数学の授業では,小学校から中学校にかわり,負の数や証明問題など,具体物の操作だけでは学習しきれない内容が増える。さらに,高校,大学へと進むにつれて,念頭操作のみで学習が進んでいく機会が増えていく。具体物を通して学習してきた小学校に対して,念頭操作のみでの学習は,視覚的,感覚的に捉えられず,その内容がどこで活用されているのかを実感できず,学習意欲の低下につながる。中学校の数学の学習は,まさに具体操作と念頭操作をつなげる時であると考えられる。
しかし,実際に具体操作をしているだけでは,問題が解決しないことも多い。そこで,具体操作を通して,そこから得られた数値を活用し,問題解決に向けての見通しを立て,一般化していくことができれば,身の回りにある数学が活用されていることを実感し,数学の有用性を感じることができるのではないかと考え,本実践を行った。
「立ち上がる平面図」は立体に見える平面図であり,細長くかくことで,離れたところから見ると立体に見える。トリックアートのような形でテーマパークであったり,走っている自動車の減速を促すための道路標示に使われたりしている。立体に見せるために,横から見たときの人の位置と立方体の位置の関係では,相似な三角形が存在しており,上から見たときの人の位置と立方体の位置の関係には,平行線と線分の比の関係が存在している。「立ち上がる平面図」は,相似な三角形の辺の比の関係を使うことで,平面上にかかれた図の辺の長さを導き出すことができる。実際に道路標示などで活用されていて,一見,数学と関係ないように思えるものが,実は数学によってその辺の長さの関係を解明することができ,数学の有用性を感じることができると考えられる。
学習内容 | 教師の営み |
---|---|
どうして立体に見えるのかな
・かかれている絵は細長いのに,ある場所から見ると立体に見える ・立方体は色がついていないのに立体に見える |
・立体に見える平面図の不思議さを実感できるように,道路にかかれた立体に見える道路標示や立方体に見える平面図の動画を見せる |
立体に見える仕組みを調べよう
・まずは立方体が立体に見える仕組みを調べたい ・立方体からどのくらい離れて見るのか,どのくらいの高さから見るのか ・立方体の頂点がどこになるのか |
・見る位置や高さを変えることによって,立体に見える立方体の辺の長さが,どのように変化するのかを調べられるように,パイプでつくった立方体を使って,立体に見える立方体をかく |
辺の長さの関係を調べよう
・2組の角がそれぞれ等しいから,△ABC∽△DEC∽△AFDの関係になっている ・DE=a:立方体の高さ
|
・辺の長さの関係が比較できるように,横から見たときの人の位置と立方体の位置の関係がわかる図をかく |
上から見たときの図はどんな形になっているのかな
・yの値はcが関係していないから,立方体までの距離は関係ない ・立体に見える立方体の上面は,平面にかくとき,正方形になる |
・横から見たときの様子と上から見たときの様子が比べられるように,下図のような図をかく
|
3種類の動画を見せた。外国の道路標示で女の子がボールを拾おうとしている絵のかかれたものと,ブロックのかかれたものと,床に置かれたろうそくの火が立方体に見えるものである。それぞれ見せると不思議がり,その仕組みを調べようとした。
立体に見える立方体の辺の長さの関係がどのようになるのかを調べるために,実際にパイプの立方体をおいて,どのようにかけるのかを試した。底面はパイプと同じ位置になるが,上面がどの位置にくるのかわからない。そこで,地面の視線の先に点を取り,上面をかくことで,「視線の高さ」,「パイプまでの距離」,「パイプの高さ」,「頂点までの距離」の距離の関係を見つけることができた。そこから,横から見たときの様子を平面図に落とし,一般化を進めることができた。
立ち上がる平面図の追究をしてきて,相似な三角形が隠されていて,辺の比を考えていくと,立体に見える平面図がかけることがわかった。はじめは,どのように追究すればよいのかわからなかったけれど,実物を写し取ったりすることで,辺の比について考えることができた。立体に見える立方体の上面の辺の長さが全部同じになることや,視点からの距離が同じでも長さが変わらないことには驚きました。実際に立ち上がる平面図をかいてみたいです。
(単元を終えた子どもの感想)
実際に問題解決に対して見通しがもてない内容に対しても,具体操作を取り入れることで,問題に対して積極的に取り組み,そこから一般化まで進めることができた。子どもが興味関心をもって,しかも具体操作を取り入れて学習が進められる単元を構想することで,数学の有用性を感じることができる。今後も子どもにとって魅力ある単元を構想していきたい。