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私の実践・私の工夫(算数)

第5学年 「面積(台形)」

5年

大分県別府市立大平山小学校 土岐 崇

1.はじめに

本実践では,子ども同士が関わり合いながら学びを高めていくための算数科学習指導はどうあればよいのか,という問いを明らかにするために,5年生の「面積(台形)」を題材に授業を行った。

授業を行う上で留意した点は2つである。1つめは,算数科の授業のねらいに到達するための授業を構想し,その1時間の授業の中に「小グループの活動」を2回以上導入することである。2つめは,「共有の課題(教科書レベル)」を全体あるいは小グループで解決した後,「ジャンプの課題(応用・発展レベル)」を導入することである。

2.題材目標

三角形,平行四辺形,台形,ひし形の面積を,図形の分割,等積変形,倍積変形をして既習の図形になおすことから,公式を用いて求めることができる。

関心・意欲・態度 既習の面積公式をもとに,三角形や平行四辺形などの面積を求める公式を進んで見出そうとしている。
数学的な考え方 既習の面積公式をもとに,三角形や平行四辺形などの面積を工夫して求めたり,公式をつくることができる。
技 能 三角形や平行四辺形などの面積を求める公式を用いて,面積を求めることができる。
知識・理解 三角形や平行四辺形などの面積の求め方を理解する。

3.題材について

本題材では,三角形・一般四角形・平行四辺形・台形・ひし形などの基本的な平面図形や多角形の面積を,既習の図形の面積へ帰着することによって求め,公式をつくり出すことを主なねらいとしている。つまり,既習の図形に分割したり,等積変形したり,倍積変形したりする等の算数的活動を通して,求積公式をつくり出し,計算で面積を求められるようにすることである。

このことは,面積概念の定着や測定の意味をさらに深めさせるうえで価値がある。また,既習の図形の面積に帰着すれば,分割したり変形したり等の多様な算数的な活動が期待でき,既習経験を土台として発展的に解決していく力や具体的な操作などの活動をしながら,筋道立てて自分の考えを表現する力を育てるという点からも意義深い。

4.児童について

子どもたちは4年生の時に,面積の単位,長方形や正方形の面積の求め方について学習し,たて×横(1辺×1辺)の公式を使って計算で求めることができるようになっている。5年生では,「合同な図形」の学習を通して,対応する頂点や辺といった図形の構成要素に着目することを学習している。

子どもたちは,具体的な操作活動を通して,自分なりの考え方をもち,図や式,言葉等で表現する力は身についてきている。しかし,友だちの考えと自分の考えとを比較・検討してよりよい考え方に高めようとする態度は,まだ十分には育っていない。そこで,本題材を取り上げることによって,基本となる平面図形の面積を,等積変形や倍積変形で考え,面積の概念をより一層深めるとともに,友だちの考えとの違いや似通いに気づいたり,公式づくりにつながる共通した考え方を発見したりする力を身につけさせていきたい。

5.指導について

指導にあたっては,「これまでに学習したいろいろな三角形や四角形を方眼紙にかいてみよう」と投げかけ,三角形(直角三角形・二等辺三角形・直角二等辺三角形・正三角形)と四角形(長方形・正方形・平行四辺形・台形・ひし形)を1cm方眼紙に書かせてみる。その時,用語と定義,簡単な性質なども取り上げていく。次に「この中で計算(公式)で面積が求められるのはどれかな」と問いかけ,4年生で学習した長方形と正方形の公式と,公式が生まれるまでの過程と意味を図とつなぎながら確認していく。さらに,「他の三角形や四角形も計算(公式)で求められないかな」と意欲を高めていきたい。

本題材の学習は,平行四辺形,三角形,台形,ひし形の順に進めていく。はじめに平行四辺形を取り上げたのは,既習の長方形に変形しやすいことや,後の三角形の面積を求める学習の際に多様な考え方が生まれることが期待できるからである。どの学習も既習内容を活用し,求積の方法を考える展開となる。面積の公式の理解や適用は大切であるが,面積の公式を教え込むのではなく,面積の求め方を考える学習をていねいに指導していきたい。また,図形を用いて求積の方法を考えさせる活動を通して,子どもが求積の方法を説明し,互いに学び合う場,いわゆる数学的なコミュニケーションの場を多く設定して表現力を高める過程として大切にしていきたい。

本時では,台形の面積の求め方を,既習の求積可能な図形(平行四辺形・三角形・長方形)をもとに図形の分割,等積変形,倍積変形をして考えたり,説明したり,公式をつくり出したりすることや,その過程で筋道を立てて考える力の育成を図ることが大切なねらいとなる。解決に向けて,どのような既習事項や考え方を用いたのかを意識させながら,多様な表現活動をさせていく。そして,それぞれの考え方を説明する活動を取り入れながら,簡潔・明瞭の視点で整理していき,公式をつくり上げていく。

そこでは「公式化を急がない」ということを大切にしながら,第1時では,求積方法のアイデアを引き出すことに重点を置き,頭で考えるだけでなく,紙を切る,折る,書き込むなどの操作活動を通して子どもの気づきを促し,実感ある理解をさせたい。公式化については第2時で扱い,図を式と結びつけ,式の共通性に気づかせ,子どもが自然に公式を見つけ出すようにしていきたい。

【活用する基礎・基本】

  • (1) ○三角形に分割する…〈三角形の面積の公式〉三角形の面積=底辺×高さ÷2
    ○平行四辺形に倍積変形
      …〈平行四辺形の面積の公式〉平行四辺形の面積=底辺×高さ
    ○平行四辺形・長方形・三角形に分割・変形
      …〈平行四辺形・長方形・三角形の面積の公式〉
    《面積の保存性・加法性》
    図形を分解したり,変形したり,たしたりしても面積は変わらない。
    面積における加法性が成り立つ
  • (2)平行四辺形・三角形・台形・ひし形,いずれも「底辺」と「高さ」という用語が面積指導のキーワードとなる。「底辺」と「高さ」は個別に存在するものではなく,「底辺が決まれば,高さが決まる」といったように互いが関連して存在するものである。求積の際には,底辺と高さを明らかにさせながら公式を適用させるようにする。

6.指導計画

主  な  学  習  内  容
いろいろな三角形や四角形の作図と定義
平行四辺形の面積の求め方
平行四辺形の底辺,高さの意味と平行四辺形の面積公式と適用
高さが平行四辺形の外にあるときでも面積公式が適用できること
三角形の面積の求め方
三角形の底辺,高さの意味と三角形の面積公式と適用
高さが三角形の外にあるときでも面積公式が適用できること
台形の面積の求め方
台形の面積公式と適用
10 ひし形の面積の求め方及びひし形の面積公式と適用
11 三角形の底辺の長さを一定にして,高さを変えたときの面積と高さの関係の理解
12 いろいろな求め方と式とを関連づけて説明できること
13 学習内容の習熟と理解

7.本時案Ⅰ

  • ① 題 目 台形の面積の求め方を考えよう
  • ② ねらい 台形の面積の求め方を,既習の求積できる三角形や平行四辺形,長方形に分割したり変形したりして,言葉や図,式を使って説明することができる。
  • ③ 展 開(8/13)
学 習 活 動 指 導 上 の 留 意 点
1.前時までの学習を想起し,本時の問題を捉える。 ○これまで学習してきた平行四辺形や三角形の求積のしかたや公式,「底辺」と「高さ」の関係を想起させ,これから挑戦する「台形ABCDの面積の求め方を考えよう」の課題を投げかける。
台形ABCDの面積の求め方を考えよう
○台形が書いてある方眼紙を用意する。倍積変形などができるように大きさにも配慮する。 ○各自に数枚ずつ配布し,実際に切ったり,折ったり,書き込んだりできるようにしておき,具体的な操作を通しての考えづくりにつなぐ。 ○台形の面積の求め方の見通しについて,グループで話し合わせる。
2.台形の面積の求め方を考える。 ○自分の求め方のポイントをワークシートに言葉でまとめたり切り取った台形を準備しておき,面積の求め方がわかっている図形に変形できないか操作させ,分割したり,線を引いたり,切り取って移動したりして,工夫して考えさせる。 ○1つの求め方を見つけた子どもには,「他の工夫はないか」と問いかけ,別のやり方を考えさせる。 ○台形の寸法については,方眼で必要な部分を数えさせ,求め方を表す式に表現させていく。また,友だちによくわかるように,言葉・図・式で説明する準備をさせておく。
 
 
 
3.台形の面積の求め方を発表する。 ○子どもたちの発表にしたがって板書に位置づけていくが,考え方のポイントは,分割する・等積変形する・倍積変形を取り上げていく。 ○分割(2つの三角形にする・平行四辺形と三角形にする・2つの三角形と長方形にする,がもとの形は変わらない),等積変形(三角形・平行四辺形),倍積変形(平行四辺形)になることを,言葉・図・式とつなぎながら捉えさせていく。 ○自分の考えを発表するだけでなく,友だちの考えや図だけを見せて他の子どもに説明させるなど,工夫する。 ○発表を聞くときは次のことを意識させる。
・既習のどの図形をもとに考えているか。
・どのような方法で,もとにする図形に変形しているか。
・式にある数が,図のどこの長さなのか。図を操作したことが式ではどのように表されているか。
○本時では,㋐㋑㋒㋓㋔㋕の6つを取り上げるが,次時で扱うものとして,㋐㋑㋒㋓を選ぶことを確認しておく。
4.台形の面積の求め方をまとめる。 ○台形の面積を求めてわかったことまとめる。
台形の面積は,三角形に分けたり,平行四辺形になおしたりして考えると求めることができる。
○次時では,それぞれの求め方に対しての似通いや違い,数のもつ意味について関わらせながら,台形の面積を求める公式化と適用へと発展させていく。

8.本時案Ⅱ

  • ① 題 目 台形の面積を求める公式を考えよう
  • ② ねらい 台形の面積を求める公式を,三角形や平行四辺形に分割・変形した図形と式や求め方の共通性とつないで捉え,適用することができる。
  • ③ 展 開(9/13)
学 習 活 動 指 導 上 の 留 意 点
1.前時の学習を想起し,台形の面積の求め方を確認する。 ○前時までに,台形の面積の求め方を分割したり,変形したりしながら,言葉・図・式で表し,ワークシートにまとめてきている。 ○自分の求め方の工夫をみんなにわかりやすく発表することを通して,子どもたちは三角形に分割したり,平行四辺形に変形したりして考えると台形の面積が求められそうだ,ということに気づいてきている。 ○本時は,それぞれの求め方について違いや共通している考え方など,質問や意見に関わるところからスタートさせる。
 
 
質問や意見,気がついたことはありませんか
2.台形の面積の求め方について,「質問や意見」などで交流し合う。 ○変形した図形の違いに目を向けてきたら,㋐は2つの三角形に分けている,㋑は三角形に変形している,㋒は平行四辺形に変形(台形の2倍)している,㋓は平行四辺形に変形(台形と同じ面積)などの違いや似通いに目を向けさせていく。 ○㋐㋑㋒㋓の式に使われている÷2は同じか違うかが問題になったら,それぞれの図とつないで,公式としての÷2(㋐ ㋑)と2個使っている÷2(㋒),高さの半分を求める÷2(㋓)などを明らかにしていく。 ○「㋐の三角形に分ける式も1つの式にすると,㋑㋒㋓と同じになるのではないですか」の発言を期待するが,出ないときは問いかける。 ○㋐㋑㋒㋓の式に使われている数値が台形のどの部分の長さになるかを色分けさせ,平行な2つの辺と高さが使われていることを理解させていく。 ○台形の「上底」「下底」「高さ」の用語を知らせる。
㋐㋑㋒㋓の4つの求め方のうち,どの求め方が1番簡単でわかりやすいですか
  ○どのやり方でも24cm2になることや,式とつなぐと台形の使う辺も同じであることを認めたあとで,よさや不便さをもとに選びぬかしてみる。 ○グループでの話し合いを取り入れ,意見を交流させる。
・㋐▲ 三角形で2回計算する ▲ 時間がかかる
▲ 台形の辺とつなぎにくい
▲ (3+9)×(4÷2)の式につなぎにくい
・㋑▲ 真ん中の点を見つけにくい
▲ 切って移動するので面倒
▲ 1つの三角形にするのを考えつかない
・㋒○ 切ったり,分けたりしないので簡単
○ ÷2の意味がわかりやすい
▲ ÷2を忘れそう
・㋓▲ 切って移動するのはややこしい
▲ 高さが奇数の場合,計算がややこしい
○1番簡単でわかりやすい求め方として,㋒が選ばれればその図を取り出して,
必要な辺の長さを考えて,台形の面積の公式をつくろう
と問う。
3.台形の面積を求める公式を考える。 ○台形の「上底」「下底」「高さ」の用語を用い,台形の面積公式を考えさせる。 ○考えが思いつかない等の状況になれば,グループでの関わりの場を持たせるようにする。 ○まとめとして,
・ 台形の面積は,
台形の面積=(上底+下底)×高さ÷2
で,求められる
ことを確認する。
4.公式を使って,計算で台形の面積を求める。 ○グループで,公式を使って計算で台形の面積を求めさせる。

9.成果と課題

「小グループ活動」では子どもたちの意見や考えのやりとりが活発に行われ,全体学習ではあまり見られなかった自発的な話し合いがグループの仲間と進められていることが明らかになった。また,話し合いの中で新たに生じた問題を解決するために,それまでの学習を振り返ったり,友だちの考えを改めて聴いたりしている様子が把握できた。このことから,「小グループの活動」は子どもたちの関わりを促進させるとともに,学ぶ意欲を高めるために有効であると考えられる。一方で,「小グループの活動」を効果的に活用するためには,日頃の「小グループの活動」で,意見をまとめる話し合いをするのではなく,お互いの考えを聴き合う話し合いをするように意識づけしておく必要があると考えられる。また,授業に「小グループの活動」を導入するだけではなく,教師は,授業のどの場面に導入するのが効果的であるか,あるいは,「何を話し合うのか」といった話し合いの視点を子どもたちに明確に提示する必要があるであろう。ただ単に「小グループの活動」を授業に導入すればいいというわけではなく,そこには教師の明確な意図が必要となってくる。

「ジャンプの課題」を授業の後半に設定した。課題の難易度が低く,容易に解決するグループが多かった。「ジャンプの課題」が適度に難易度が高く,どの子にも挑戦して解いてみたいと思わせるようなものであれば,子どもたちの学びを高めることに有効であると考えられる。また,「ジャンプの課題」を解決するために協同的な関わりを持たせて解決させることも有効であろう。「ジャンプの課題」をどのようなものにするのかは,教師の教科に対する専門性に委ねられており,その専門性を高める必要もあると言える。

「小グループの活動」や「ジャンプの課題」がもたらす学習を定着させる効果が明らかになった。共有の課題を基礎・基本レベルの問題と考えるならば,「ジャンプの課題」は応用・発展レベルの問題と捉えることができる。応用・発展レベルの問題を解くためには,基礎・基本レベルに立ち返って考えていく必要が出てくる。また,「小グループの活動」で協同的に問題を解くようにすれば,友だちに説明する必要が出てくる。既習事項への立ち返りと友だちへの説明が繰り返されることで学習内容が定着していく効果があると考えられる。そのためには,問題のレベルが簡単過ぎず,難しすぎず,ほどよく難しいことが理想であり,「ジャンプの課題」を協同的な関わりで解決する学習過程を構築していく必要があるであろう。