1次関数は,中学生が最も苦手とする単元の1つである。生徒は,関数の表現方法として表・式・グラフがあることやその3つの関係性を理解していないことが多い。それぞれをまったく関係のない独立したものと思っている生徒もいる。したがって,関数の働きを意識せずにただ単に形式的に式からグラフをかいたり,グラフを式で表すだけの学習になっていることが多い。生徒に,その関数にはどんな意味があるのかをしっかりと捉えさせながら,しかもきちんと学習した内容が定着できるように指導するにはどうすべきかを考えた。
平方根の根号の中の数値を簡単にすることを定着させるために平方根トランプがよく活用されている。私もこれを利用するが,この実践は単なるドリル計算ではなく,カードゲームを通して生徒が楽しみながらその変換方法を理解していくものである。また,ゲーム形式で学習するので生徒の感情が伴う経験記憶となる。これを1次関数に応用しようではないかと思い,式カード,表カード,グラフカード,用語カードの4種類をハート・ダイヤ・クローバー・スペードに見立ててトランプを製作した。(4枚/組 × 11組=44枚)トランプを紙に印刷し,それをラミネートした。最初は,すべて黒色で印刷したが,数学を苦手にしている生徒にもわかるように傾きを赤色,切片を青色で表現した。
各グループに1次関数トランプを配布する前にもう1度,既習事項である式・表・グラフ・用語の特徴を確認するための小テストを実施した。
まず,グラフを見せて,y=2x+1の関数を式・表・用語(傾き・切片)に変換させた。そして解答の際に,切片とグラフの傾きが式・表・用語ではどのように表現されるのかを確認した。その後,4人グループを作らせ1次関数トランプと仲間シートを配布した。仲間シートと同じ順番で式・用語・表・グラフを並べるように指示し,カードがきちんと揃っていることなどを確認させた。生徒は一生懸命仲間シートを見て,級友と協力しながらこの最初の作業を続けた。
トランプの神経衰弱のようにカードを裏返しにして並べて,同じ関数のペアを見つける。見つけた人は,失敗するまでこれを繰り返す。なぜ,神経衰弱を最初に行うかというと,これはグループでしっかりと確認しながらゲームを進めることにより,既習事項がきちんと定着していない生徒も理解をするようになるからである。このとき注意することは,カードをばらばらにするとなかなか同じ関数(ペア)が見つからないので,仲間シートの式・用語・表・グラフの縦の並び中で順番を変えるように指示することである。
神経衰弱では一般的に1番多くカードをとった人が1位であるが,それでは数学が得意な生徒が勝つ可能性が高くなる。そこで,優勝者決定カードというものを製作した。
0時から x分後の基準点から水位を ycmとする設定で1次関数トランプと同じ関数になるようにカードを11枚作った。そして,式・用語・表・グラフというカードを1枚ずつ作り,優勝を決定する際には,式・用語・表・グラフから教師が1枚選び,その後,11枚の文章カードから1枚選んだ。
このようにすることで,関数と現象を強く結びつけることができるようになった。生徒は,優勝が決定する瞬間教師の引く文章カードに集中し,多くの生徒がどのカードを持っている人が優勝なのかをきちんと理解していた。
次に行うゲームは,ジジ抜きである。これは,44枚のカードから裏返しにしたままで1枚カードを抜き取る。これがジジとなり,このカードと同じ関数を最後まで持っている人が負けとなる。しかし,これでは誰か1人でもペアとなるカードを間違えたまま捨てるとゲームが成立せず,いつまでたっても終わらないということになる。
したがって,最後がきちんと1枚になることがグループの勝利であることを確認してからゲームに入った。 やみくもに手元にある11~10枚のカードを見ても,なかなか同じ関数は見つからない。そこで,「切片と傾き,どちらがすぐにわかるかな」と生徒に聞く。すると生徒は,「切片」とこたえる。なぜなら,表の傾きは,頭の中できちんと計算しないとわからないからである。
したがって,生徒に「まず切片に注目すること。そして,切片の値が小さい順にカードを並べるように」と指示した。
次に,「そうすると,同じ切片のカードが並ぶよね。そこまでできたら,今度は傾きを比べるんだよ」と告げると見つかるようになる。ゲームが成立することがグループの勝利であると言っているので, 積極的に学び合いが行われた。
また,生徒はどこで間違えたかがわかるように出し方にも工夫するようになった。最初はゲームが成立しない班もあったが,失敗したことで何が原因であったかをグループで分析し,どの班もきちんとジジ抜きが成立するようになった。
1次関数トランプの最後のゲームとしてカルタを行った。グラフトランプ11枚を読み札にして,式・表・用語トランプ合計33枚を取り札とした。教師が,教材提示装置をつかって読み札であるグラフトランプを提示し,その関数と同じ式・表・用語の3枚のトランプを見つけた。
生徒は,これまで神経衰弱・ジジ抜きを通して仲間と確認しながらゲームを行ってきたので,カルタを間違えることなく,とてもスムーズに行うことができた。4人グループで行ったが33枚ある取り札を1枚もとれない生徒はこれまでいなかった。数学を苦手にしている生徒でも毎回確実にカードを手にしていた。生徒は,仲間シートを見ることがなくなり,身を乗り出して真剣にゲームに参加した。
残りのカードが少なくなると,次はどの読み札が来るか予想するようになり,取る準備をするようになった。優勝者は,神経衰弱と同じく,優勝者決定カード(文章カード)を利用して決めた。
この授業実践は,2時間かけて行った。(神経衰弱で1時間,ジジ抜きとカルタで1時間)2時間目の終わり5分間を生徒の自己評価の時間とした。
(④よくできた ③まあまあできた ②あまりできなかった ①ほとんどできなかった)
(1) ゲームに意欲的に参加できた | ④69% ③28% ②3% |
(2) 関数への関心を高めることができた | ④53% ③44% ②3% |
(3) グラフから式を求めることができた | ④38% ③41% ②21% |
(4) 同じ関数を見つけ出すことができた | ④47% ③41% ②12% |
(5) 式・表・グラフの理解を深めることができた | ④47% ③41% ②12% |
(6) グラフから表を見出すことができた | ④34% ③44% ②22% |
この結果を見ると,生徒は関数への関心が高まり意欲的にゲームに参加するものの,(3)の「グラフから式」や(6)の「グラフから表」への変換がまだ難しいと感じていることがわかった。
この実践により,生徒は式・表・グラフを関連づけることができた。また,「式からグラフ」など表現方法の変換が以前より容易になった。これは,この学習が経験記憶となったことにほかならない。今後もこのような教具を開発し,楽しい数学を仕組んでいきたい。