生徒たちから「何のために数学の勉強をするの?」と問われることがある。私は,「物事を論理的に考える力をつけるため」,「筋道を立てて相手に説明する力をつけるため」に学んでいるのではないかなと答えている。そして実際に数学を学ぶことは上記の力をつけるために有用だと考えている。だが,時として日常生活の中には「割り切れない」事象もある。規則性がありそうでなさそうなとき,関連づけすることができそうでできないとき,など。そういったグレーゾーンが日常生活の中にはある。本実践は,生徒たちが事象を「比例とみなす」ことで,関数の考え方を適用できる「かも知れない」と感じ,試しに数学を使ってみようと考えてもらうために行った。
学習に対して真面目に取り組める生徒たちである。小集団の学習では,理解度が高くない級友に対しても分け隔てなく説明する姿が見られる。ただ,いつも「教える」側,「教わる」側という関係が固定化し,教わる方は級友のノートを写し,説明を受け続ける様子も見られる。
本単元は,具体的な事象からxとy2つの数量を取り出し,関数関係を見出すことで,未来を予測したり,変化の様子を捉えたりすることができる単元である。本単元を通して,級友とともに関数関係を見つけ出し,問題を解決することの喜びをすべての生徒が実感して欲しい。
比例の活用
比例の表やグラフ,式を学んできた生徒が,地震の初期微動継続時間と震源までの距離の関係を比例と考えてよいか話し合う中で,その根拠を説明したり,比例とみなすことで,予測に用いたりすることができる。
比例の学習を積み重ねる中で,小学校から習ってきた「xが2倍,3倍,…になれば,yも2倍,3倍,…になる」という変化の関係から,y=axという式に表すことで2数の関係を考えたり,グラフ化したりすることで,さまざまな視点をもって比例を見られるようになってきている。本時では地震を題材とし,初期微動継続時間と震源からの距離の表を分析することで,比例関係にあるかどうかを考えさせたい。生徒たちは,「比例とは美しいもの」「整数で考えるべきもの」という意識を少なからずもっていると思われる。そこで,本時を通して,現実生活では,「整数で表せない事象もあること」,「厳密には比例とは言えなくても比例とみなすことで活用の範囲が広がること」を実感させたい。
学習活動 | 教師の働きかけと予想される生徒の表れ | 指導と評価・留意点 |
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出会う (学級全体) |
(地震の映像を見る。) 地震が起きると,普通,はじめにカタカタと小さい揺れが続き,そのあと,大きい揺れが来ます。はじめの小さい揺れが続く時間を初期微動継続時間と言います。そういった話を聞いたことがありますか。 ・知ってる ・そうなんだ |
(ディスプレーで地震の揺れの映像を見る。) (ワークシート配布) |
つかむ (個人) |
この表は2004年に新潟県で起きた地震の初期微動継続時間と震源からの距離を観測した記録です。この表を見て,xとyの間にどんな関係があるか調べてみよう。
・関係って何ですか? ・比例とかじゃないかな |
机間巡視。表のxとyに注目させ,縦の関係になっていることを確認させる。 |
見通す 深める (小集団) |
今,比例という言葉が聞こえてきました。
では,本当にxとyの関係が比例と言えるのかどうか,班になって相談してワークシートに結論を書いてみよう。
・xが2倍,3倍,…になったとき,yも2倍,3倍,…になっていればいいよね。でも,3倍になる数字がない。 ・中学からは,y=axと表せたら比例って言うんだよね。 ・大体7.5くらいなんだけどな。でも微妙に違うんだよな。 ・でもグラフ用紙で点を打つと大体直線だね。 それでは,このxとyの関係が比例と言えるのかどうか,発表してください。 ・正しくは比例ではないと思う。理由はy÷xをしてもすべてが同じにはなっていないから。 ・ほとんど比例と言っていいと思う。y÷xの結果はほぼ7.5になっているし,グラフもほとんど直線になっているからです。 正しくは比例ではない、ということと、ほとんど比例と言っていいという意見のようですね。 ・y=7.5xと考えれば、7.5×2.1だから、15.75kmかな。 |
比例定数が7.5くらいになるが,それを比例とみなしてよいかどうかが判断できないでいると思われる。 判断材料を増やすためにグラフを描いてみるよう促す。 生徒たちの意見を以下のように価値づける。 比例ではない。→厳密には比例とは言えないね。 ほとんど比例している。→比例とみなすことができるね。みなすと応用範囲が広がるね。 |
まとめる (全体) |
今回の初期微動継続時間と震源からの距離との関係は,厳密には比例とは言えないですよね。でも,比例とみなすことで,各地の震源からの距離の計算に使えるようになる。「みなす」ことで,比例を使える幅が広がりますね。 |