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数学

第1学年 資料の分析と活用 「資料の活用」

外ヶ浜町立平舘中学校 野呂 宜史

1.はじめに

本時の題材は,平成24年度の全国学力・学習状況調査のスキージャンプの問題をアレンジし,平均値や最頻値が等しくなるように仕上げたものである。本時では,2つの紙飛行機の飛んだ距離のヒストグラムを比較して,次の1回でより遠くへ飛びそうな飛行機を選択する場面で,資料の傾向を的確に捉え,判断の理由を数学的な表現を用いて説明することが求められる。この教材のよさは,どちらの紙飛行機を選んでも間違いではなく,自分の判断の理由を数学的な表現を用いて説明することが重要であることだと考える。2機のヒストグラムから読み取れる分布の違いや代表値などを根拠として,選んだ紙飛行機が次の1回でより遠くへ飛びそうであることの理由を説明することを通して,思考力,判断力,表現力等を育成していきたい。なお,今回は生徒の実態を踏まえ,紙飛行機の滞空時間ではなく,飛距離を題材として扱うこととした。

2.本時の指導

(1)ねらい

資料に基づいて不確定な事象を考察することについて,資料の傾向を読み取って判断することを通して,その理由を数学的な表現を用いて的確に説明できる。

(2)展開

教師の働きかけ 予想される生徒の反応と活動 評価・留意点
導入

7分

1 問題場面を提示する。

紙飛行機の飛んだ距離を競う大会に出ることになりました。そのために2つの紙飛行機を作り,実験した結果をまとめたところ,飛んだ距離は以下のようになりました。

・飛んだ距離の記録については,実際に授業者が製作して投げた飛距離の記録を基に,平均値・最頻値が等しくなるように調整したものを提示する。

・ワークシートには載せないが,初期値3.5,階級の幅を0.5mとすると,

【1号機】

最大値
10.9m
最小値
3.6m
範 囲
7.3m
中央値
8.85m
最頻値
8.75m

【2号機】

最大値
10.0m
最小値
7.6m
範 囲
2.4m
中央値
8.6m
最頻値
8.75m

である。

2 平均値はどちらも8.6mですが,2つの飛行機は同じ性能といってよいだろうか。

・1号機は10.9mで一番遠くへ飛んでいるときがある。

・2号機は7m以下の記録が1つもない。

展開

35分

3 学習課題の提示

この大会は,紙飛行機を1回だけ飛ばして勝敗を決定します。
あなたならどちらの紙飛行機を選ぶか,その理由をこれまで学習したことをもとにして,どのように説明すればよいだろうか。

・問題解決の過程を大切にするため,具体的な場面を想定して問いかけ,考えさせる。

4 記録の分布の傾向を調べるためには,どのような方法がありますか。

・ヒストグラムに整理する。

・度数分布表に整理する。

・階級の幅を0.5mにする。

・グループで活動する時間を確保するため,本時では階級の幅の異なる複数のヒストグラムを作り検討することは行わない。

5 2機の飛んだ記録の度数分布表を渡します。これを基に,ヒストグラムを作成しましょう。

6 2つの紙飛行機の飛んだ記録には,どのような傾向がありますか。

・1号機の方が,遠くへ飛んだ記録が多い。

・2号機の方が,安定して飛んでいる。

評価①
ヒストグラムから資料の傾向を読み取ってどちらの紙飛行機を選ぶか判断し,その理由を書くことができたか。

【方法】机間指導,ノート
【対策】どちらの紙飛行機を選んでも間違いではないことを伝え,自分なりに理由を書けるように支援する。

7 どちらの紙飛行機を選びますか。
理由も書いてみましょう。

・遠くへ飛んだ記録が多いから,1号機を選びます。

・1号機より安定して飛んでいるから,2号機を選びます。

・生徒の説明には日常的な表現が多くみられるので,統計的な指標を適切に用いて表現するよう指導する。

8 それでは,それぞれの紙飛行機を選んだ人同士で考えを伝え合い,3人程度のグループを作ってください。

・生徒は席を離れて考えを伝え合い,同じ飛行機を選んだ生徒と3人程度のグループを作る。

9 グループ内で,それぞれの紙飛行機を選んだ理由を,今まで学習した用語や表現を用いて説明できるように検討してください。

・グループで説明できるように理由をまとめる。

・用語とその内容を書いたヒントカードを掲示し,生徒が既習事項を用いて考えやすいよう配慮する。

10 選んだ紙飛行機とその理由を,グループで全体に説明してみましょう。

・10m以上の階級の度数の合計は1号機は3で,2号機の1より大きいので,1号機を選びます。

評価②
資料の特徴に基づく判断について,説明すべき事柄とその根拠の両方を,数学的な表現を用いて的確に説明できたか。

【方法】机間指導,発表
【対策】生徒が説明した内容について,どの用語(度数・階級・範囲・最小値など)を使えば数学的な表現になるかを考えさせる。

11 発表された説明について,質問はありませんか。

・2つのヒストグラムを見ると,10.5m以上11m未満の階級の度数は,1号機が3で,2号機は0だから,1号機を選びます。

12 もっと的確な表現にできる部分はありませんか。

・2号機の方が1号機よりも記録の範囲が小さく,最小値が大きいから,2号機を選びます。

・2つのヒストグラムを見ると,7.5m未満の階級の度数の合計は,1号機より2号機の方が小さいので,2号機を選びます。

まとめ

3分

13 まとめよう。

・生徒の表現を,まとめに使っていく。

1号機を選ぶ 

→ 最大値が10.9mで2号機より長い。
10.5m以上の階級の度数が2号機より多い。

2号機を選ぶ

→ 最小値が7.6mで1号機より長い。
範囲が2.4mで1号機より小さい。

3.指導の成果

説明し伝え合う活動を通して,同じ資料から様々な解釈ができることを知り,お互いの説明やその根拠とする事柄について理解を深めさせることができたとともに,生徒が数学的な表現のよさを実感しながら,漸次洗練されたものにしていくことができた。

実際の授業では,14人の生徒のうち,3人が1号機,11人が2号機を選択した。また,生徒は判断の理由について,「全体的に安定している・悪かった結果がない・全体的に散らばっている」などの日常的な表現から,「範囲が小さい・最小値が1号機より高い・範囲が大きい」といった統計的な指標を適切に用いて,グループでの発表を通して説明することができた。

4.今後の課題

資料をヒストグラムにしたことで,「1号機の中央値が2号機より高い」という事実が見えにくくなってしまったことが反省点である。平均値や最頻値が等しくなるように調整したので,数値とヒストグラムを併用しながら,「中央値や最大値の高い1号機」・「範囲の小さい2号機」といった観点でもっと話合いを深めさせられればよかったと考えている。

また,単時間の指導としてはこれでもよいと思うが,授業で用いたデータは授業者が調整したもので,生のデータではない。今後は生徒が自分達で問題を設定し,その解決に必要なデータを収集し,ヒストグラムや代表値を用いて資料の傾向をとらえて解決し,さらに解決方法を見直すような,問題解決の過程を大切にした,効果的な単元の開発や課題の設定の研究をしていきたい。ただし,多忙化が年々ひどくなり,手の込んだ教材研究が難しい状況になっていると感じている。