中学校数学科においては,いろいろな事象の中に潜む関係や法則を数理的にとらえ,数学的に考察し処理できるようになることをねらいとして「関数」指導が行われる。第3学年においては,関数y=aχ2の他,既習の関数ではとらえられない関数関係があることについても取り扱い,この学習を通して,一意対応としての関数の意味が明確になる。
しかし,二つの数量の関係が既習の関数でとらえられないような場面に出くわしたとき,生徒はそれらの関係についてどのようにして特徴をとらえたり考察したりすればよいのか戸惑い,中には関数ではないと認識してしまうことも懸念される。
そこで,「いろいろな事象と関数」の授業実践を通して,一意対応としての関数の意味を明確にするとともに,比例や反比例,1次関数,関数y=aχ2などとしてとらえられないような場合でも,具体的な事象の中から伴って変わる二つの数量の関係について関数の考えを用いて主体的に調べようとする意欲や関数を問題の解決に活用しようとする態度を育てたいと考え,本実践を行った。
(1) 学習問題の工夫
生徒の身の回りにありそうな事象の中から問題場面を設定することにより,解決への意欲をもたせたいと考えた。また,比例や反比例,1次関数,関数y=aχ2などとしてとらえられないような事象を問題場面に取り上げ,そのような場合に,伴って変わる二つの数量の関係についてどのようにして特徴をとらえたり考察したりしていけばよいのかということを考え,学習する機会とした。
(2) 指導の工夫
指導にあたっては,まず,具体的な事象の中から関数関係にある二つの数量を見いだすことを大切にしたいと考えた。日常の事象を関数の考えを用いて解決しようとするときには,どの数量に着目して考えるのかということについてはっきりさせる必要があり,伴って変わる二つの数量をとらえることが問題の解決への第一歩であると考えたからである。
さらに,その見いだした二つの数量について変化や対応の特徴を調べる手がかりとして,表やグラフに表す活動を取り入れた。表やグラフから二つの数量の関係について考える手がかりを得ることができ,生徒が解決への見通しをもつことができれば,数量の関係を主体的に調べようとする意欲や関数を問題の解決に活用しようとする態度が育成されていくと考える。
(1) 単元名 第3学年 関 数
(2) 本時の指導
① 本時の目標
これまでに学んできた関数とは異なる関数について,表やグラフで表すことを通して変化や対応の特徴をとらえ,問題を解決しようとする。 (数学への関心・意欲・態度)
② 展 開
学習活動・内容 | 支援と評価(◎は評価) |
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1 学習問題を把握する。
生徒会では,支援物資を送る計画をしています。ともみさんは,下の配送料を見てどちらの宅配業者を利用するか迷っています。
支援物資をどちらで送れば料金が安くすむかを考え,ともみさんに教えてあげよう。ただし,荷物の重さは20kgを超えないものとします。 |
・「もし3kgの荷物を送るとしたら」などと具体例を挙げ,配送料金について正しくとらえられるようにする。 ・調べたり考えたりして分かったことを人に教える,という問題の設定にすることで,学習意欲を高めたい。 ・具体的な事象に潜む数量関係に目を向けられるよう,問題場面の中から伴って変わる二つの数量を見いだす活動を大切にする。 ・伴って変わる二つの数量を自ら見いだすことにより,解決に向けて主体的に学習できるようにする。 ・「関数」の定義を復習し,重さと料金は関数関係にあることを確認するとともに,関数的な考え方で考察していくことを確認する。 ・表を作る際には,何をχ,yとするのかを明確にするよう助言する。 ・表を作ることが困難な生徒には,χ=1,2,3…と順序よく調べるよう支援する。 ・グラフに表現することは困難であることが予想されるので,全体で確認する。特に,○や●の意味について,ていねいに取り扱う。 ・グラフが階段状の線分になることは,ある区間の料金が一定であることを意味することが理解できるようにする。 ◎表やグラフに表すことを通して対応の特徴をとらえることができたか。 ・χの変域に注目して場合分けをしながら料金について考えていけばよいことを助言する。 ・友達の考えも参考にしながら,よりわかりやすい表現ができるようにする。 ◎関数の考えを用いて主体的に問題を解決しようとしているか。 ・これまでに学習したもの以外の関数にも,関係を調べるのに表やグラフが有効であることを確認し,進んで関数を活用しようとする態度を育てたい。 |
2 解決方法の見通しをもつ。
・表 ・グラフ |
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3 重さと料金の関係を調べる。 (1) 重さと料金の関係を表やグラフに表す。 (2) 二つの数量の変化や対応の特徴を確認する。 |
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4 3で調べたことをもとに,どちらを利用すれば料金が安くすむか考える。
○グラフが下になっている方が料金が安いので ・2kg以下,または5kgより重く15kg以下のときはT急便 ・2kgより重く5kg以下,または15kgより重く |
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5 本時のまとめをし,学習を振り返る。
○ 表やグラフに表し,関数の考えを用いれば,数量の関係を考察することができる。 |
(3) 授業の実際
① 主体的な学習への取り組みについて
生徒の身の回りにありそうな事象として,まだ重さの確定していない荷物を送る場面を問題として取り上げた。既習の関数ではとらえられない数量の変化や対応に戸惑う生徒も多く見られたが,関数の定義からこれは関数の関係にあるということを確認し,表やグラフなどに表していけば解決できそうだという解決への見通しと意欲をもつことができた。これは,本時の学習への主体的な取り組みにつながった。
② 関数の考えを用いることについて
生徒は,問題場面から伴って変わる二つの数量を見いだし,「料金」が「重さ」の関数になっていることをスムーズに確認することができた。
二つの数量の関係について考える手がかりとしては,まずグラフに表現しようとする生徒が多かった。しかし,T急便の料金表から,(2,640),(5,870),(10,1110)…と座標をとった後,それらの点をどのように結べばよいのか迷う生徒や折れ線グラフのように結ぶ生徒が多くいた。線の引き方に困り,表を書いて詳しく調べようとする生徒も出てきた。そこで,「1kgの荷物を送る料金は320円ではない」ことや,「χ=0.5に対応するyの値は640」,「χ=0.1では…」などとχとyの対応の仕方について確認し,グラフが階段状になることを理解することができた。
次に多くの生徒が迷ったのが,χ=2のときのグラフの表し方である。(2,640)と(2,870)を縦に結ぶ生徒や,縦には結ばないもののy=870の線分を(2,870)の点まで引くとχ=2に対応するyの値が640と870の2個存在することに矛盾を感じて困惑する生徒が出てきた。これらのことについて指導することは,一意対応という関数の定義を確認するのに大変有効であった。
グラフがかけた後は,どちらが安いのかをグラフから判断することができ,生徒は関数の考えを問題の解決に活用することのよさを感じ取ることができた。
<参考文献>