これは第1学年「比例と反比例」を学習後に取り組んだ問題である。生徒は関数を式,表,グラフで表すことを学習し,数学的な作業には慣れてきているが,それを日常に応用することには慣れておらず,特に反比例の関係を日常生活に応用するという経験や意識はほとんど無いと考えられる。そこで,具体的な問題から反比例の関係を見出し,問題を解決するという問題を設定した。
(1)題材名 「比例と反比例の利用」
(2)本時の目標
身近にある具体的事象から,比例・反比例関係を見つけ出し,それを問題解決に利用することができる。
(3)研究について
(4)授業展開
★STEP1 双曲線を出現させる。
問題を投げかけ生徒に予想させる。この段階では上昇する,下降する等の意見が出るが,その関係性までは分からない生徒が多い。そこで実際にやってみる。だだし,そのままやると壁の点が下降することは分かるが,その関係性までは分からない。そこで,壁の点の軌跡が分かるように,鏡との距離を等間隔に変えた光源を複数準備(鏡も複数)して,これを横に等間隔で並べて一斉にレーザー光線を発射する。そうすれば壁に映しだされた点は双曲線を描く。それを生徒に発見させ,(壁に当たる光の高さ)は(鏡と光源の距離)に反比例していることに気づかせる。
<注意>
実際双曲線を描くには広い壁が必要になる。今回は教室の前面3分の1程度を模造紙で覆い,広い壁を準備した。また,鏡のどの部分に光が当たるかによって結果にかなりの影響が出るため,鏡はなるべく小さくした。(1cm四方)レーザーポインターは市販の物を利用したが,安全面を考慮し,扱いには十分に注意する必要がある。光源(レーザーポインター)の数を増やせば,より細かい双曲線を描くことができ効果的である。
★STEP2 実験により反比例の式を得る。
◎鏡から光源までの距離をx,壁に当たる光の高さをyとする。
※鏡と光源の距離は光源から垂直に下ろした点から鏡までの距離を表す。
x | 3 | 6 | 9 | 12 | 15 |
y | 16 | 8 | 5.3 | 4 | 3.2 |
(cm)
各班に分かれて実験を行う。実験で得られた数値から反比例の比例定数を割り出し,式を求める。等間隔で入れたスリットからレーザー光線を鏡に当て,反射した光の高さを方眼紙で測定して表にまとめる。測定値であることから誤差があることを踏まえて比例定数を求めるように注意する。生徒は(鏡とレーザーポインターの距離)×(壁に当たる光の高さ)=48を割り出し,反比例の式を求める。
<注意>
実際の実験用具は横に寝かせて使用した。これも鏡に当たる場所やスリットの幅によって実験結果が左右されるので,鏡の幅とスリットの幅は2mm以下にするようにした。また,それぞれの壁も垂直になっていなければ誤差が大きくなるため,金具で補強するなどして,なるべく垂直になるように工夫した。生徒の実験結果にはそれほど大きな誤差はでなかった。
★STEP3 得られた式を利用する。
生徒は10分の1スケールの実験装置で(鏡から光源までの距離)×(壁の光の高さ)=48を得ているので,それを利用して答えを導くことができる。実験で式を導いた時点では正解を発表していないので,その式が正しいかどうかの答え合わせの意味合いもある。実際に生徒が予想した位置の壁にそれぞれポイントを記し,実際にやってみることで答えを確認する。生徒は実験によって得られた反比例の式を利用して問題を解くことができたことに喜びを覚えていた。
生徒は実生活の中で,比例を利用することは無意識であっても体験していることが多いが,反比例を利用する体験をしたことは少ないと考えられる。また,実際にグラフを書くこと以外で双曲線が出現することは少ない。この授業では,まず双曲線を実際に壁に出現させることで生徒の興味関心を引き,双曲線が世の中に存在することを確認できることが有効であると感じた。また,そこから反比例の関係を予想し,実験による測定値を表にして式を得て,それを利用して答えを出すという流れが,この単元のまとめとして良かったのではないかと思う。関数に対して苦手意識をもってる生徒も少なくなかったが,そんな生徒でも意欲的に取り組むことができていた。生徒の感想からも,「反比例の関係がこんなところにあってびっくりした。」「実験で得られた反比例の式が当たっていてうれしかった。」「双曲線が壁にできたりして楽しかった。」という意見が多く,生徒の意欲を引き出すのに有効であったと思った。ただ,実際この授業を準備するにあたっては,鏡をできるだけ細くすることや,実験装置の壁の部分が垂直になるようにすることなど細かな点で気をつけることが多く存在した。