私の実践・私の工夫(理科)
実験で測定する技能の育成を目指して
~「ふりこのきまり」の実践を通して~
1.はじめに
理科の学習では,観察・実験を行い,その結果から自然の事物・現象について理解を深めていくとともに,問題解決の過程を通して,科学的に解決していくためのスキルを身につけていくことが大切である。学習指導要領でも,問題解決の過程を通して科学的な見方や考え方をもつようになることが示されている。
科学的とは,学習指導要領において,実証性,再現性,客観性という条件を重視する側面からとらえることができると示されている。日頃より,この「科学的」というキーワードを大切にして授業を展開したいと考えており,年度当初の授業では,科学的に観察や実験をしたり考えたりしていこうと話をしている。特に再現性に着目し,「時間や場所を変えて複数回行っても,同一の実験条件下では同一の結果が得られる。すなわちいつでもどこでも何度でも同じ結果になる。」実験をして問題を解決し,科学的な考え方を身につけていこうということである。
2.実験で測定する技能の育成について
「ふりこのきまり」の単元は,次のような特徴がある。
・条件が,「ふりこの長さ」,「おもりの重さ」,「ふれはば」の3つと明確で,条件制御がしやすい。
・ふりこの長さを変えたときと,おもりの重さやふれはばを変えたときとで結果が大きく変わり,考察をしやすい。
・結果が数値で表されるため,実験の技能や得られたデータの処理のしかたによって,より導き出したい結論につながる考察になりやすい。
・生活経験や既習内容を根拠にした予想を持ちにくい。
これらの特徴から,本単元は,正確な結果を得るためには,実験で誤差が小さく正確に測定する技能が重要であり,また,その技能を指導するのにふさわしいと考え,実験で測定する技能の育成に焦点を当てて単元構成をしようと考えた。
(1)誤差を小さくするための処理
実験によって得られるふりこが1往復する時間は,教科書では次のように求めることになっている。
10往復の時間の合計 ÷ 測定した回数 = 1回あたりの10往復する時間
1回あたりの10往復する時間 ÷ 10 = 1往復する時間
図1
これは,誤差を小さくするための処理であり,正確な実験結果を得るために大切な計算である。この処理をする理由を,児童に実感を伴って理解させるために,上記の式を提示し,ふりこが1往復する時間を直接計るのではなく,なぜこのような計算をするのか問いかけた。すると,算数で平均の学習をしたこともあり,一つ目の式は平均をして均していることについて児童から発言があり,誤差が小さくなるだろうと理解することができた。しかし,二つ目の式についてはなかなか考えが出てこなかった。そこで図1を示し,改めて問いかけた。そして,次の考えを共有することができた。
・ストップウォッチで計ったときに発生する誤差は10往復でも1往復でもそれほど変わらない。
・10往復の時間を計ってそれを10で割ると,誤差の時間も10で割ることになり,誤差が小さくなる。したがってより正確な時間に近くなる。
(2)有効数字の意識
写真1
ストップウォッチでは,100分の1の位まで計ることができる。実験をしていると,100分の1の位が合っていないために,1往復する時間が変わるととらえてしまう児童がいる。そこで,2人に1つずつストップウォッチを配り,順番にストップウォッチの画面を見ながら10秒を計らせた。すると,ほとんどの児童が,「9秒9◯~10秒0◯」という結果になった。その後,写真1を提示し,意識して計ることができるのはどの位までだろうと聞いた。児童は,10分の1の位までだったら合わせられそうだという意見が多く,100分の1の位がそろうのは偶然だという考えをもつようになった。その後,有効数字について説明し,実験では10分の1の位までを記録することを確認した。
(3)科学的な実験-再現性-を目指して
写真2
測定する技能について,上記のような手立てを行った後,いよいよ実験を開始した。実験して確かめる条件の順番は,①ふりこの長さ ②おもりの重さ ③ふれはば である。この順番は,教師が意図的に決めた。ふりこの長さを変えると,ふりこが1往復する時間が大きく変わるため,測定の技能が未熟でもふりこが長い方が1往復する時間も長いという結果は得られるはずである。その結果について考察する中で,測定の正確さについても考えさせることができる。その考察で測定する技能を高めようとする意識をより高めた上で,おもりの重さを変える実験をしてみる。この実験は,おもりを増やすだけで条件が変えられるため,実験自体は比較的行いやすく,班ごとの結果の違いに目を向けさせやすい。この2つの実験で測定の技能を十分に高めておき,ふれはばの実験でより正確(=再現性がある)な実験を行わせたいという意図である。
結果は,表1~表3のようになった。
表1 ふりこの長さを変えたときのふりこが1往復する時間(秒)
ふりこの長さ | 1班 | 2班 | 3班 | 4班 | 5班 | 6班 | 7班 | 8班 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
50cm | 1.4 | 1.4 | 1.3 | 1.3 | 1.4 | 1.2 | 1.1 | 1.3 |
25cm | 1.2 | 1.1 | 1.0 | 1.0 | 1.1 | 1.0 | 0.9 | 1 |
表2 おもりの重さを変えたときのふりこが1往復する時間(秒)
おもりの重さ | 1班 | 2班 | 3班 | 4班 | 5班 | 6班 | 7班 | 8班 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
10g | 1.5 | 1.4 | 1.3 | 1.4 | 1.5 | 1.3 | 1.4 | 1.3 |
20g | 1.5 | 1.4 | 1.3 | 1.4 | 1.5 | 1.3 | 1.4 | 1.3 |
表3 ふれはばを変えたときのふりこが1往復する時間(秒)
ふれはば | 1班 | 2班 | 3班 | 4班 | 5班 | 6班 | 7班 | 8班 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
30° | 1.4 | 1.4 | 1.3 | 1.4 | 1.4 | 1.4 | 1.4 | 1.3 |
15° | 1.4 | 1.4 | 1.3 | 1.4 | 1.4 | 1.3 | 1.4 | 1.3 |
この結果を見て分かるように,実験を経験するにつれて,班ごとの数値のばらつきが小さくなっている。実験後の考察についても,実験の方法が適切だったのか,誤差がどういう場面で出たのかを考える発言が多くなっていき,正確な実験をしようとする意識が高まっていった。より再現性のある科学的な実験に近づいていったと見られる。
3.導入の工夫(ふりこへの興味づけ)-音楽のリズムに合わせてみよう-
写真3
本単元では,測定の技能を身につける取り組みの他に,ふりこへの興味づけを図るために、導入の工夫も行った。
一人に1つふりこを持たせたいと思い,写真3のような道具を準備した。(糸,S字フック,チャック袋は100円ショップで購入。おもりは釣り用の玉おもりである。)この道具のよいところは,おもりの数やふりこの長さを簡単に変えることができるところである。ふりこの支点は手に持つことにした。支点が動いてしまうこと,またチャック袋が空気の抵抗を受けて1往復する時間が安定しにくくなることが欠点だが,単元の導入ということで,全員が簡単にふりこの諸条件(ふりこの長さ・おもりの重さ・ふれはば)を変えて振ってみることができることを優先した。
この道具を使い,音楽のリズムに合わせてふりこを振ってみようという課題を提示した。音楽を聞きながら,ふりこの長さを変えたり,おもりの数を変えたり,ふれはばを変えたりして,音楽にぴったりなふりこの状態を作ろうと意欲的に取り組んでいた。
また,児童にとって,ふりこの動きを変えるような経験が生活場面であまりなく,ふりこが1往復する時間について予想を持ちにくいが,このふりこを振ってみたことで,予想を持って次時からの学習に向かうことができていた。
4.まとめ
写真4
実験で測定する技能の育成を意識した指導をすることによって,誤差をなるべく小さくしようと,平均を出す意味や10往復する意味をよく理解して素早く計算をしたり,ストップウォッチを押すタイミングが測定の度に変わらないようにふりこの動きを注意深く観察したりするなど,実験を正確に行おうとする意識が高まった。そして,表1~3が示すように,実際に測定の技能の向上も見られた。さらには,実験を正確にしようとする意識から,条件制御の必要性についてもより深く考えることができるようになったと感じる。また,意識の高まりにより,実験結果を基にした考察についても,結論に迫る内容の他,様々な視点での意見が多く出るようになった。例えば、自分たちの班が他の班と違う結果になったのは、ふりこがななめに動いていたからではないかというような誤差を意識した意見,ふれはばを変えても1往復する時間が変わらないのは、ふりこが振れる速さが違うからであるというような1往復する時間の等時性を説明しようとする意見などである。このような発言により、議論が盛り上がった。
科学的な見方や考え方を養うために、特に再現性に着目して実践を行ったが、児童から「いつでも同じ結果になるだろうか。」「科学的な実験だっただろうか。」などといった発言が聞かれるようになってきた。それだけ再現性を意識して実験をしていることがわかり、科学的な実験に近づけるのに有効な実践となったのではないだろうか。一方で、どの単元にも共通する考え方として、児童が、「いつでもどこでも何度でも同じ結果になる実験方法か」という見方で実験ができるように、継続した指導が必要である。
科学的な見方や考え方を育成するために,問題解決の過程において必要とされる技能は,他にもまだ多く存在する。実験を通して結論を得るだけでなく,問題解決の過程において必要な技能の育成にもっと視点を当てた授業を展開していく必要がある。その積み重ねが,より科学的なものの見方や考え方につながっていくのだろうと思う。
5.引用・参考文献
・文部科学省『小学校学習指導要領解説理科編(平成20年8月)』,2008
・長谷川直紀,吉田裕,関根幸子,田代直幸,五島政一,稲田結美,小林辰至「小・中学校の理科教科書に掲載されている観察・実験の類型化とその探究的特徴―プロセス・スキルズを精選・統合して開発した『探究の技能』に基づいて―」,『理科教育学研究』,第54巻,第2号,2013,pp.225-247。