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教師の方へ

私の実践・私の工夫(理科)

実感を伴った理解を目指して
~てこの規則性を生活に活かすために~

6年

神奈川県平塚市立金田小学校 江口 維敏

1.はじめに

全国学力・学習状況調査の結果によると,「理科が好き」と答える児童は多い(肯定的意見=84%)ものの,「理科の授業で学習したことが将来役に立つ(同69%)」,「普段の生活で活用できるか考える(同75%)」と答える割合については低くなる傾向がある。実際に日々の授業の中でも,児童のほとんどは実験をすること自体は楽しんで行うものの,進んで実験方法を考えながら取り組んだり,学習したことを生活に結びつけて役立てたりすることについては,課題があると感じている。

本実践では,児童の一人一人が“てこ”の特徴を理解し,それを意識しながら,より上手に身の回りの道具を活用できる姿を目指した。それにより,「理科っておもしろい,身の回りにたくさんある,役に立つ。」と思える,『実感を伴った理解』の深まる授業展開について考え,指導した。

*本単元の計画・実施においては平塚市小学校教育研究会(理科部会)の指導・助言を受けている。

2.単元の指導計画

(児童の実態)

質問1「“てこ”って何だか分かる?」
児童A「知らない」→てこという言葉自体が身近ではない
児童B「シーソーとかハサミのこと?」→知識として知っているものの意識はしていない

質問2「理科の学習のイメージは?」
児童C「なんか難しくて苦手…」→体験する機会を増やし,実感できるように
児童D「教科書に載っている実験をやる教科」→知識を活用し考える活動を取り入れる

(実感を伴った理解の3要素に向けて)

「具体的な体験を通して形づくられる理解」のため,実際にてこを操作し,そこから自分たちで発見する活動を多く取り入れる。

「主体的な問題解決を通して得られる理解」のため,それぞれの実験の流れや目的については極力シンプルにし,自律的に活動できるようにする。支点・力点・作用点といった科学的な概念を活用する場面や,意外性のある実験を通じて思考させる。

「実際の自然や生活との関係への認識を含む理解」のため,身近なてこの仕組みを活用した道具の形状の意味や用途について理解する。それを意識的に使うことで,“生きた知識”とできるよう指導する。

3.単元の流れ

(以下,○数字は「○時目」の意味)

第一次(1〜3時目)【てこのはたらき】
①[導入]くぎぬきとペンチを使って,くぎを抜く
①てこについて知る
・ことわざ…てこずる,てこでも動かない 等
②てこのはたらき実験器で砂ぶくろを持ち上げる
→支点・力点・作用点について知る
②持ち上げるのに必要な力の変化を体験する
③一番小さな力で持ち上げる方法を見つける

児童の声
①ペンチは大変だったけど,くぎぬきだとすぐ抜けた。魔法みたい!
①「てこずる」の語源なんて知らなかったけど,よく使ってるので意外だった。
②砂袋の重さが持つ場所やかける場所で変わってびっくりした。
③力点と作用点だけでなく支点も移すと,すごく小さな力で動かせた。指一本でも大丈夫だった。

第二次(4〜7時目)【てこのつりあいとかたむき】
④実験用てこの両側におもりを付け,つり合うパターンを探す
⑤つり合ったパターンから,てこのきまりを式で表現する
⑥自作のてんびんで重さ比べをする
⑦左右対称でないものはつりあうか実験する
・金づちや木の枝などをつり合わせる
⑦ニンジンをつり合わせ,左右の重さを予想する
→太い方が重くてもつり合った理由を説明する

児童の声
⑤つり合う場合の距離と重さを計算するとぴったり合ってびっくりした。
⑥支点を真ん中にするのが,つり合わせるには大切!
⑥支点から同じ距離の所に比べる物を下げればいい。
⑦支点を移動すれば,左右対称でなくてもつりあうと思う。
⑦ニンジンの支点の両側は重さが違って驚いたけど,支点からの距離を考えると納得できた。

第三次(8〜10時目)【てこのはたらきを利用した道具】
⑧実験用てこにはさみの形の厚紙を付けて提示し,前時までの学習とつなげる
⑧はさみのどこで切れば小さな力で切れるのかを実験する
・はさみ刃の刃元・中央・刃先と,牛乳パック一重・二重・三重で条件を変える
⑧その他の第一のてこの形状と理由を考える
・ペンチ…支点の近くに針金を切る部分がある(支点の近くは軽い力で切れる)
・枝切りばさみ…柄が伸びるようになっている(力点が支点から離れるので枝を小さな力で切れる)
⑨てこのはたらきを利用した道具をくわしく知る
・支点(使うときに動かない位置)を円の中心に合わせ,3点の位置関係でてこを3つに分類する
⑩学習内容のまとめ

児童の声
⑧はさみは刃元が切りやすいと思っていたけど,あらためてその通りだと実感した
⑧枝切りばさみの持つ部分が長くなるのは,力点から支点の長さを変えるためでもあるなんて,びっくりした。
⑨身の回りにこんなに“てこ”があるなんて知らなかった。


学習の感想(一部)

4.研究の成果

「具体的な体験を通して形づくられる理解」

学習の中で,できる限り実際に実験器具を操作し,体感することを重視した。それにより児童は,「砂袋が軽くなった(と感じた)!」などと,驚きをもって実感している姿が多く見られた。支点の位置や支点からの距離により,力のはたらき方が異なることを繰り返し体感することで,てこのはたらきをイメージできていた。

「主体的な問題解決を通して得られる理解」

「支点」「力点」「作用点」といったポイントとなる用語を繰り返し確認しながら進めたことにより,その言葉を使って個々の事象を表現することができていた。枝切ばさみの柄を伸ばすと硬い枝を切ることができたのを,「力点が遠くなったからだ。」と,すぐに表現する姿もみられた。また,実験の際につまづきがちなポイントをあらかじめ確認したり,結果を整理して記入できるようワークシートを用意しておいたりすることで,自分たちだけで実験を進めることができていた。

「実際の自然や生活との関係への認識を含む理解」

はさみをはじめ,身の回りのてこをうまく使えるようになることを重視して学習を組み立てた。その結果,ハサミやペンチなど,身の回りの実際に扱ったことのある道具がてこであることを実感し,それらを活用していきたいという声が児童から上がった。ワークシートでふれた「てこが円運動である」という考え方については,輪軸の理解にもつながった。

5.おわりに

身近な道具を実験用具として活用し,様々な手段で実際にてこを操作し考えることで,てこを身近なものと感じさせることができた。児童からは実際に,「てこは身近にあって便利な物なんだなと思いました。」,「私たちを楽にしてくれるてこをもっと知りたいなと思いました。」という声が上がっていた。このことから,目標としていた「理科っておもしろい,身の回りにたくさんある,役に立つ。」と感じさせることは,ある程度実現できたのではないかと考える。今後も,児童の実感を伴った理解につながる実践に向けて,工夫していきたい。