本校は上田市内を流れる千曲川の川西地区に位置し,東に独鈷山,西には浅間山を眺めることのできる塩田平の中央に位置している。来年度,創立55周年を迎える本校は,学級数21学級,生徒数618人の市内でも大規模で歴史ある学校である。玄関前には『学海の碑文』がある。
その碑には,1225年ごろ,大明国師が塩田に来て天台宗の学問をしたことが記されている。当時,塩田は信州の学問の盛んな地として知れ渡り,遠方から多くの人々が集まり,無駄な日がないほどよく勉強をしたと刻まれている。
本校の生徒は,明るく人懐こく素直な気持ちを持っている。反面,受け身な部分が少なくなく,自分の思いを言葉に表して表現することに抵抗感を持つ姿が授業の中,生活の中で目に付く。結果,コミュニケーション不足による対人関係の未熟さや協力してよりよい集団生活を築いていこうとする意識が継続しない面を持っている。
本校では,過去3年間「楽しい授業」を研究テーマの中心に据え研究を進めてきた。
その結果,
といった一定の成果を得ることができた。同時に,
などの課題が残された。
本年度は,生徒の実態をとらえ直す中で,相互のかかわりを深めていくことが,より一層力を伸ばし,自他のよさに気づく授業につながるのではないかと考え,「人との関わりから『わかる喜び』『できる喜び』が実感できる教科指導~コミュニケ―ション力をキーワードとして~」を全校研究テーマに据え,日々の授業を積み重ねてきている。
長野県教育委員会実施の「平成24年度 学力向上のためのPDCAサイクルづくり支援事業」のP調査問題に本校2年生が国語,数学,英語の問題に参加した。
数学の問題は以下の5題である。
問 題 | 県平均との 比較 |
---|---|
【1】 正負の計算 |
マイナス |
【2】 関数 |
プラス |
【3】 一次方程式 |
マイナス |
【4】 空間図形 (円周率はπ) |
マイナス |
【5】 文字を用いた式 そして,4x-4(個)について,どのようにご石を囲んで考えたのかを,下のように説明しました。 4x-4(個)について,どのように石を囲んで考えたのかを,上の説明を参考にして説明しなさい。(囲んだ部分が分かるように図に をかき込むこと) |
マイナス |
調査結果から,数学的な表現を用いて説明する問題に苦手意識があり,何を答えたらよいのか迷ったり,手がつけられなかったりという課題が明らかになった。授業での生徒の様子や定期テストでの答え方などと合わせてみると次のようなことが考えられる。
これらの結果から,自分の考えを説明したり,言葉で書いたりすることを積極的に授業へ取り入れなければならないことがみえてきた。授業の中で,自分の考えていることや,他の人の考えを相互に伝えあうことが必要なのではないか。そして,このことが,コミュニケ―ション力を鍛えていくことにもつながるのではないかと考える。
授業の中では,
⇒授業の課題把握の段階で,自分の近くの人と関わる。気楽に疑問や困っていることを話してみる。同じことで困っている,心配しているといったことが互いにわかり安心できる。
⇒授業の共同追究の段階で,机を合わせグループにして,自分の書いたものを手がかりに,学習課題を解決していく方法について情報交換をする。場合によっては,意図的に,考え方や方法の同じ人,または,別な考え方や別な方法で答えを示している人を組み合わせて意見交換をさせることによって,考え方の広がりや自分の考えの修正が期待できる。
などを手立てとし授業改善を探っていきたい。
数学の授業の中で,他の人と関わり,コミュニケーションをどのようにとっていけばいいのか。「コミュニケーション」をキーワードとして,学習展開を仕組み,自分の思いや考えを伝えあう力を伸し,生徒がわかる喜びやできた喜びを実感できる学習を充実させていきたいと考える。
「自分の思いや考えを伝えあう力を伸ばすために,よく知られている教材ではあるが,今回は「計算三角形」を活用することにした。小学校低学年では,加法・減法の計算の習熟に活用されることが多い。しかし,ここで,「本当にこの数字でいいのだろうか」と発問すると,中学生にとっては,「他にもありそうだ」,「違う組み合わせでも成り立つかも」「負の数だって入るかもしれない」と今までの学習経験から,興味を持つとともに,多様な考えを多くの生徒が持つことが予想される。そして,計算三角形の6つの数字の間にある関係性に注目し,それを式で表現できることが,この教材のもつよさと考える。その文字を含んだ式をつくる場面を,生徒同士のコミュニケーションにゆだねてみたい。生徒同士のやり取りの中で,おそらく,「6つの数の関係」に注目したり,文字を使った等式を作ってみたり,順に数をかえて規則性に着目したりする場面が作れるのではないか。互いの主張を伝えやすくするために,班に1枚ずつホワイトボードを配布することによって「わかっていない数は,本当にひとつしかない」ことが根拠をもって話せることがねらえるのではないかと考える。
文字を使わなくても□の中の数字を求めることは,小学校で逆思考的な方法で解いたり,種々の工夫をしたりしながら問題を解いてきている。中学校では,文字xを使って,数量関係を等式に表し,その等式を成り立たせる文字の値を求めていく。このまだわかっていない文字xは一つに決まることを理解させたい。そして,方程式の解を形式的・数学的に解くことを習熟させたい。
1節 方程式 | 1 方程式とその解き方 | 3時間 |
2 方程式の解き方 | 4時間 | |
3 比と比例式 | 1時間 | |
2節 方程式の利用 | 1 方程式の利用 | 5時間 |
計算三角形の空欄の数を求める場面で,グループ活動の中で,根拠をもってこの数に決まることを説明することを通して,自分の思いや考えを伝えあい,文字xの値は,ただ一つに決まることを理解する。
次時:等式の性質を理解し,それを利用して方程式を解く。
段階 | 学習活動 | 予想される生徒の反応・会話 | 指導・助言 評 価 |
時 | |
---|---|---|---|---|---|
課題把握 | 問題をつかむ ・ 見通しをもつ |
1,「計算三角形」のルールを知り問題を解く |
*となりあう2数の和を外の〔〕へかけばいいんだな。 *簡単にできそうだ。 *ちょっとちがうタイプだけど,できそうだ。 *6つの場所のうち,3つわかればできそうだ。
【学習問題】
計算三角形の6つの数字のうち3つがわかっていれば,残りの数字は求められるだろうか。 *この数字でいいのかな。他の組み合わせもあるのかな。 *数字同士に関係はあるのかな。 |
◇黒板に正三角形をかき,中を三等分,それぞれの辺に〔〕をのせて書く。 ◇三角形の中の三等分したところに一つずつ数字を入れて,外の〔〕に入る3つの数字を考えさせる。 ◇3つがわかっている計算三角形を提示し,空欄に入る数字が決められるか考えさせる。 ◇この6つの数字の値の関係にきまりがないか目を向けさせる。 |
7 分 |
追求 | 個人追究 | 2,外側3つの数字しかわかっていないタイプの解き方を考える 3,どうやってみつけたか情報交換をする |
【学習課題】
計算三角形の外の〔〕だけしかわかっていないとき,その外の数字はどうやって求めるのだろう *勘ではできなさそうだ。 *どこから決めたらいいのかわからない。 *負の数の組み合わせもあるのかな。 *外側の小さい数字から決めていくとやりやすい。 *これで完成したけど,他にもありそうな気がする。 *一つを文字にすると,他の2つもその文字であらわせるから,式にできそうかも。 |
◇このタイプだと困ることを言わせる。 ◇勘でなく,説明できる方法で解くことを伝える。 ◇『本当にこの数字の組み合わせしかないのか確認しよう』 ◇机間指導では文字を使って説明するように助言していく。 ◇近くの友だちと情報交換をさせる。 ☆困っていること。 ☆たぶんこうだと思うけど自信のないわけ。 ☆これでいいのか確認。 ☆他に組み合わせはないか相談。 |
13 分 |
共同追究 | 4,答えとその数に決めた方法を発表しあう |
*外の一番小さい数の組み合わせからさがした。 *一番小さい数字を文字xにして,組み合わせを考えた。 *一番小さい数字は,足し算の式が考えやすいからここから決めていった。 *3つのうち一つがきまれば,残りが決まるから,文字でも表せそう。 *文字を使えば,どんな組み合わせでもできそうだ。 |
◇どうやってみつけたか,順番に話をさせていく。 ◇どの数からみつけていったかを言わせる。
6つの数字の関係のきまりを自分なりの言葉で表現することができたか。(友だちとのかかわり,ノート等)
◇『文字を使って三角形の中の数字が一つに決まることを確認していこう』 |
10 分 |
|
確認 | 5,班ごとに計算三角形の問題を作成する 6,問題として成り立つか班の中で確認する |
*負の数も入れてみよう。 *大きな数で作ってみたい。 *作り方は自信がないけど,解くほうならできそうだ。 *答えの確認ならできそうだ。 *どこを空欄にするか迷う。 *○○くんのは工夫がしてあっていい。 *△△さんのは負の数で作ってあって考えてある。 |
◇計算三角形の問題を作ろう。(3つは先に文字を指定した問題を作る) ◇班で,相談する中で,数字同士の関係を確認させていく。 ◇ホワイトボードを配布し,班の中で,それぞれが考えた問題を記入し,互いに交換しこの数字にしたわけや工夫したところを意見交換する。 |
10 分 |
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一般化 | 定着活用 | 7,文字を使うよさと一つに決まることの確認 |
*他の班は,負の数が使ってある。 *文字であらわしていくと,勘を使うより安心できる。 *答えが一つしかないことが納得できた。 *等式が成り立てば,うまく決まっていく。 |
◇班で黒板に提示する問題を一つに決めさせる。
等式を使って文字xをさがす方法がわかったか。(問題への取り組み,ノート等)
|
10 分 |
S4「他にも組み合わせがないか確かめてみたいけど,わからない。教えて」
問題を作る人,確認をする人,ほんとうにこの答えしかないか考える人など分担し取り組んだ。S3は等式ができるとS1とS4に説明。大きな数字でも,一つに決まることを納得させた。
*すぐに交換して終わってしまったグループには,「負の数を入れて数字を決める問題はつくれないか」と助言すると,ホワイトボードに書いては消してを繰り返した。4人が納得すると,それぞれのノートへその問題を書き写した。
どの問題からでもよいことにして,それぞれがノートへ書き写して取り組んだ。数字の並びを見て,解けそうなグループの問題へ取り組む姿もあった。
①実践の成果
②課題
本時の中で,まず,「まだわかっていない数は,本当にひとつしかないんだ」ということについて,「わかった,そういうことだったのか」と生徒が実感できる内容をはっきりと決めることが必要である。その上で,席の周りの人やグループの中で,自分の考えていることでいいのか(方向),やり方はいいのか(方法),求めた事はあっているのか(確認),別な考え方があるんだ(学びあい)などを情報交換し合うことによって理解を深めていくことができると考える。
教師は,生徒が互いの考えてきたことや,困っていることを共有できるように,コミュニケーション活動を支援することが必要である。これからも,授業の中でわかる喜び,できる喜びを実感し,次への学習へ向かうエネルギーを持続できるような授業づくりを目指していきたいと考える。
【参考文献】