生徒は実験や観察が大好きです。顕微鏡で観察する場合,静止しているものが多いのですが,顕微鏡下で動きのあるものを観察できる感動は格別です。ここでは生きたミジンコを成功率100%で観察する授業展開を紹介します。
ミジンコを観察するには生物顕微鏡の方が適しています。ただし,どうしても生徒全員となると台数が不足することがあります。その場合は生徒2人で1台を共有するよりも実体顕微鏡でもいいので「1人1台」使ってもらった方が授業の質が上がります。ミジンコ観察の強みの一つはここです。実体顕微鏡でも楽しめるということです。
ミジンコは非常に大きいので中央が丸く凹んだホールスライドガラスを使います。カバーガラスは大きいサイズの方が割れにくく,生徒も扱いやすいようです。新規購入するのであれば,サイズを指定して大きめのものを購入することを勧めます。
昆虫用ケースは1時間の授業で生徒に効率よくミジンコを捕獲させるためだけでなく,ミジンコを増やすときにも使います。安価で売られているのでいくつか購入しました。なお,ワインボトルを使ってミジンコを増やすこともしましたが,ワインボトルは鑑賞用に使い,生徒がひとりひとりミジンコを捕獲するときはやはり昆虫用ケースか500mlビーカーが適しています。
生徒の声では,「駒込ピペットの方がミジンコを捕獲するときの操作感覚が優れている」ようですが,費用の関係で,ベローズピペットというものを購入しました。購入したら,先端を確認してください。ピペット先端の内径が小さいため,ミジンコを傷つける恐れがあると判断し,私は鋏で先端を少々切り落としました。
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ミジンコを入手するには,譲ってもらうという方法があります。研修センターやペットとして飼われている方からが考えられるでしょう。
私の場合,「ミジンコなんて◯◯池でペットボトルを沈めてみれば,簡単に数匹のミジンコをつかまえることができる。」という一文に出会い,実行してみました。同居の父に説明せずに◯◯池の水をもってきてもらいました。ミジンコのことを知らない父は「何もいない。」と言っていましたが,ペットボトルを覗くとピクピクと泳ぐミジンコが確かに1匹いたのです。この1匹からスタートしました。
準備するもの
①~③のものがあれば,ミジンコは自然に増えていきます。1匹からでも「単為発生」をするので,時間さえあればどんどん増えていきます。
ミジンコを増やすなかで気づいたことですが,環境が悪いほうが生命的危機を感じ,卵を沢山産むという性質は経験的に正しい気がします。③の餌(上澄み液)を加えた,まるで池の水のように濁った水よりも,餌の代わりにカナダモしか入っていない水にミジンコを入れた方がよく増えたことがあります。もっとも急速に増えたのはミジンコ用の水槽ではなく,窓際においておいたあったカナダモ用の水槽にいたずらでミジンコを数匹入れたときです。遊びのつもりで入れたのですが,ものすごい数にミジンコは増えていました。急激にミジンコが増えた原因がカナダモなのか,日光なのか,それとも放置されて間もない水道水なのかはわかりません。
授業の進行は大変シンプルです。短い説明につとめ,生徒の観察時間を確保したいところです。
生物としてのミジンコの記述は別に任せるとして,今回紹介した授業展開でのミジンコのメリットとは何かを整理してみます。簡単に増やせること。卵や心臓,消化管の観察が簡単であること。顕微鏡下で動きがあり,生きたまま水槽に返せること。ミジンコを捕獲する中でピペットの使い方が習得できること。各自がプレパラートをつくり,上手に観察できるため自信がつくこと。そして,それらをトータルして成功率が極めて高いことなどが挙げられます。
他にもアルコールを加えて心拍数の変化を調べたり,餌を変えることでミジンコの色を変えたり,スケッチの練習にしたり,同定の奥深さを体験したりといろいろとバリエーションを考えることができます(対準備効果を考えると私は実践に至っていませんが)。
微生物の観察には池や沼から水を採取する方法や下水処理場に頼んで活性汚泥を分けてもらう方法があります。前者は珪藻やミカヅキモなどを含み多様な微生物を期待できますが,当たりやはずれがあり,必ずしも発見率が高いとは限りません。下水処理場の活性汚泥もツリガネムシなど特定の生物を観察するには高い発見率を期待できますが,種類が限定されるという側面があります。その2つのよいところをあわせた教材を見つけました。それは我が家の金魚の水槽にある濾過器のフィルターです。
そこにある「汚れ」でプレパラートをつくったところ100%に近い確率での活発な動きのある原生生物をみつけることができました。多様で,かつ個体数も多いのです。考えてみれば当然のことですね。なお,私は濾過装置用の添加物(おそらく乾燥した原生生物群)を,水槽を洗う際に加えていたのでなおさら発見率がよかったのかもしれません。
私はどれだけ観察に熱中したことでしょうか。ミステリアスな形で動きまわる原生生物の動画は生徒を釘付けにしました。原生生物をつかまえる最高の場所は,なんと我が家の中にあったわけです。
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【参考文献】
合同出版 『やさしい日本の淡水プランクトン』 滋賀の理科教材研究委員会
写真,動画はすべて筆者撮影