私の実践・私の工夫(算数)
互いに関わり合いながら進んで学ぼうとする児童の育成を目指して
5年 「変わり方」
1.はじめに
本単元は,数量の関係を○や△などの記号を使って式に表したり,表にかいて調べたりすることで関数についての考え方を身に付けさせることをねらっている。
しかし,多くの実践では「・・・を○,・・・を△として式に表しましょう。」「表にかいてみましょう。」と,児童にとって指示通りに作業をしていく受け身の学習になりがちな単元である。そこで,2つの数量の関係を何のために式に表したり,表にかいたりするのか,児童自身に目的意識をもたせることで進んで学んでいこうとする態度を育てることができるのではないかと考えた。それは,身の回りの事象を算数の見方で見る力をつけていくことにもつながっていく。また,その時に児童が互いのよさを認めたり,教え合ったりすることで,より学習が深まるとともに「学び方」を身につけることにもつながると考えた。
2.指導について
○児童それぞれが変わり方についてまとめる活動
身の回りにどんな変わり方があるか,児童が自分で見つけた変わり方について前時の学習を生かしてまとめる活動を入れた。それによって,伴って変わる2つの数量を進んで探そうという意欲をもたせた。また,まとめる際に,何のために式に表したり表をかいたりするのかがわかりやすいように「考察」を入れた。式や表からわかることを見つけたり,算数の目で見た事象をもう一度現実に置き換えて見たりすることができるようにした。
○児童相互の学び合いの充実
児童一人ひとりが変わり方をまとめるため,主体的に活動に取り組ませるようにした。また,互いに見合うことで自分の考えた変わり方以外にもたくさんの例にふれることができるようにした。それによって身の回りのどんなものが伴って変わる2つの数量として見ることができるのか,見方を広げることができると考えた。
また,自分が見たものにコメントを書かせることで,そのまとめについて自分がどう解釈するのか考えることができるようにした。さらに,コメントをくれた友だちに「ありがとうマーク」を返すことで,互いのよさを認め合ううれしさを感じられるようにした。
○導入の工夫
1時間目の最初に「一方が変わるともう一方も変わる関係はあるか」を考えさせた。それによって算数の場面でなくても,身の回りの中に2つの伴って変わる関係があることに気付くことができるようにした。これが自分で伴って変わる関係を見つけてまとめていくときのヒントになっていく。
3.指導の実際
<1時間目>
導入として「一方が変わるともう一方も変わる関係」を考えさせた。最初はとまどっている児童が多かったが,1つ例がでると様々な意見がでてきた。「時計の長い針が動くと短い針が動く」「スイッチを押すと電気がつく」「蛇口を回すと水が出る」「かぎを開けるとドアが開く」など,直接は算数と関係ないものでも伴って変わるものがあることに気付かせることができた。また,それぞれの例について「長い針が1周すると短い針はどれだけ動くかな?」「スイッチ1つを入れると蛍光灯が4本つくとすると,スイッチの数が変わるとつく蛍光灯の本数が変わるね」など,条件付けをして算数の見方で見る方法についてもふれた。その後,この単元では変わり方について学習していくこと,それぞれが身の回りから見つけたものをまとめて互いに見合うことを伝えた。
そして本時のめあてを「変わり方を式や表に表そう」とした。最初の例として,「わたしとわたしの姉の年の差は10歳です。」という場面をだした。○と△を使った式,表にした後,そこからわかることを「考察」として発表させた。表をもとに,わたしの年と姉の年の1の位の数が同じであること,そして年の差が大きいことがでてきた。「1歳のときに11歳」「6歳のときに16歳」など具体的な例で考えてみると,その差が大きいことが実感できる。表に表すことのよさにふれることができた。
2つ目の問題は「たての長さ5cmの長方形の横の長さと面積」について考えた。表を見てみると一方が2倍,3倍,・・・のとき,もう一方も2倍,3倍,・・・になっていることから,面積と横の長さは比例の関係にあることが理解できた。
3つ目の問題は「1こ100円のプリンをいくつか買い,50円の箱に入れた時の代金」について考えた。式に表すことで,箱の値段の「50円」が変わらないことに気付くことができた。式に表すことのよさを感じることができた。
<2時間目>
2時間目では,身の回りから伴って変わる2つの量を見つけて式で表したり,表をかいたりした。
1時間目に学習した内容や,教科書に出ている他の例も参考にしながらそれぞれ取り組んだ。題材を何にしようか迷ったり,式や表に表せなかったりする児童に対して,周りの児童がアドバイスをしている様子が見られた。
1時間の中でほとんどの児童が自分の変わり方をまとめることができた。中には2つ目の題材に挑戦をする児童もいた。
「わたしの年れいとお兄ちゃんの年れいの差」
①の問題を参考に考えている。
実際に自分と自分の兄の年齢を比べている。学習したことを自分に置き換えて考えることができている。
途中に自分や兄のイラストを入れ,実生活に近づけるとともに,見てくれる友だちを意識してまとめることができている。
「お兄ちゃんが20歳になったときには・・・。」と,△=20の場合の○を考え,深めることができた。
「三角形の高さと面積の変わり方」
②の問題を参考に考えている。
「長方形はみんなで調べたので,三角形をやってみよう」と考えたと思われる。
三角形の図を入れて,変わらない部分と変わる部分を視覚化し,わかりやすくしている。
カエルのキャラクターを入れることで,見た人がわかりやすいようにしている。
考察では,2つの数量の比例関係に気づくことができている。
まとめかたとしては,少し使っている色が多い。大事なところだけ色を使うとさらに見やすくなる。
「花の本数と代金の関係」
③の問題を参考に考えている。
③では「箱」だったものを場面に合うように「リボン」に置き換えている。
問題文にも飾りをつけるなど,見る人を意識したデザインをしている。
○と△にもそれぞれ色をつけており,式や表の中でわかりやすい。
考察では,表の数に目をつけて考えている。また,比例の関係でないということに気づいている。
<3時間目>
3時間目には,2時間目にまとめたそれぞれの変わり方を互いに見合った。
それぞれのノートは自分の席に広げて置き,誰でも見ることができるようにした。児童は筆記用具を持って教室の中を移動し,読んだ作品にコメントを書いた。
児童は自分も変わり方についてまとめているので,「友だちはどんなまとめを作ったのだろう」と興味をもってノートを見ていた。
コメントには,それぞれの気づいたことや,見つけたよさを進んで書いていた。
~「花の本数と代金の関係」に対するコメント例~
←色使いに着目している。自分の考えた変わり方と比べることができている。
←わかりやすさを認めている。
←絵があることで,場面把握しやすいことを認めている。
←考察で比例関係について書いてあることを認めている。
←考察で数に着目したことを認めている。
←「ふつうにやった問題よりおもしろい」「あこがれ~」と,作品のよさを認めている。
その後,自分のノートにコメントを書いてくれた人に,「ありがとうマーク」を書いて気持ちを伝える時間をとった。
コメントを書いて終わりではなく,書いてもらってうれしい気持ちを返すことで,「よいところを見つけてよかった」「またコメントを書いてあげたい」という気持ちをもつことができた。
活動を通して,児童のノートには,
①自分が書いた変わり方のまとめ
②まとめに対して友だちからのコメント
③自分がコメントを書いてあげた人に書いてもらった「ありがとうマーク」
の3つが残った。
4.成果と課題
・児童それぞれが変わり方についてまとめる活動
変わり方について,自分で身の回りのものから題材を見つけてまとめる活動は児童の学習意欲を高め,進んで取り組んでいく力を育むことにつながった。1時間目に学習した内容をもとに考えるため,3つの例についてもう一度振り返って考えている児童が多く見られた。
また,「考察」を入れることで,「式や表に表すことで2つの数量の関係がとらえやすくなること」を実感させることができた。これは,今後変わり方を調べるときに「式や表に表してみよう」とする態度を育むことにつながっていくと考える。
しかし,変わり方について児童がまとめたものをみると,1時間目に学習した①~③の例を参考にしたものがほとんどであった。中には「時計の長針と短針の動き」「蛇口をひねる角度と水量」など,導入で扱った題材を用いたものもあったが,少数であった。「身の回りのものから伴って変わる2つの数量を見つける」ということが児童にとってとても難しいことがわかった。クラス全体で様々な題材を見つける学習活動を取り入れたり,いくつかのパターンを教師が提示し,それを参考にさせたりすることでさらに多くの変わり方を見つけることができると感じた。
・児童相互の学び合いの充実
児童同士,まとめたものを鑑賞し合うことで,たくさんの「変わり方」の例にふれることができた。変わり方についての見方を広げることができた。また,互いのよさを認め,共に学ぶ仲間作りにも有効だった。特に,「ありがとうマーク」は互いの気持ちを伝え合うのに効果があった。
一方で,中には自分で「伴って変わる2つの量」を見つけることができず,活動に取り組むことが難しい児童がいた。個別に指導をしていったが,児童同士の学び合いの中で課題を解決していけるようにさせていきたい。
・導入の工夫
生活場面で伴って変わるものを考えるのは,生活と算数を結びつけるのに大切であると感じた。最初はとまどっていた児童も少しずつ例を見つけることができるようになっていった。
それぞれの児童が伴って変わる2つの量を見つけ,変わり方としてまとめていくためには,自分で条件付けをして算数の世界にもってくる必要がある。その条件付けの仕方を指導することで,自分でまとめていくときに様々なパターンのまとめを作ることができると思う。
5.おわりに
身の回りには「伴って変わる2つの数量」がたくさんある。児童がそれに気づき,「算数で学習していることは自分たちの生活とつながっているんだ」と実感することができれば,算数に対する学習意欲も高まっていくのだろうと感じた。
学ぶことに対して受け身でなく,児童が「自分はこう考える」ということを互いに表現し合っていけるような授業をめざしていきたい。