★授業の実際
「一次関数」
○ 私たちの身の回りの自然現象や社会現象のなかには,一方が変わると他方がそれにともなって変わるような関係が数多く存在している。実際,落体の法則,天体の運動の三原則,運動の法則の発見などに代表されるように,関数が数学に登場したのは,近世における自然科学のめざましい発展が直接の契機になっており,二つの変数を意識し,関数それ自身を考察の対象として取り上げるようになったのは,14~16世紀のルネッサンス以降のことである。関数の考えはこのように,事象の中にある変化の様子をとらえる見方から発生したものであり,変化の様子や対応のしかたを調べることにより,その性質や特徴を知り,さらにそれを利用して未知の部分を予測することができる。そのような意味で,関数の学習は自然現象や社会現象を解明していくためには不可欠な学習内容であることがいえる。
中学校第一学年においては,小学校で学習した関数概念を育てていくという基盤の上に立って,具体的な事象における二つの数量に着目して変化と対応の関係を調べ,その中での比例や反比例の関係について取り扱ってきた。そこでは,負の範囲まで広げた変数と変域や座標について理解するとともに,表,式,グラフでの表現を行ってきている。本単元では,これらの学習を基に,一次関数を取り上げ,表,式,グラフを相互に関連付けながらグラフの特徴や変化の割合など関数の関係の理解を深めることが目標となる。また,これらは,第3学年での2乗に比例する関数,高等学校での指数関数,三角関数など高次な関数に繋がっていくという点からも,大変意義深い題材であると考える。
○ 本学級の子ども(男子15名,女子14名)に行った事前調査では,「比例・反比例の学習に関心があるか」という質問に対して,2.8(5段階自己評定尺度法の学級平均値)であった。理由として,評定が高い子どもは,「規則を見つけたり,グラフをかいたりするのが楽しいから」「式にあてはめればよいので簡単」などをあげており,逆に評定が低い子どもは,「グラフがわからないから」「意味がわからないから」と答えている。「比例や反比例の学習は役に立つか」という質問に対しては,3.2であった。評定が高い子どもは「理科などにも使われる」「割合などにも使える」などとあげているが,一方評定が低い子どもは,ほとんどの子どもが「普段使わないから」を理由にあげていた。また,比例や反比例やそのグラフの特徴を理解している子どもは17名,比例の関係を式に表すことができた子どもは18名,グラフに表すことができた子どもは22名いた。さらに数学的な見方や考え方に関して,具体的な事象を比例の考えを使って説明ができた子どもは13名であった。以上のことから,子どもは,関数の学習への,興味・関心は高いとはいえず,その有用性も実感できていないととらえることができる。また,知識・理解や表現・処理の面では,グラフについての理解はできているが,式については,不十分な面が見られた。さらに,数学的な見方や考え方を問う問題に関しては,約半分の生徒が説明できておらず,数学的な見方や考え方に関しては,知識・理解面よりも著しく育っていないと分析できる。
○ そこで,本単元では,一次関数の学習に見通しをもち,筋道を立てて考え,一次関数の数理を構成するとともに,それを用いて事象を考察し,一次関数の数理や考え方のよさを実感することをねらいとする。そのために,次のような手だてをとる。
学習活動・内容 | 教師の支援と留意点 | 評価の観点と方法 | |||
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一 | 1 ① |
1 導入問題について考える。
ウサギとカメが35mの道のりの山を登る競争をする。ウサギは毎分7mの速さで4分走っては3分休むことを繰り返す。カメは,最初10m先からスタートし,そこから毎分3mの速さで休まず進む。このとき,どちらが山の頂上に先につくだろうか?
(1)表やグラフを利用して,解決する。 (2)1次関数の定義を知る。 |
・いろいろな方法で考えることができるように,見通しを交流する活動を設定する。 ・自力で問題を解決することができるように,思考を整理するシートを準備する。 ・いろいろな考え方を共有するために,小集団で交流活動を設定する。 ・1次関数について理解することができるように,比例と比較する活動を設定する。 |
・表やグラフのよさを実感することができる。 ・一次関数を知り,単元の学習に見通しをもつことができる。 |
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二 | 1 ⑦ |
2 一次関数の表,式,グラフの特徴を調べる。 (1)変化の割合について調べる。
・変化の割合の意味 (2)グラフの特徴について調べる。
・比例のグラフとの関係 (3)グラフの書き方を考える。
・傾きや切片を利用した書き方 (4)一次関数の式の求め方を調べる。
・グラフから |
・変化の割合の意味が理解できるように平均の考え方などと比較して考える活動を設定する。 ・グラフが表している意味が理解できるように,誤答を学級全体で考え,練り合いの活動を仕組む。 ・傾きの意味が理解できるように,道路の勾配について考える活動を仕組む。 ・グラフを効率よく書くことができるようにいろいろな方法を比較・検討する活動を仕組む。 ・式を効率よく求めることができるように,多様な考えを発表させ,練り合いの活動を仕組む。 ・二元一次方程式の解と一次関数のグラフの関係が理解できるように,二元一次方程式の解をグラフ上にとる活動を設定する。 ・連立方程式の解とグラフの関係を理解することができるように,思考を整理するシートを用い,解がない連立方程式,解が無数にある連立方程式について考える場を設定する。 |
・変化の割合の意味を理解することができる。 ・グラフの特徴を調べることができる。 ・一次関数のグラフを書くことができる。(技:小テスト) ・一次関数の式を求めることができる。(技:小テスト) ・二元一次方程式の解とグラフの関係が理解できる。 ・連立方程式の解とグラフの関係が理解できる。 |
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2 ② |
3 二元一次方程式と一次関数の関係を調べる。 (1)二元一次方程式の解の組を座標平面上に表す。 (2)連立方程式とグラフの関係を調べる。 ・解なしで,グラフが平行 |
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本時 11 / 15 |
三 | 1 ⑤ |
4 1次関数の数理を使って,身近な事象を考察する。 (1)携帯電話の料金プランについて考える。 ・3つのプランの中で,どれが良いか説明を考える。 ・式,表,グラフのよさ |
・使い方にあったプランを考え,他者に説明することができるように,グラフ,表,式などいろいろな方法で考えることができる思考を整理するシートを用いる。 ・表,グラフ,式のよさを実感することができるように,それぞれの必要性を考える活動を仕組む。 |
・表,グラフ,式を用い,どの携帯プランがよいか説明することができる。 ・表,グラフ,式のよさを実感することができる。 |
(2)ダイヤグラムについて考える。 (3)レポートを作成する。 5 章末問題に取り組む。 |
・レポート作成を上手にすることができるように,書き方などアドバイスを行う。 ・友達の良い点などを取り入れられるように,相互評価活動を行う。 |
(考:学習プリント) ・具体的な事象に一次関数の数理を用い,自分なりに課題をまとめることができる。 |
携帯電話の使い方にあったプランを,表,グラフ,式を用いて説明することができる。
子どもは,前時までに,1次関数の学習で,1次関数の式,変化の割合,グラフの性質,グラフの書き方,そして,グラフと2元1次方程式の関係について学習している。そこで,本時は,携帯電話の使い方にあったプランを,表,グラフ,式を用いて,説明することをできるようにすることがねらいとなる。そのために,次のような手だてをとる。
①問題提示用紙 ②学習プリント ③思考整理シート ④振り返りアンケート
学習活動・内容 | 形態 | 配時 | 教師の支援と留意点 | 評価観点と方法 |
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1 本時の学習内容を確認する。 (1)問題を把握する。
めあて
2人の先生により良いプランを紹介しよう。 (2)表,グラフ,式のどの方法で考えるか見通しを立てる。 |
一斉 / 全体 |
10 |
・解決する方法の見通しをもつことができるように,表,グラフ,式という3つの視点で考えることを確認する場を設定する。 ・いろいろな方法を交流することができるように,ペアでどの方法で考えるか交流する。 |
|
2 おすすめの携帯プランを紹介する説明を考える。 (1)個人で追究する。
・式の利用 ・グラフを利用 ・表での説明 (2)ペアで自分の考えを説明する。(3)全体で発表する。 |
個 / ペア / 全体 |
30 |
・自力で問題解決することができるように,表,グラフ,式,それぞれの思考を整理するシートを準備する。 ・いろいろな方法で考えることができるように,早く終わった子どもには,別の方法で考えるよう指示する。 ・自力解決することができるように,なかなか進まない生徒には,別の方法で考えるよう促す。 ・自分の説明を強化することができるように,ペアで説明する活動を仕組む。 ・いろいろな考え方を共有することができるように,学級全体で発表する場を設定する。 |
・おすすめのプランを説明することができる。 |
3 本時のまとめを行う。 (1)それぞれの考え方を振り返る。 ・説明方法のどんなところがよいか。 ・一番わかりやすい説明はどれか。 (2)次時の予告を聞く。 |
全体 / 個 |
10 |
・それぞれの考え方を振り返ることができるように,全体で交流する活動を仕組む。 ・本時の学習した内容から,それぞれの表現のよさについて考えることができるように,次時の予告を行う。 |
① 思考を整理するシートの特徴
数学科では,数学的活動として,「数学的な表現を用いて,根拠を明らかにし筋道立てて説明し伝え合う活動」が重視されている。本実践は,携帯電話の使い方にあったプランを,表,グラフ,式を用いて説明することをできるようにすることをねらいとしている。そして,表,グラフ,式のいずれかで考えることができるように,下のように3種類の思考を整理するシートを準備した。上の欄には,それぞれ表,グラフ,式で数学的に考えることができるような欄を設け,下の欄には,数学的に考えた結果をもとに,言葉で説明する欄を設けた。
【資料1】思考を整理するシート
② 思考を整理するシートのねらい
自分の考えを他者に説明することができるように,自力解決を促し,その考えをまとめることができる。
③ 思考を整理するシートの活用の仕方
本実践での思考を整理するシートは,学習活動2(1)の問題を個人で追究する活動と,2(2)の自分の考えを他者に説明する活動で活用する。学習活動2(1)では,できるだけ自力で解決することができるように,表,グラフ,式のいずれかを使って考えるようにさせた。そして,数学的に考察した後に,表,グラフ,式を見て,客にどうやって説明をするかを書かせた。
2(2)のペアで自分の考え方を説明する活動では,ペアで携帯ショップの店員と客という設定で,客側から質問をしたり意見を言ったりして,自分の説明をよりよいものに付加修正させた。
本実践では,一次関数を利用して事象を考察し,表,グラフ,式を用いて説明することができることをねらいとした。子どもは,これまでに学習してきた一次関数を利用し,【資料2】のように,どのような方法で課題を解決していくか見通しを立てていった。また,この段階で,見通しをもつことができずにいた子どもがいたので,それぞれの方法を交流する活動を仕組んだ。その後,自分で選んだ方法を基に課題解決を行った。なかなか考えが進まない生徒には,机間指導の中で,それぞれの見通しにあったアドバイスを行った。そして【資料3】のように課題を解決していった。
次に,ペアで,客役と店員役にわかれて,それぞれの考え方を説明しあう活動を取り入れた。【写真1】は,ペアで説明する活動の様子である。子どもは,自分の考えた方法をできるだけわかりやすく伝えようと積極的に説明する姿が見られた。さらに,お客さん役の生徒が,店員さん役の生徒に質問したり,アドバイスしたりすることで,自分の説明を付加修正していった。その後,全体で発表を行った。ここでは,数学的な表現については確認したが,その解釈(どのプランがいいか)については,言及しなかった。最後に,次時につなげるために「表,グラフ,式,それぞれどの方法がいいか」と全体に質問し,表,グラフ,式のよさを考えさせた。
【資料4】は,おすすめの携帯プランを,表,グラフ,式を用いて説明することができたかを評価基準に照らし合わせて分析した結果である。Aレベルの子どもは10名,Bレベルの子どもは13名,Cレベルの子どもは6名であった。いずれかの方法で数学的に考察し,根拠を基に説明できた子どもをAレベル,数学的に考察できているが,根拠が不十分な子どもをBレベル,それ以外をCレベルとした。29名中23名は,自分なりの説明はできていた。