中学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
数学

空間図形の授業展開
~知的好奇心の刺激+バーチャルとリアルと頭の中を結びつける~

大阪市立蒲生中学校  鈴木 貴詞

1.はじめに

空間図形は,中学校一学年の数学の中で,できるかできないかという二極化が起こりやすい単元だと思われる。その理由として,空間図形は,計算を中心とした代数のように,何回も復習していけば完全に身につくわけでもなく,平面図形のように紙面上だけでイメージしやすい範囲でもない。どちらかと言えば,今まで生きてきた中で身につけた感覚に頼ってしまうところが大きい。言い換えれば,分かる生徒にとっては説明なしで理解できるが,分からない生徒にとっては継続的に分からない状態が続きやすい。

しかし,そのままでは教師サイドとしても面白くないので,分かる生徒には知的好奇心を刺激する教材を提供し,分からない生徒には少しでも空間図形のイメージがしやすくなるようにと考えた。そのために,小単元ごとに重要なポイントをしぼって授業を行った。その例のいくつかを以下の授業展開例の中で示した。

また今回の授業では,「バーチャルとリアルと頭の中を結びつける」ことを大きな目的としている。バーチャルとは,映像教材・黒板やノートにかいた立体の見取り図のことで,リアルとはもちろん実際の3Dの立体のことである。空間図形を習得するためには,バーチャルだけでもリアルだけでもよいというわけではなく,その双方が頭の中で結びついてこそ,初めて自分のものとなる。実際,私達もリアルな立体(3D)を考えるときに,紙面上(2D)で考えようとする。つまりは,自分の頭を媒介としてバーチャルの世界とリアルの世界をリンクさせているわけである。

さらに,空間図形を得意になることは,生徒達が数学を得意になることまたは数学の世界を広げることに,大きく関わると考えられる。空間図形の概念は,この中学一学年の範囲のみならず,中学三学年の「三平方の定理における空間図形への利用」や高校数学の「空間ベクトル」・「微分積分」やさらには,大学数学の「線形代数」・「n次元空間」を考える際にも必要である。したがって,空間図形の基礎的知識獲得の重要性を念頭において,授業作りを行った。以下はその例である。

2.単元の導入

最初にデジタル教科書を使って,身の周りにある様々な建造物の例を紹介した。「その建造物が,おおよそどのような形をしているのか」という発問に対して,生徒達は活発に発言をした。そして,その立体の名称を確認し,実際の立体を見せた。やはり,身近にあるものを用いて導入を行うことは,数学が実生活と結びついていることを実感させるためにも大切である。

次に立体=3Dが,どのように成り立っているかということに注目させた。「Dとは何のこと?」と聞くと,少し間があって「次元」と答える。(最近は映画やゲームの世界でもよく3Dが登場する)まずは,点が0Dであるということからスタートする。その0Dである点がたくさん集まって,1D=線になる。次にその1Dである線がたくさん集まって,2D=面となる。もちろん,3D=立体(ここでの立体は,立方体や直方体をイメージすると分かりやすい)は2D=面がたくさん集まってできている。「それでは4Dとはどんなものだろうか」という発問をし,生徒に目をつぶらせ,同じ要領で3Dをたくさん集めて4Dをイメージさせてみる。だいたい,1クラスに2,3人ぐらいの生徒が見えたという・・・。本当に4Dが見えているのか定かではないが,「ドラえもんの道具であるどこでもドアがたくさんつながっている」や「空間が連結しているようになっている」と言う生徒までいるから驚きである。

次元の話のあとで,「立方体(3D)を黒板(2D)に“上手に”かくには,どうしたらよいか」という課題を与え,生徒達は課題に取り組む。小学校の学習がいきていて,7割の生徒はポイントを押さえてかくことができるが,残りの3割の生徒は上手にかくことができない。右の図は,残念ながら上手にかけていない例である。ここでのポイントは主に二つあると私は考えている。

ポイント一つ目

① 見えないところや奥行は点線で表す

このポイントは小学校のときに学習しているが,忘れているもしくは定着していないという生徒も少なからず存在する。しかし,点線はかいてあっても上手く見えないといった例が右の図である。ただ単に雑ということも考えられるが,どこが雑でそしてどのようにしたら上手く見えるのだろうか。そこで,

ポイント二つ目

② 実際(3D)に平行なところは,2D(黒板やノート)でも平行にかく

実は,ポイント二つ目を押さえていない生徒が多い。このポイント二つ目を押さえれば,立方体のみならず様々な立体の見取り図がかけるようになる。

また,代数よりも幾何で特に重要なことに「図をかいて考える」ということがあげられる。幾何が苦手な生徒は,平面図形の範囲でも図をかくことが苦手である傾向が強い。中学一学年の空間図形では,下記(空間内の直線や平面の位置関係)にも示すように,立方体を用いて考える場面が多い。つまり立方体が短時間で上手にかけることは,中学一学年の空間図形を理解するために,大きなアドバンテージとなる。授業の中で,何回も立方体をかかせることで,生徒も少しずつ慣れて素早くかけるようになっていく。

上記の二つのポイントを押さえて,立方体のみならず○○柱や○○錐の見取り図をかいて,その名称や特徴を押さえる。そして,その立体をかいていくたびに,実際のものを見せて,頭の中を整理するという作業を繰り返していく。

3.様々な立体の定義とその分類の授業展開例

小学校で学習する立体は,立方体や直方体などそれほど数が多くはないが,中学校ではたくさんの立体を学習する。それらの立体の名称の定着は,比較的よい。おそらく,日常生活で登場するからであろう。ここでは,その名称と初めて登場する概念である,多面体やその特殊な図形である正多面体の特徴の定着を目指した。具体的に授業で扱った特徴としては,どのような面の形をしているか・頂点の数はいくつか・辺の数はいくつか・一つの頂点に集まる面の数はいくつかなどである。(面の数・形と一つの頂点に集まる面の数から,実際に辺や頂点の数が数えにくい正十二面体・正二十面体の辺や頂点の数を計算した)また,見取り図や展開図については,正四面体・正六面体はもちろんのこと,正八面体までかかせた。正八面体までの見取り図や展開図をかかせた理由は,正四面体・正六面体・正八面体がよく問題として取り上げられるからである。また,見取り図をかくにあたって,難しい立体になればなるほど,上記で記述した立体を上手にかく二つのポイントが大切になってくる。

この範囲においてデジタル教科書を使うことにより,これらの立体を様々な角度から見せることができた。これは,奥の面がどのような形になっているかがイメージし難い生徒にとっては,大変有効だと思われる。デジタル教科書(バーチャル)と実際のものを見せたり作らせたりすることで頭を使い,理解を深めさせた。

4.展開図と見取り図の授業展開例

ある展開図が与えられたときに,その展開図のどの頂点とどの頂点がくっついて,どのような立体になるかといった問題こそ,感覚に頼ってしまうところが大きい。頭の中ですぐに展開図から見取り図ができてしまう生徒にとっては,問題というよりは当たり前のことなのである。しかし,見取り図がイメージできない生徒にも何とかできるようにさせたい。ここでは,「展開図から蝶つがいのような頂点(面が集まっていて,もうこれ以上くっつかない頂点)を探して,その両どなりにくっつく頂点を見つけて同じ番号をつけていく」といった方法をとった。ここでも実際のもの(展開図やその展開図を組み立てたときにできる3Dの立体)とバーチャル(デジタル教科書にある展開図が見取り図となる動画)と頭の中(各頂点に番号をふる方法)を結びつけることを意識して,授業作りを行った。

また,展開図から見取り図がすぐにイメージできる生徒には,さまざまな展開図を考えさせた。具体的には,「立方体の展開図を11種類すべてかく」や「正十二面体や正二十面体の展開図をかく」などがあげられる。そのような生徒に円柱の展開図をかかせたところ,半円を用いて展開図をかいた。なかなかユニークな発想でこちらも改めて,「さまざまな答えがあって然り」という思いになる。

5.空間内の直線と直線・直線と平面・平面と平面の位置関係の授業展開例

右の図のような教具を用意した。作り方はいたってシンプルである。立方体の各辺に対して,色のついた割り箸をセロハンテープで固定する。もちろん,同じ色の割り箸は平行な関係になっている。また割り箸が,各辺より長くなっているのは,直線が無限に伸びていることをイメージしている。(可能ならば,立方体の各面が無限に広がっているイメージのものを作った方がいいのかもしれない)

立方体は身の周りにもたくさん似た形が存在し,生徒達にとってなじみ深いものであり,この割り箸つき立方体を作ることで,空間内における直線と直線・直線と平面・平面と平面の位置関係をイメージしやすくなる。

たとえば,「青色の割り箸と緑色の割り箸はどんな関係」などの発問ができ,ねじれの位置なども黒板の図を用いる方法よりこの教具を用いる方が説明しやすい。また,平面P上の交わる2直線にある直線ℓが垂直である,すなわち,直線ℓと平面Pが垂直であることも,上記の教具を使うことによって,垂直つまりは90°になっていることを生徒に見せやすいというメリットもある。さらに,右の図のノートのように空間内の直線と直線・直線と平面・平面と平面の位置関係が,この立方体ですべて表現できるという利点がある。

やはり,リアルなもの(割り箸つき立方体)とバーチャル(デジタル教科書やノートに書いた立方体のイメージ)と頭の中を結びつけることが大切である。繰り返しになるが,立方体を素早く上手にかけるスキルは身につけさせたいものである。

6.発展的な学習(立方体の切断・オイラーの多面体定理・万年カレンダー)

発展的な学習として次の3つの課題を用意した。

①の課題は,しばしば,研究授業でも取り上げられるテーマであり,数学が比較的できる生徒にとっても容易ではない。考えさせる中で,このテーマの根底にある「同じ直線上にない3点によって平面が一つに決まる」ということを再度,生徒に確認させたい。

②の課題は,教科書のみならず様々な数学の読み物に載っている話である。まずは,様々な立体の頂点と面と辺の数を,数えさせることからスタートする。生徒達は,もちろん数えることはできるが,なかなかそこから発展しない。そこで,「頂点の数と面の数を足してみよう」というヒントを与えると,少しずつ「頂点の数+面の数-辺の数=2」という関係式を導き出す。そのときの生徒達の「分かった!」という反応は,教師にとってもとても気持ちのよいものである。

③の課題は,空間図形の問題というよりは,「いかに上手に数字を組み合わせて,日付を作るか」といった意味合いが強い。まずは,11日と22日と01日から09日を表すために,両方の立方体に,0と1と2が必要なことに気づかせたい。ここで残りの面が六つで,3から9までの七つの数字が残っているため,面の数が足らない。しかし,「6をひっくり返すと9になる」という一種のジョークを使えば,解決できる。理解した生徒達が,面に数字をかいて立方体を組み立て,万年カレンダーを完成させていく。実は,万年カレンダーは特許がとってあり,(しかし,現在その特許は失効している)そのことを生徒に伝えると,「私って天才!」などの反応が返ってくる。

以上の3つの課題を,班対抗の数学選手権と題して,点数を決めて班で勝負させた。空間図形の最後の授業として行ったため,かなり白熱したものとなった。このように知的好奇心を刺激できる取り組みを用いて,数学へのモチベーションの向上を定期的に図っていきたいものである。