福井地区中教研数学部会の関数委員会では,「数学的活動を通して,関数関係を見い出し,表現し考察する能力を養い,それらを活用する力を高めさせる授業を目指して」を研究主題として,日常生活や社会で数学を利用する活動を通して,生徒が主体的に数学的活動に取り組むことができるような授業を目指して研究してきた。また,授業づくりにおいて,以下の3つの観点に重点を置いて取り組んできた。
生徒の興味関心を高める課題の工夫によって生徒が主体的に課題に取り組める土台作りをしていく。興味関心を高める課題とは,日常生活に関連する具体的な事象を扱った課題や,数学を活用するよさを感じ取れる課題だと考える。課題解決の見通しをもたせる工夫として,課題解決の際に既習事項が活用できたり,これから学習する内容(新しい知識)を必要と感じたりできる課題設定をおこなっていきたい。
(1) 具体的な事象の中から一次関数としてとらえられる2つの数量を観察,実験,調査などを通して調べようとする。
(数学への関心・意欲・態度)
(2) 具体的な事象から取り出した2つの数量の関係が一次関数であるかどうかを判断し,その変化や対応の特徴をとらえることができる。
(数学的な見方や考え方)
(3) 一次関数の関係を表,式,グラフで表したり,その特徴を読み取ったりすることができる。
(数学的な技能)
(4) 一次関数の意味や特徴を比例や反比例と比較して理解することができる。
(数量,図形などについての知識・理解)
中学校の関数領域では,いろいろな事象の中から,ともなって変わる2つの数量関係を見つけ出し,その変化や対応の様子を表・式・グラフを通してとらえ,さらにそれらを活用することを3年間一貫して指導している。
小学校では,第4学年から第6学年にかけて,関数関係を○,△,a,xなどを用いて式に表し,それらに数をあてはめて調べること,変化の様子を折れ線グラフで表し,変化の特徴を読み取ること,比例・反比例の関係を理解し,これを用いて課題解決することなどを学習してきた。
中学校第1学年では,小学校の学習の上に立って,具体的な事象の中からともなって変わる2つの数量を取り出して,その変化や対応の仕方に着目し,関数関係の意味,比例・反比例の関係,比例・反比例の表・式・グラフとそれらの相互関係について学習する。第2学年で一次関数,第3学年で関数y=ax2へと発展していき,高等学校の微分法,積分法につながっていく。
本単元では,身近な事例から比例・反比例とは異なる新しい関数である一次関数の存在を知り,既習の関数関係と比較し,その特徴を考察していく。また,変化の様子を考察し,その特徴を,表・式・グラフを相互に関連づけしながら理解していく。そして,具体的な事象において,実験や実測で得られたデータに一次関数の関係を発見した場合,本単元で学習した一次関数の特徴をとらえながら,予測や問題解決に活かしていく。
※学習内容の斜め太字では導入題材(富士山の気温を活用していく。)
時 | 学習内容 | ねらい | 関 | 考 | 技 | 知 | 評価規準 |
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1 (本時) ≀ 2 |
一次関数 (富士山の山頂の気温を求めよう) |
・具体的な事象の中で,何をx,yにおいて考えるのかを捉え,yはxの一次関数であることを理解できる。 |
◎ | ○ |
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3 ≀ 4 |
一次関数の値の変化 |
・一次関数の値の変化や変化の割合について理解できる。 |
○ | ◎ |
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5 ≀ 7 |
一次関数のグラフ |
・一次関数のグラフの特徴を知ることでグラフのかき方を理解し,グラフをかくことができる。 |
◎ | ○ |
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8 ≀ 10 |
一次関数の式を求めること |
・グラフや座標などの与えられた条件から,一次関数の式を求めることができる。 |
○ | ◎ |
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11 ≀ 12 |
方程式とグラフ |
・二元一次方程式を関数関係を表す式とみることで,二元一次方程式の解と一次関数のグラフの関係を見い出したり,グラフをかいたりすることができる。 |
◎ | ○ |
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13 | 連立方程式とグラフ |
・連立方程式の解は2直線の交点の座標であることを見い出し,連立方程式を利用して2直線の交点の座標を求めることができる。 |
○ | ◎ |
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14 ≀ 17 |
一次関数の利用 |
・具体的な事象から取り出した数量の関係から一次関数の関係を見い出し,表,式,グラフを用いて問題解決することができる。 |
◎ | ○ |
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18 | 章末 |
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本単元では,「富士山の山頂の気温を求めよう」という題材を導入で扱う。富士山の各合目の気温データを知ることで,山頂の気温を予測させ,それを考える中で新しい関数である一次関数の存在に気づいていく。また,より正確に気温を求めるために,変化の割合を調べようとしたり,式やグラフを活用したりする生徒が出てくることで,本単元全体の学習につながっていく。1年時に学習した関数関係のよさを思い出し,新しい関数の存在を知り,その知識や技能を増やしていくことで,様々な問題解決に活かしていけることを実感できる単元にしていきたい。
本時は,課題1「富士山の山頂の気温を求めよう」,課題2「標高と気温の関係を探ろう」を設定した。課題1では,富士山の山頂の気温を求める中で,標高にともなって気温が変わるという関数関係に目を向けさせる。生徒は,表を使って100mあたりの気温の変化に着目し,100mあたりでは3776m地点の気温を正確に求めることができないことに気づくだろう。すると,
10m,1mあたりの変化を求めようとすることが予想される。また,グラフ用紙に標高と気温の関係をプロットし,その形を直線と考え,3776m地点の気温をグラフから読み取る生徒もいるだろう。式を求める生徒も何人か予想されるが,式の考え方は,次時以降で取り扱うため,表・グラフの2つの考え方に絞る方がよいと考える。このように,課題1では,表・グラフ(・式)の既習の関数的な考え方に触れさせたい。
課題2では,課題1で挙げられた,表・グラフ(・式)の考え方を取り上げ,標高と気温の関係と既習の関数(比例・反比例)と同じ点,異なる点について考えさせる。表からは,標高が100m上がるごとに一定に気温が0.6℃ずつ下がっていることや,xの値が2倍,3倍,…になっても,yの値が2倍,3倍,…にならないため比例とは異なることに気づかせたい。グラフからは,比例と同じく形が直線であることや,原点を通っていない点で比例と異なることに気づかせたい。
なお,ここで扱う気温と標高のデータは理想化されたものである。
・富士山の山頂のおおよその気温を求めようとする。
【数学的な関心・意欲・態度】
・値の変化や対応の様子を,表やグラフなどをつくって調べ,その特徴から比例,反比例との違いをもとに新たな関数について考察することができる。
【数学的な見方や考え方】
・ホワイトボード,ホワイトボードマーカー,ワークシート,iPad,パソコン
学 習 活 動 | 教師の支援(○)評価(◎) |
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○富士山の話をする。
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○富士山の写真を見せながら,標高が上がると気温がどのように変化するかに着目させる。 |
【課題1】富士山の山頂(3776m)の気温は,何度になるのかを考えよう。 | |
○課題1を把握する。
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○個人で考える。
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○グラフ用紙を配る。 |
○グループで共有する。
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○ホワイトボードを配る。 ◎富士山の山頂のおおよその気温を求めようとしているか。(観察,ワークシート) |
○全体で共有する。 |
○変化の割合に着目する班と,グラフに着目する班に考えを発表させる。 |
○課題2を把握する。 |
○標高と気温は関数であることに気づかせる。 |
【課題2】標高と気温の関係を探ろう。 | |
○グループで考える。
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○表・グラフ・式の観点から,どのような関数かとらえさせる。 |
○全体で共有する。
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○比例,反比例と共通する点,異なる点に着目させる。 ◎値の変化や対応のようすを,表やグラフなどをつくって調べ,その特徴から比例,反比例との違いを考察できたか。 (観察,ワークシート) |
○振り返りをし,次時の確認をする。
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○新しい関数(一次関数)の存在に気づかせる。 |
新しい関数の存在に気づき,今後の一次関数の表・グラフ・式の学習につながる課題を多くみつけるために,富士山の山頂の気温を考える題材を扱ったことは有効であったか。
①
②
③
④
⑤