学力を向上させるためには「わかる授業」と「家庭学習の習慣化」の2つの要素が大切であると考える。この2つについて特に気をつけていることを以下に述べる。
・学習規律
いかに素晴らしい授業でも学習規律がなければ効果は薄い。特に1年生で定着させることが望ましい。細かいことまで徹底する必要がある。例えば肘の位置。肘をつくと居眠りをしてしまう恐れがある。座り方。姿勢をピンと伸ばす。学力と姿勢は比例している。両足の裏を床にしっかりつける。書くときと聴くときの区別をつける。大切な説明のときはペンを置き,聴くことに集中させる。特に班学習の形態では話し合うときと説明を聴くときの区別を意識的に行う。聴くときは両膝をしっかり前に向け,手は膝の上に置く。細かいようだが,これが自然とできるようになれば班学習の機能が増す。また,教室の環境も大切である。ゴミが落ちていないか,机がまっすぐ並んでいるか,数えあげたらきりがない。特に黒板はきれいな状態を保つ。日付以外は何も書かないことが望ましい。その他には発表のしかたの見本を示す。数学の用語を意識的に使わせるなど,発言の内容の質にも目を向けたい。
・明快な説明
教師は数学の用語を意識しながらできるだけ端的な説明を心掛ける。教具の工夫はもちろん,デジタル機器などを活用し,最もわかりやすい説明をする。
・考える時間
数学的活動を意識し,考える時間を授業の中で必ず設定する。授業の最後に設定すれば,そのまま宿題にすることもできる。
・班学習の活用
数学的活動を取り入れる場合,班学習は欠かせない。班の中で役割分担を決めておくとよい。学習の内容によって2人班,3人班,4人班,6人班を弾力的に運用する。班どうしが競いあうなど工夫しだいで班学習の効果が上がる。班学習に活発に取り組むことができるクラスほど平均点が高いことから班学習が学力向上に有効であることがわかる。
・演習の時間
数学は反復練習が必要。宿題だけでなく,授業中も可能な限り演習の時間を設けるべきである。
・授業の難易度の設定
授業のスピードや扱う問題の難易度など,どの生徒にあわせるのかは難しい問題である。平均的な学力の生徒にあわせるのが基本であると思うが,できれば場面によって難易度を意識的に上げたり,下げたりする。これによってすべての生徒が集中して授業に参加する。
・毎日の習慣
毎回の授業で宿題を必ず出し,次の授業の最初に提出させる。それをチェックし評価する。これを習慣化し,宿題をすることを当たり前にする。
・宿題の工夫
授業の内容にあった宿題とし,家庭で取り組むことによって復習になるようにする。具体的な内容の工夫については以下の実践例で挙げる。
① 2人学習 音声計算
内容は簡単な計算問題を声に出して答えるもの。2人組で行い,答える者と答えをチェックする者が1分で交代する。これを3回の授業に渡って行う。記録をとることで確実に成績の伸びを自分自身で実感できる。授業のはじめに実施すると授業中に発言しやすい雰囲気ができる。
【参考書籍】明治図書 音声計算トレーニング法 志水廣・横田茂樹 著
② 5分間の計算プリント
授業のはじめの5分間,係の生徒主導で計算プリントをチャイムと同時に実施している。これによってチャイムが鳴る前から座席に座り,中には休み時間から計算問題に取り組むクラスまでも出てきた。計算問題の裏に少し,難しめの思考力を要する問題を用意するのがポイントである。
【参考書籍】浜島書店 計算のトレーニング72
③ 授業ノート
ノートを大きく3つの部分にわける。左が日付やページを書く目次の部分。中央の広いスペースが板書の部分。右側のスペースが各自で大切だと思ったことを書き留めたり,まとめたりするフリースペース。特にこの右側の部分を充実させ,オリジナルのノートを作らせる。これにより,教師の説明を聞き逃さず書き留めようとする習慣が身につき,授業に対する集中力が増した。また,優秀なノートは学年掲示板にノートコンクールと題して掲示した。ノートの見本を示すことにより,どういったノートを書けばよいかがわかり,生徒全体のノートのまとめ方がぐんと良くなった。ノートのまとめ方のうまい生徒はやはり成績が伸びている。来年度はこれに加え,毎時間の授業の感想を書くスペースを追加し,授業の振り返りをさせたいと考えている。
④ 毎日の宿題 iプリント
毎回の授業の復習に宿題として活用している。伊丹市では「iプリント」と題して市内8中学校で同じプリントを用意している。
⑤ グラフコンクール
夏休みの宿題で実施。自分でアンケートをとって調査する者や,インターネットなどで検索する者などいたが,皆,統計の授業で学んだことを活用し作品制作に楽しく取り組んだ。この宿題は全員提出した。なお,作品は兵庫県グラフコンクールに出展した。下の作品は特選,入選の作品である。
⑥ 数学カレンダー
冬休みの宿題で実施。2012年の自分が生まれた月のカレンダーを制作。日付の欄に数学の問題を1問作成することがポイント。これも楽しく取り組めた。全員提出。毎月,学年掲示板に掲示することで足を止めて問題を解く者もいる。
⑦ 自己診断テスト
毎週金曜日の終礼の時間に実施。簡単な計算問題だが,スモールステップで進んでいくので,どこでつまずいているのかが一目瞭然。できなかった者は長期休暇の補習や放課後に合格するまで取り組む。
⑧ 週末課題
毎週金曜日に配布し,土日に取り組み,月曜の朝に提出。未提出の者は居残り学習。内容は前の学年の復習をしている。現在は数学だけだが,来年度から国語,数学,英語の3教科に広げ学力の定着をはかりたい。
⑨ レポート課題
これは自由課題である。興味をもった生徒だけ取り組む宿題でレポート形式。提出されたレポートを授業中に紹介することによって提出率が上がってきた。中には親子で考える家庭もある。発展的な内容が多く,授業の中でふと気になったことを課題にする場合が多い。現在ではファイルが3冊できるほどレポートが集まった。次に今まで出題した内容の一部を挙げる。
これまでたくさんの取り組みを試みてきたが,こちらが思っている以上に生徒の反応がよく驚いている。授業に対する集中力も増し,確実に学力も向上してきている。また,数学に対する興味,関心も高くなってきているようである。しかし,すべての生徒がそうとは限らず答えを写すだけの者もいる。できるだけ多くの生徒が意欲を持って取り組め,学力が向上する手立てを今後も考え,工夫し続けることが大切である。