タブレット端末のカメラ機能を使って,生徒が振り返りを行う。カメラを使うことで,生徒は自分のノートを客観的に見直すことができる。問題のどの部分に着目してどのように式を操作すれば問題を解決できたのかを写真に書き込むことで,本時の問題を少し変形するだけで前時の学習内容と同じように考えればよいことを生徒が実感する。
別の問題でも既習の内容を用いて解決できることが,数学のよさの1つと考える。生徒はその経験を積み重ねることにより,他の問題にも活用しようという気持ちになり態度として表れるだろう。
本実践は,そのような既習の内容を積極的に活用しようとする生徒の姿を意図したものであり,学習指導要領に示された学習に向かう力,人間性等の育成につながるものと考える。
本校生徒はとても素直でさまざまな活動に一生懸命に取り組む。しかし,学習への苦手意識からか,じっくり考えることを避け「これは覚える。」と記憶することに重点を置いて学習を進める様子が見受けられる。そのせいで,一次方程式と連立方程式が別物だと感じている生徒も少なくない。
数学は1つの問題の数値や条件を少し変えるだけで新しい問題をつくることができる。その問題は,もとの問題の考え方を活用すると簡単に解決することができる。そのような発展・統合する活動を通して,生徒に数学の世界の広がりを感じさせて数学のよさやおもしろさを実感させたいと,実践者は考えている。
数学のよさやおもしろさを生徒に実感させるためには,学習指導要領にもある通り,振り返る活動が有効である。これまで実践者も,振り返りシートなるものを作成し,生徒に分かったことや分からなかったことを授業の終末に書かせた。しかし,生徒が振り返りに書くものは,黒板に書かれた授業のまとめをそのまま写したものだったり「分かった。」「分からなかった。」などの感想だったりで,生徒が数学のよさやおもしろさを味わっているとは思えないものだった。
生徒が授業で考えたことを客観的に見直して振り返る中で,既習の内容が活用された場面に気づいたり,問題のどこに着目して既習内容をどう活用したかを意識したりしてほしいと考えて本実践を行った。
二次方程式,啓林館「未来へひろがる数学3」
【知識・技能】 | 【思考力,判断力,表現力等】 | 【学びに向かう力,人間性等】 |
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第一次 (10) |
二次方程式の導入 |
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二次方程式とその解き方 |
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二次方程式の解の公式 |
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二次方程式と因数分解 |
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二次方程式の解き方のまとめ |
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第二次 (3) |
二次方程式の利用 |
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章のまとめ/テスト(1) |
授業で考えた1つ1つの問題が,どのように発展したかやどのように式を変形すれば同じように考えられるか,どのようなことに気をつけるべきかを振り返ったもの。
<この時間の授業展開>
生徒成果物 1 (生徒A)
二次方程式について,をと置き換えることで,既習の考えを使って解を求めることを振り返ったもの。また,置き換えることを式の展開や因数分解でも学習したことを思い出して本時の学習と関連付けているもの。
生徒成果物 2(生徒B)
生徒成果物 3(生徒C)
キャラクターを使って,どのようなことに気をつけなければならないかを意識して振り返ったもの。に係数がある場合も,前時と同じように考えて解を求めることができることを生徒自ら実感したもの。
生徒成果物 4(生徒D)
生徒成果物 5(生徒E)
係数が文字であるときも,前時(係数が数であったとき)と同じように式変形をすればよいことを意識して振り返ったもの。
生徒成果物 6(生徒F)
生徒成果物 7(生徒F)
例えば,からの問題に発展するときには,前時の例題でを扱っておき次時の例題でを扱う。生徒たちがをと置き換えると,となり前時の問題と同じように考えられることに気づく。
置き換えたり式変形をしたりすることで,既習内容が使えることを意識させ,数学のよさを感じさせることを意図した。
授業内容を黒板に丁寧にまとめれば,生徒の思考は整理されて生徒が復習する際に有効なノートになると考えて取り組んできた。しかし,実践者が丁寧にまとめようとがんばるほど,生徒は黒板を写すことに集中してしまう。生徒の振り返りは,授業のまとめをそのまま写したものが多くなった。
そこで,クラスで問題を解く場面では,教師と生徒,生徒と生徒が話し合う場面を大切に展開した。また,振り返りを書かせる前にも,問題のどこに注目してどのように解いたかをペアで説明し合う時間を設けた。
書くことが苦手な生徒も,一度仲間と話し合うことで,自分の考えをどのように表現すればよいのかを知ったり整理したりすることができた。
本校で使用する授業支援ソフト(ベネッセ「オクリンク」)の提出BOXは,他の生徒が提出したものを見ることができる。
提出し終えた後に仲間の振り返りを見て,抜けがあると感じるなどがあれば,何度でも出し直すことができる。生徒はよりよい成果物になるように,1つの問題を何度も見直すことができた。
生徒は,はじめから上手に振り返ることができるわけではない。教師の評価と支援が必要である。
明確な評価基準を生徒に示すことで,生徒はそれを目標に振り返りを行う。また,生徒はどうすれば基準を達成できるかなどのアドバイスを得ることで,よりよい振り返りを行うことができるようになる。
B | 問題の解き方を説明できた |
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A | 式を変形する目的や理由を明らかにして,問題の解き方を説明した |
A+ | Aに加えて
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本実践が目指すのは,生徒が授業で学んだ考えを他の問題でも活用できるようにすることである。振り返りで,式変形の操作の説明だけでなく,問題のどの部分に着目しどのようにすれば問題が解けたかを生徒に意識させたい。
単元はじめで,生徒Gは式変形についてうまく説明していた。しかし,それでは数値が変わった問題や他の場面での問題への活用で確かな期待ができない。
フィードバック1のように,問題のどの部分に着目したかを示すようアドバイスをした。すると,単元中盤の解の公式を導く授業では,式変形の目的を意識して書くようになった。さらに,自分がミスをしそうな部分を意識した記述が見られるようになった。この生徒は,二次方程式のが偶数である場合に,解の公式を使うと必ず約分できることから,と置き直して改めて解の公式を導くなどたいへん意欲的に学習する姿を見せた。
生徒成果物 8(生徒G)
フィードバック 1
生徒成果物 9(生徒G)
フィードバック 2
単元末に,実践者が担当する2学級52名(本校第3学年152名)にアンケートを実施した。本実践についての取り組みやすさを「とてもやりやすい」「やりやすい」「やりにくい」「とてもやりにくい」の4段階でたずねた。
結果は,肯定的な回答が73.0%であった。その理由には,「写真を撮ればだせるから。」「マーカーとかいろんな色が使えるから説明しやすい。」「習いたての重要点が書かれていたり,友達とも共有しやすいから。」「自分と違う考え方を知れた。」など,活動や端末操作の簡便性や仲間と学ぶよさについて書かれていた。
一方で「使いやすいがネットが悪ければ(通信回線が遅ければ)使い物にならない。」など,環境面での課題を指摘するものもあった。
問題の解き方を説明することは,面倒なことである。しかし,前時と同じようにすればよいことに気づけば,「前の授業と同じようにする」と説明を省略することができる。その既習を活用することのよさに気づいた生徒は,どうすれば早く前の授業と同じ形にできるかを考えるようになった。
また,二次方程式で学んだことだけでなく,式の展開や因数分解,平方根,一次方程式など単元,学年を越えて学んだ内容を思い出そうしたりつながりを見いだそうとしたりする生徒が増えた。
振り返りで,生徒に解き方を説明することを求めることで,生徒はより簡潔な説明にしようとする。その中で,生徒は用語を使うと説明を簡潔にできることに気づく。振り返りの時間になると,あちらこちらで「あれ何って言うのだっけ?」という声が聞かれるようになった。用語のよさに気づき,使おうとする態度が育ってきたと感じている。
問題で着目するポイントやどのような式の変形をすればよいかなど,目的や理由を意識して振り返りを書いていても,次時の問題でそれらを活用できない生徒がいた。問題と向き合うばかりで,前に学んだことは何だったかと,ノートや振り返りを見直そうとしない。
実践者がその生徒に「振り返りを見てごらん。」と声をかけると,「あっ!そうか。」と気づきが生まれた。
生徒がノートや振り返りを使って,問題を解くことができるという経験を繰り返し積むことで,新しい問題に出会ったときにノートや振り返りを使おうという行動につながると考える。
今後,ノートや振り返り(タブレット端末)の持込みを認めるテストを実施して,生徒が積極的にノートや振り返りを活用できるようにさせたい。その経験が,ノートや振り返りをみて既習内容を活用するよさを感じさせたり活用できないかと考える姿につながるだろう。