぶすことによって,正確に記録できるように考えた(図16)。1日の観測が終われば,透明半球に仮止めしたタコ糸に観測点と透明半球の端をペンで写し(図17),糸をはずす。その糸を図18のように開始8:35の観測点をそろえて自作シートに貼りコピーをとれば,班やクラスで実験結果を簡単に共有でき,方眼がものさしの役割もするのでその後の処理も手際よくできた。
図15 太陽観測用「ホールシート」
図16 ホールシートによる観測
図17 タコ糸に測定点を写す
図18 自作シートの利用
マインドマップは,自分で描いてこそ初めて大きな意味をもつ図となる。自分の頭の中にあるものを効率よく漏れなく筋道立てて表現しなければならないとき(例えば,あるテーマについての小論文など),マインドマップは特に有効である。私も含め生徒が自由に自己表現するツールの1つになる可能性をマインドマップに感じている。
最後になりましたが,サマースクールやウィンタースクール等でいつもご協力いただいている奈良教育大学理数教育研究センター長の松山豊樹教授をはじめ新理数スタッフの皆様に厚く御礼申し上げますとともに,学力向上合宿GUTS(Gakuryoku Up Training in Soni)や二学期制等,学力向上に向けた特色ある本校の取組に,今後とも生徒・保護者,地域の皆様,その他関係者の皆様のご支援ご協力を賜りますよう,どうぞよろしくお願い申し上げます。
≪参考文献≫