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数学

生徒が,自らともなって変わる多様な数量を見付け,関数的な見方や考え方を育てる指導
- 中学校第1学年「変化と対応」の授業実践を通して -

富山県射水市立射北中学校 伊東 学

1.はじめに

生徒は小学校において,ともなって変わる2つの数量の関係を表や式,グラフで表したり,調べたりすることを学習してきた。中学校では,ともなって変わる2つの変数x,yがあって,xの値を決めると,それに対応してyの値がただ1つに決まるとき,yはxの関数であると定義する。

本実践では,多様な種類のともなって変わる数量を見いだすことができるような題材を設定した。また,ともなって変わる数量を見いだす中で,既習事項では説明できないともなって変わる数量を見いだすことで,関数概念の必要性を高める工夫をした。既習の内容で解決できないということを感じることは新しい学習内容への意欲付けにつながっていくのではないかと考える。

まず小学校で学習した,比例などの既習事項を確認する。次に,1辺が16cmの正方形の厚紙の四すみから,同じ大きさの正方形を切り取って箱を作る活動を取り入れて,ともなって変わる数量を見付けさせる。そして,ともなって変わる2つの数量の関係を,表を用いてとらえさせ,「xの値を決めると,それに対応してyの値がただ1つに決まる」ときに2つの数量の間に関数関係が成り立つことを理解させたいと考え,本実践を行った。

2.学習指導の工夫

(1)ともなって変わる数量を見いだし,実感できる題材の工夫

本実践では,正方形の一辺の長さと正方形の周りの長さとの関係を表で確認し,小学校で学習した比例を想起させた。その後,1辺が16cmの正方形の四隅から同じ大きさの小さな正方形を切り取って箱を作った。そして,切り取る正方形の1辺の長さを変えるとき,それにともなって変わる数量を見付ける場面を設定した。実際に,具体物を並べて比べるなどすることで,変化している部分を見いだし,ともなって変わっていることが実感できると考える。また,独立変数を小さな正方形の1辺の長さにすることで,ともなって変わる他の数量を整理して考えられるように工夫した。

(2)関数概念の必要感を高めるスパイラル学習

生徒は,小学校において比例,反比例について表,式,グラフなどを用いて対応と変化の特徴を調べ考察してきている。中学校1年生では,小学校で学習した比例,反比例を関数の一つとしてとらえ,その特徴を一般化していくことを重視している。このように,関数領域は小学校から継続的に指導されてきた内容であり,スパイラル学習としてとらえることが大切であると考える。

このことを踏まえ,多様な視点や角度から見たり考えたりして,変数と関数との対応の関係を表や式,グラフを用いて表現した。そして,変化に規則性があると気付いたが,これまで学習した比例や反比例の関係では説明できないことで,関数概念への必要感を高められるのではないかと考えた。

3.授業実践

(1) 単元名  第1学年  変化と対応

(2) 本時の指導

① 本時の目標

② 展開

配時 学習内容 学習活動 指導上の留意点
10 小学校の振り返り
復習問題
正方形の1辺の長さを変えるとそれにともなって何がどのように変化するだろうか。

・正方形の一辺の長さの変化にともなって変わる数量を考えさせる。今回は周りの長さ(比例)のみを扱うように指示する。

   
・比例になっている。
・正方形の周りの長さが4ずつ増えている。

・小学校では2つの数量の関係を調べるときに表や式,グラフという方法があったことを思い出させる。

20 導入
問題
1辺が16cmの正方形の四すみから同じ大きさの正方形を切り取り箱を作る。切り取る正方形の1辺の長さを変えるとき,それにともなって変わる数量を見付けよう。
  (個人)

○1辺の長さが16cmの正方形の厚紙の四すみから同じ大きさの正方形を切り取り,側面となる部分を折り曲げて箱を作る。

・班で大きさの違う箱を作るように指示する。

○作った箱を観察し,切り取る正方形の一辺の長さにともなって変わる数量を見つけ,発表する。

(辺に関するもの)

・底面の1辺の長さ

・底面の周りの長さ

・底面の対角線の長さ

・箱の高さ

・切り取った後の図形の周りの長さ

・切り取った正方形の周りの長さ

・ともなって変わる数量が,なかなか見つからない生徒には,辺の長さや面積,体積などの観点にそって,ともなって変わる数量を見付けるように促す。

・底面や側面などの名称を確認する。

・変わる数量を,できるだけ多く見付けるよう助言する。

(面積に関するもの)
・底面積
・側面の一つの面の面積
・側面全体の面積
・展開図の面積
・切り取った正方形の面積

(体積に関するもの)
・箱の容積

 
課題の提示
課題 ともなって変わる2つの数量の関係を調べよう。
15 課題の追究(全体)

○切り取る正方形の1辺の長さx(cm)と底面の1辺の長さy(cm)について,表で調べる。

・ともなって変わる2つの数量の関係を調べさせる。


・yが2ずつ減っている。
・比例や反比例ではない。

◎「x,yのように,いろいろな値をとる文字を変数といい,xの値を決めると,それに対応してyの値がただ1つに決まるとき,yはxの関数である」ということを知る。

具体的な事象の中にある,2つの数量の関係に関心をもち,観察を通して関数について調べようとしている。(ワークシート・発言)

・変数と関数の定義について伝える。

※ともなって変わる数量が1対1対応していることに気付かせる。

(グループ)

○グループを作り,切り取る正方形の1辺の長さx(cm)と底面積y(cm)について,表で調べ,関数かどうか,吟味する。

・グループで自由に調べさせる。

・友達の箱も見て,変化する数量を具体的に調べさせる。

・各班に画用紙を配り,発表の準備をさせる。

・切り取る正方形の1辺の長さを決めると底面積が決まるので,これは関数である。

・それぞれの班で調べたことが関数になっていることを確認させる。

○班で変化の様子を調べたともなって変わる数量が,関数になっているかを確認する。

関数の意味を理解しているか。(ワークシート)

まとめ(全体)
問題 x歳の人の身長ycmは関数といえるだろうか。

・年齢が決まっても身長は決まらないので,関数ではない。

○次時は,本時に調べたともなって変わる2つの数量の関係の変化の様子を詳しく調べる。

・年齢が決まっても,身長は一つに決まらない。決まらないということはどういうことだろう。

③ 板書

(3) 授業の実際

①ともなって変わる数量を見いだし,実感できる題材の工夫について

具体物を用いたグループ活動で,順序よく箱を並べたり,重ねたりすることで,ともなって変わる数量の変化を見いだし,実感することができたようである。また本実践では,一枚の正方形という平面図形から,箱という立体図形を作成させた。この素材により,生徒が多様な関数関係を見いだすことができ,意欲的に課題に取り組むことができたのではないだろうか。そして,独立変数を切り取る正方形の1辺の長さに固定し,比例の振り返りから一貫して使用することは生徒の理解の一助になったと考えられる。

②関数概念の必要感を高めるスパイラル学習

生徒は様々なともなって変わる数量を見いだし,それぞれについてどのように変化をしているかを調べた。その結果,比例するものもあったが,比例も反比例もしないものを生徒たちは見付けた。はじめは,「比例でないものは,反比例。」と決めつけていた生徒たちは,調べていくうちに反比例ではないことに気が付いたようである。比例でも反比例でもないが,規則性があることは感じており,これまでの学習内容で説明できないもどかしさを覚える生徒も多くいた。そこで関数を定義することで,生徒はすっきりと学習内容を理解することができたようである。また,関数でない題材も扱うことで,関数概念をより的確に理解することができたと考えられる。

4.今後の課題

本実践では,箱という立体を扱うことで,中学校1年生で扱う関数以外のともなって変わる数量を生徒は多数見いだした。2年生や3年生,さらには高校で扱う範囲のともなって変わる数量を見い出す生徒もいた。今後,一次関数や二次関数の学習につながる体系的な単元構成を考えていきたい。