(1)日常生活の中での不確定な事象について,確率を用いて考察しようとする。
【関心・意欲・態度】
(2)起こり得る場合を順序よく整理したり,不確定な事象の起こる程度を数値化したりすることを通して,事象を数理的に考察することができる。
【見方や考え方】
(3)樹形図や表を利用して場合の数を数えたり,いろいろな場合についての確率を求めたりすることができる。
【表現・処理】
(4)確率の意味やその計算による求め方と樹形図や表などの用い方を理解している。
【知識・理解】
確率の指導は,社会現象の究明,情報社会への対応という必要性からくるものである。自然現象や社会現象に多くある,不確定な事象の考察においては,それらの事象の起こる程度に着目し,それを確率という形で把握し表現することが有効である。
小学校において,確率に関する内容としては,第3学年で,「資料を表やグラフに表したり,読んだりする」,第4学年で,「資料を集め,分類したり,特徴を調べたりする」,第5学年で,「百分率の意味について理解し,それを用いたり,求めた割合を帯グラフや円グラフに表したりする」など,資料を分類整理することや確定的な事象の割合を表すものとして百分率を学習している。小学校の内容を受けて,中学校では,第1学年で,度数分布表やヒストグラム,代表値,相対度数などを用いて資料の傾向を読み取ることを学ぶ。そして,第3学年の標本調査,高校数学で余事象の確率へと拡張することになる。
この単元では,不確定な事象の起こる程度も多数回の試行を繰り返すことにより,ある安定した値をとるという「大数の法則」を基として,事象の起こる程度を表すのに確率が用いられることを理解する。また,「同様に確からしい」ときには,起こり得る場合の数を数えることによって確率を求めることができる。そのため,不確定な事象について何が分かるのかという確率本来の意味は忘れがちである。そこで,実際に多数回の試行を行うなどの経験を通して,ある事柄の起こる割合が,一定に近づくことを実感を伴って理解できるようにすることが必要である。また,場合の数に基づいて確率を求めた際には,確率を求めるだけでなく,ある事柄の起こりやすさについてどのようなことが分かったかを確認させることにより,数学と実生活や社会との関係を実感させたい。
以上のような確率に関する学習の基礎を学ばせる上で,できるだけ多くの体験活動を増やすことで,確率に対する興味や意欲を高めていきたい。また,本単元では,樹形図や2次元表を使用するため,知識としてそのものを指導していくのではなく,能率的に順序よく整理して調べる能力を育てたい。
男子17名,女子15名,計32名のクラスである。全体的に明るく元気がよく,授業にむかう姿勢が前向きで,授業の内容を分かりたいという気持ちをもって臨んでいる生徒が多い。数学では,基本的な計算問題はほぼ身に付いているが,少し複雑になった問題になるとよく考えずにあきらめてしまう生徒もいる。そこで本単元では,導入で実際に多数回の試行を行う場面を取り入れるなど,学習内容にまず興味・関心をもたせていくことにより,いろいろな場面を思考することの楽しさを感じとり,複雑な問題にも対応していけるようにしていきたい。
また,各自が十分に探究できる場面を設定し,それをもとに,全体やグループでの話し合い活動などを多く設定することで,お互いの考えを伝え合い,学び合う場を充実させ,一人ひとりの理解を深めていきたい。
確率の指導においては,不確定な事象が確定的な数値でとらえるということを,実験や観察を通して直感的に理解させることが大切である。算数・数学科では,中学校第2学年で初めて確率の概念に出会うが,生徒は小さい頃から降水確率など絶えず確率に接している。しかし,その理解は曖昧である。そこで,具体的な場面で,不確定な事象でも,多数回の試行で確定的な数値をもとに判断できることを実感させるために,次のような課題を設定した。
次の(ア)~(ウ)を起こりやすいと思う順番に並べてみよう。
まずは,これまでの生活体験などに基づき,3つの事象の起こりやすさを予想する。そして,それが正しいかどうか検証するために,生徒が自然な発想として統計的確率の必要性を感じ,実験を通して問題解決を図っていく。
グループの中で(ア)~(ウ)の3つを事象を分担し,実験を行う。(ア)については,「同様に確からしい」事象であり,予想できる確率(数学的確率)である。生徒は2回のうち1回は起こる程度と容易に想定できるが,本当にそうなるのか実験値との違いを検証することは意味のあることだと考える。(イ),(ウ)については,実験をしないと分からない確率(統計的確率)である。その事象の起こりやすさを調べるために多数回試行の必要性を実感できるものである。いずれも実験によってある程度の規則性が現れるまでには,かなりの試行を繰り返さなければならず時間を要するが,「箱の中に10個の1円硬貨を入れて振る」などして時間短縮を図る。
次に小グループで実験して得られたデータを表にまとめ,相対度数を求める。この際,中途半端な数値になることが多いので,電卓を使用する。そして,この相対度数を折れ線グラフに表し,気づいたことをあげる。その後,グループ内で実験の取り組みや結果をお互いに説明し合い,3つの事象の起こりやすさを比較する。さらに,この話し合い活動の中で,折れ線グラフに注目させ,試行回数が少ないうちは,相対度数のばらつきは大きいが,回数が多くなるとそのばらつきは小さくなることを視覚的に理解させる。また,多数回試行をしたとき,ある事柄の起こる割合が一定の値に近づき,この値を確率ということを理解させる。
このような授業を展開して,確率の意味を理解し,確率的なものの見方や考え方のよさを実感できるようにしていきたい。
第1次 | 確率の意味 | ・・・2時間(本時1/2) |
第2次 | 数え方のくふう | ・・・2時間 |
第3次 | 確率の求め方 | ・・・4時間 |
第4次 | 問題 | ・・・2時間 |
実験や操作活動を通して,多数回試行によってある事象の起こる回数の割合が一定の値に近づくことから,確率の意味を理解することができる。
1円玉,ペットボトルのキャップ,画鋲,実験箱,ワークシート,電卓
OHPシート,発表ボード,パソコン,OHC
学 習 活 動 | 教師の支援と評価 |
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○確率について関心をもつ。
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次の(ア)~(ウ)を起こりやすいと思う順番に並べてみよう。
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○起こりやすい順番を予想する。 ○みんなの予想を聞く。 ○どうすれば確かめることができるか考える。
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○グループ内で分担してそれぞれの実験を行い,その結果を記録する。 |
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○グループで実験結果を考察する。
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評価①(観察法,ワークシート)
実験や操作活動に対して,興味・関心をもち,学習課題を解決しようとしていたか。 【関心・意欲・態度】 |
○グループで行った実験の結果とその考察を全体の場で発表する。 |
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○確率の意味を確認する。 |
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確率の導入として,いろいろな事象の起こりやすさを考える課題は,生徒たちの興味・関心を高め,積極的な操作活動を行ったり活発な話し合い活動を行ったりするのに有効だったか。
○その事象の起こりやすさを調べるために多数回試行の必要性があり,ある程度の規則性が現れるまでには,かなりの試行を繰り返さなければならず時間を要する。そのため「箱の中に10個の1円硬貨やペットボトルや画鋲を入れて振る」などして時間短縮を図った。このやり方が正しい確率を求めるのによいのかどうか迷った。
○2時間必要な学習計画だったわけだが,第1次の本時の学習の終わり方が中途半端に終わってしまった感じがする。
○生徒一人一人に役割分担がしっかり与えることができ,今回の授業では関心意欲態度の評価はA評価が多いと思えた。また,「ワークシートにある起こりやすいと思う順番予想の理由」に予想が書かれてあればB,具体的理由や実験の見通しなどが書かれてあればAと評価を与えた。
○授業の組み立て,準備(箱や色ペンなど)が素晴らしかった。生徒の動きもてきぱきしていてよかった。
○パソコン・発表ボード・OHPシートなどを使った提示の仕方に工夫が見られた。箱を使って試技するアイディアは素晴らしかった。条件が統一されていれば試技の方法はどんな形でもよい。参観した先生が自分の授業で真似をしたくなるようなアイディアであった。
○生徒の予想と結果が違うところに今回の授業の良さがある。生徒の予想を覆すところに今回の教材の魅力がある。教材研究が今後もとても大切である。
○生徒が操作活動をしている場合,途中で生徒への指示は伝わらない。活動前にしっかり伝えることは伝えておく必要がある。
○本時の目標をはっきりと生徒に伝えなくてはならない。1つの例として,本時の目標を文章化し黒板にはっきり提示することも必要である(めあてを明文化し黒板に書く)。
今回提案した関心意欲態度の評価の視点として,
が挙げられる。
評価とは,生徒の振り返りを見取ることを通して,次回への授業の組み立てを考える,すなわち我々教師の指導改善のために必要なことでもある。今回の研究授業では,「確率に対して,調べてみたいという意欲がわいたか。」がとても重要であり,今後の本単元に対する関心意欲態度に関わってくると考えることができる。そういう点では,学力差の激しい教科の特性がある中で,本時の授業は関心意欲態度の評価をしやすい工夫された展開例であったと思える。低学力の生徒に対しても,「A」の評価をつけることができた。
今後の課題としては,
○生徒全員が「A」の評価がつくように,教師が授業の準備をすることが前提であり,その上で関心意欲態度が途切れる生徒に対して「B」→「C」の評価となっていくような授業構成の工夫が重要である。さらに,「A」と「B」の評価規準をしっかり考えておく必要がある。評価規準が曖昧な表現では,実際の授業で評価できない。
○関心意欲態度の評価は,単元のトータルで評価することが必要であり,記録表などの蓄積・積み重ねの方法や単元における評価計画が大切である。特に評価計画には,関心意欲態度をどこでどのように見取るのか,重点化,蓄積方法,生徒の変容などを具体的に記載することが必要である。
以上の課題を改善できるよう評価方法研究グループで研究を深めていきたい。
評価① 実験や操作活動に対して,興味・関心をもち,学習課題を解決しようとしていたか。
(観察法・ワークシート)
評価② 自己評価表(ワークシート)
A:数学用語を使って気づいたことが書かれている。
授業を振り返って確率の意味について触れている。
(例) |
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B:数学的な表現がなく,授業の感想についてのみ書かれている。
(例) |
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C:興味・関心がない。
(例) |
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