日頃の授業の中で,子どもたちに問題解決の見通しをもたせることを意識している。何らかの解決の見通しが持てれば,子どもたちは同じ土俵に上がり,問題解決に向けて思考を進めることができると考える。そのために,解決の見通しを個人で考え,交流する場を設定している。そうすることで,個では解決の糸口が見つけられない子どもも,交流活動を通して,「こう考えればいいのかも」という解決へのヒントが開け,問題解決へ向けて思考を進めることができると考える。また,自力で問題解決できることで,その過程で使った見方や考え方のよさを実感し,「次も使ってみようという」次時へ向けての意欲の喚起へもつながっていくと考える。
私たちが生きている社会の中には,関数の関係となっている事象は多く存在する。例えば,電話料金や水道料金などの公共料金は,典型的な関数の例である。また,自然界における様々な現象を,関数を用いて表したり,環境問題などのシミュレーションに用いられたりするなど,非常に応用分野は広い。関数は現代社会の様々な事象と密接に関わっており,より良く生きるためにも,関数的な見方や考え方を身に付けることは非常に重要である。
事象を関数関係としてとらえ,追究していくためには,それらを数値化して処理し,その推移を明らかにすることが必要である。そのとき,式,表,グラフは極めて有効である。小学校では,数量の関係を表や式,グラフにして考えることや,比例の関係について学習している。こうした学習をもとに,中学校第1学年では,伴って変わる2つの数量について,表,式,グラフを正しく使い,相互に関連付けながら変化を考察することが求められる。また,比例や反比例に関して,変数の範囲が負の数まで拡張されることや,座標や変域の理解,さらには関数関係の意味理解を洗練し,「関数」の概念を拡げ深めることも重要である。
そこで本単元では,表,式,グラフを相互に関連付けて活用しながら,変化と対応といった観点で事象をとらえ,負の数まで拡張された比例と反比例に対する理解を深めるとともに,関数という概念を理解させ,数理的な考察や追究に活用できるような素地をつくることがねらいである。またここでの学習は,第2学年の1次関数,第3学年の2乗に比例する関数の学習の基盤となるところでもあり,大変価値がある。
本学級の子どもを対象に,事前調査を行ったところ,「比例の学習に関心があるか」という質問に対して,3.2(5段階自己評価尺度法の学級平均値,以下同)であった。その理由として,評定が高い子どもは,「規則を見つけ出すのが楽しい」,「規則を式にすればいいので簡単」などを挙げており,逆に評定の低い子どもは,「意味が分からない」「普段使わない」と答えている。また,問題に取り組む姿勢として,「問題を解けた後,その解き方でいいのかふり返るか」については3.5,「問題が解けた後,他の方法がないか考える」については,3.2という結果だった。
また,数量を式に表すことができた子どもは80%,数量関係の問題が解決できた子どもは55%,方程式を利用して問題が解決できた子どもは65%,2つの数量関係が比例であることを見極めることができた子どもは75%,そのなかでその根拠が説明できた子どもは52%であった。
以上のことから,本学級の子どもは,関数の学習への興味・関心が高いとは言えず,その有用性も実感できていないと考える。また,自分の解き方を見直したり,他の方法を追究する意欲が乏しく,自分なりに問題が解ければそれでいいと思っている子どもがいる。また,知識・技能面の定着は高いが,根拠を説明することや,少し複雑な数量関係の問題には十分に対応できておらず,数学的な見方や考え方に関しては,知識・技能面よりも育っていないと分析できる。
そこで,本単元の指導では,事象の中からともなって変わる2つの数量の変化に課題を見いだし,関数の学習に対する見通しをもち,根拠を明らかにして比例と反比例の数理を構成し,比例や反比例の見方や考え方のよさを認識することができるようにすることをねらいとする。そのために,次のような手だてをとる。
○子どもの学習目標
事象の中にあるともなって変わる2つの数量関係を見いだし,その関係を式,表,グラフを使って表し考察することができる。
○教師の指導目標
事象の中にあるともなって変わる2つの数量の変化に課題を見いだし,解決する見通しをもち,根拠を明らかにして比例と反比例の数理を構成して,比例や反比例の見方や考え方のよさを認識することができるようにする。
次 | 時 | 学習活動・内容 | 指導のねらい・内容・方法 | 評価の観点(方法) |
---|---|---|---|---|
一 | 1 ② |
1 窓を開けていくとき,変わる量について調べる。 (1) 時間とともに変わっていくものを見つける。 ・開けた長さ・開けた部分の面積 ・開けた部分の周囲の長さ (2) その変化の様子を考察し,表や式などを用いて表す。 ・y=10χ ・y=500χ ・y=20χ+100 ・1秒経つごとにyの値の増え方が一定 ・y=10χとy=500χは比例 (3) 変化の様子や式の形から分類し,関数や比例の意味を知る。 |
事象の中にあるともなって変わる2つの数量の変化に課題を見いだし,解決する見通しをもつことができるようにする。
・ 時間とともに変わっていくものを見つけ出すことができるように,実際に窓を動かしながら問題場面を確認し,ふきだしに思い浮かんだものを記入させ,それを交流する場を設定する。 ・ 様々な場合における特徴をまとめ比較することができるように,表の変化の様子や対応の仕方,式の形から読み取れることを交流する場を設定する。 ・ 関数や比例の意味を理解できるように,(2)で出た具体的な式を使って説明する。 |
・ 自分なりの考えで問題を解決することができたか。 ・ 関数の学習に対して見通しをもつことができたか。 |
二 | 1 ① |
2 水槽に水を入れる時間とたまる水の量との関係から,関数の変化の様子の表し方について考える。 (1) 変化の様子を,表や式に表す。 ・変数 ・変域 ・変域の表し方 |
根拠を明らかにして,比例と反比例の数理を構成することができるようにする。
・ 変化の様子を理解し,変域を考える必要があることに気づくように,水槽の問題を提示する。 ・ 比例の関係が負の数まで拡張されたり比例定数が負の数になる場合を理解できるように,容器から水を出す問題を提示する。 ・ 平面上の点の位置を表す方法の一つとして,座標の考え方があることを理解できるように,京都市街の地図を利用する。 ・ 比例のグラフの特徴や手際よいグラフのかき方を理解できるように,着眼点や考えを交流する場を設定する。 ・ 比例関係を読み取り,式,表,グラフと関連づけて問題を考察することができるように,着眼点や考え方を交流する場を設定する。 ・ 反比例の変化の様子や特徴を見いだすことができるように,χとyの関係を式や表で表し,考察したことを交流する場を設定する。 ・ 反比例のグラフが理解できるように,式を満たす点を多くとるように指示する。 ・ 反比例関係を読み取り,式,表,グラフと関連づけて問題を考察できるように,考え方や着眼点を交流する場を設定する。 |
・ 関数の変化の様子の表し方を理解することができたか。 ・ 比例の式やその特徴について理解することができたか。 ・ 座標の表し方を理解できたか。 ・ 比例のグラフの特徴や式と表の関係を理解することができたか。 ・ 比例の式,表,グラフを用いて問題を解決することができたか。 ・ 反比例の意味や特徴を理解することができたか。 ・ 反比例のグラフの特徴を理解することができたか。 ・ 反比例の式,表,グラフを用いて問題を解決することができたか。 |
2 ④ |
3 比例の意味やその表し方,特徴について考える。 (1) 比例の意味やその性質について考える。 ・y=aχ ・比例定数 ・比例定数が負の数の場合 ・変域を負の数まで拡張 ・身近な事象の変化 (2) 比例のグラフのかき方,その特徴について考える。 ・座標 ・座標平面 ・原点,χ軸,y軸 ・原点を通る直線 (3) 比例の問題を解く。 ・式 ・表 ・グラフ ・条件 |
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3 ④ |
4 反比例の意味やその表し方,特徴について考える。 (1) 面積一定の長方形の問題を考える。 ・反比例 ・比例定数 ・y=a/χ,χy=a (2) 反比例のグラフの特徴を調べる。 ・双曲線 ・原点について対称 ・座標軸に限りなく近づく (3) 反比例の問題を解く。 ・式 ・表 ・グラフ ・条件 |
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本時(2/4) | ||||
三 | 1 ④ |
5 身近な問題を,比例や反比例を利用して解決する。 (1) およその数を求める問題を考える。 ・図形の面積 ・再生紙の枚数 (2) ランドルト環の問題を考える。 ・視力とランドルト環の関係 (3) グラフを読み取る問題を考える。 ・グラフと式の活用法 (4) ともなって変わる様々な数量について考える。 ・水槽の水位 ・駐車場の料金 |
比例や反比例の見方や考え方のよさを認識することができるようにする。
・ 比例や反比例の見方や考え方のよさが認識できるように,問題を解決できた根拠となる考え方を振り返り,その必要性や有用性を交流する活動を設定する。 ・ 関数の理解を深めることができるように比例や反比例以外の関数関係になる問題を提示する。 |
・ 課題を見いだし,見通しをもつことができたか。 ・ 根拠を明らかにして,説明することができたか。 ・ 比例や反比例の見方や考え方のよさを認識できたか。 |
(数学への関心・意欲・態度)
(数学的な見方や考え方)
(数学的な技能)
(数量や図形などについての知識・理解)
前時までに子どもは,事象の中にあるともなって変わる2つの数量の関係に比例や反比例があることを知り,それぞれについて,表,式,グラフと相互に関連付けながら特徴を考察し理解してきていいる。
そこで本時は,視力検査表にひそむともなって変わる2つの数量関係の見通しをもち,その関係を根拠を明らかにして筋道立てて説明し,比例や反比例の見方や考え方のよさを認識することができるようにすることをねらいとする。そのために,次のような手だてをとる。
学習活動・内容 | 指導のねらい・内容・方法 | 評価の観点(方法) | 形態 | 配時 |
---|---|---|---|---|
1 本時の学習内容を確認する (1) 問題を把握する。 〈問題〉 |
視力検査表に潜むともなって変わる2つの数量関係の見通しをもつことができるようにする。
・ 視力検査表を提示し,視力検査をしている場面を想起させる。 |
一斉 - 個 - 学級集団 |
10 | |
(2) 視力検査表に潜むともなって変わる2つの数量関係を考える。 ・視力とランドルト環の大きさの関係は反比例 ・同じ寸法のランドルト環を見たときの離れている距離と視力の関係は比例 |
・ 視力検査表に潜むともなって変わる2つの数量関係の見通しをもつことができるように,思い浮かんだことをふきだしに記入し,それを交流する活動を設定する。 |
|||
(3) 本時のめあてを確認する。
視力検査表に潜むともなって変わる2つの数量関係を探ろう。
|
・ 本時の学習内容を確認できるように,めあてを確認する場を設定する。 |
・ 課題を把握し,解決への見通しをもつことができる。 |
||
2 視力検査表に潜むともなって変わる2つの数量関係について考える。 (1) データを収集し,視力とランドルト環の大きさの関係を表にまとめる。
・視力をχ,ともって変わる数量をyとしてまとめる。 ・切れ目の幅 ・内側の円の直径 ・外側の円の直径 ・線の太さ (2) データを考察する。 ・視力とランドルト環の大きさの関係は反比例 ・表からχが2倍3倍になると,yは1/2倍,1/3倍になる。 ・表の上下の積χyの値が一定。 ・式がy=a/χ,χy=a ・グラフが双曲線になる。 (3) 4人班で交流する。 ・関係とその根拠 (4) 全体で交流する。 ・関係とその根拠 ・他のデータとの関係性 |
視力検査表に潜むともなって変わる2つの数量関係を,根拠を明らかにして説明することができるようにする。
・ 個人でデータを収集することができるように,視力検査表を配付する。 ・ 実測して表にまとめたりするため,データを考察するとき,多少の誤差がでることはあることを確認しておく。 ・ 視力検査表に潜むともなって変わる2つの数量関係を,根拠を明らかにして説明することができるように,考え方や着眼点を交流する活動を設定する。 ・ 他のデータ間との関係性にも気づくことができるように,その視点を与えるような発問をする。 |
個
- 小集団 - 学級集団 |
35 | |
・ 自分の考えが自他の納得を得られるようなよりよい解答になるように,付加修正する場を設定する。 |
・ 視力検査表に潜むともなって変わる2つの数量関係を,根拠を明らかにして説明することができたか。 |
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3 本時学習のまとめを行う。 (1) 本時の学習を振り返る。 ・ 今日の式を使えば,どんな視力のランドルト環も作ることができる。 ・ 身近にあるともなって変わる数量の関係には,比例や反比例の関係になっているものがあり,その関係が使われていることがある。 (2) 次時の学習の確認する。 |
比例や反比例の見方や考え方のよさを認識することができるようにする。
|
学級集団 - 個 |
5 | |
・ 比例や反比例の見方や考え方のよさを認識することができるように,問題を解決できた根拠となる考え方や着眼点を振り返り,その必要性や有用性を交流する活動を設定する。 |
・ 比例や反比例の見方や考え方のよさを認識することができたか。 |
本段階(第三次)では,比例や反比例の見方や考え方のよさを認識することができるようにすることをねらいとして,【資料1】のような,視力検査表の中にあるランドルト環と視力の関係を探る問題を提示した。
まずはじめに,子どもは,ランドルト環と視力の関係について思い浮かんだことをふきだしに記入し,その後,交流活動を設定した。「ランドルト環が小さくなるほど,視力の数字が大きくなる」,「この2つの関係は反比例ではないか」,「表やグラフにまとめてみる,規則性がありそうだから」などの発言があり,これらのふきだしを関連のあるもの同士でわけて板書し,矢印でふきだしに順序性をもたせた。そこで,ランドルト環の大きさとはどこのことなのかを確認した後,子どもは自分なりの見通しを記入し,ふきだしの順序性を手がかりとして,自力解決していった。【資料2】は子どもの見通し,【資料3】は子どもの考えの記述である。
【資料4】のように自力解決後,お互いの考え方を説明し合い見直す交流活動を設定し,自分が調べたランドルト環の大きさはどこなのか,また,視力とランドルト環の大きさの関係とその根拠について説明し合った。その後,【資料5】のように,自分の考えを見直し,そういえる根拠が人に伝わるように付加修正した。
その後,交流活動を設定し,気づいたことを交流し合った。「視力とランドルト環の大きさはどこでも反比例の関係にある」,「(視力)×(ランドルト環の大きさ)=(一定)になっている」,「反比例かどうか調べるときは,伴って変わる2つの数量をかけてみるとすぐ分かる」などの発言があった。
この後,学習の振り返りを記入した。【資料6】のような記述があった。「とても身近なところに数学の反比例が隠れていて驚いた」,「この反比例の式を使えば,0.01のランドルト環も作れる」,「反比例は2つの積が等しくなっていれば成り立つので,判断がしやすい」などの記述があった。このことから,子どもは,反比例が日常生活に使われていることのよさや,反比例の見方や考え方のよさを認識することができたと考える。
【資料1】提示した問題
【資料2】子どもの見通しの記述
【資料3】子どもの解法
【資料5】付加修正した子どもの解法
① 実践の成果
○子どもたちの身近にある視力検査表を教材として使ったことで,自分の身近なところに反比例などの関数関係が潜んでいることを知り,興味・関心を持たせることができた。
○身近にある視力検査表の中にも,反比例の式・表・グラフの関係があることや反比例の関係を表す「積が一定」が存在すること,また,その判断の便利さを感じることで,反比例の見方や考え方のよさを実感することができた。
○子どもの振り返りの記述内容から,「この反比例の式を使えば,0.01のランドルト環も作れる」とあったように,自分オリジナルのランドルト環を作りたいという,これからの生活に生かしていく意欲を持たせることができた。実際に,0.03の視力が測れるランドルト環を作って,見せてくれた子どもがいた。
② 実践の課題
●問題の設定を,「視力検査表に潜む関係を見つけ出そう」よりも,「0.03の視力が測れる視力検査表を作ろう」とした方が,より子どもの興味・関心を引きつけることができると考えた。
単元の導入の段階や日々の授業の中で,今回の実践のような,子どもたちにとって身近な場面の中での課題を設定することによって,学習に対する興味・関心や意欲を喚起することができると考える。
また,その課題を解決する見通しを持たせることも重要である。そのためには,結果や内容,方法の3つに関する見通しを持たせることができる問題や,発問の工夫が必要である。
これらの視点を意識しながら日々の教材研究を行い,よりよい問題や発問について,これからも追求していきたいと考える。
【参考文献】
・中学校学習指導要領(平成20年9月)解説 -数学編- | 文部科学省 | 平成20年 | |
・中学校数学指導資料 指導計画の作成と学習指導の工夫 | 文部省 | 平成3年 | |
・平成20年改訂中学校教育課程講座 数学 | 清水静海著 | ぎょうせい | 2009年 |
・中学校新学習指導要領の展開 | 清水静海著 | 明治図書 | 2009年 |
・数学的な考え方の具体化と指導 -算数・数学科の真の学力向上を目指して- | |||
片桐重男著 | 明治図書 | 2004年 | |
・子どもの思考構造3 学力の構造と思考力 | 明治図書 | 1969年 | |
・コミュニケーションで創る新しい算数学習 多様な考えの活かし方まとめ方 | |||
古藤怜 著 | 東洋館出版 | 平成10年 | |
・数学的コミュニケーション能力の育成 | 金本良通著 | 明治図書 | 1998年 |
・算数科言語力・表現力を育てるふきだし法の実践-算数的活 | |||
亀岡正睦著 | 日本経済新聞出版 | 2009年 | |
・略案で創る中学校新数学科の授業 第3巻関数・資料の活用 | |||
相馬一彦・國宗進・熊倉啓之編著 | 明治図書 | 2009年 |