私の実践・私の工夫(理科)
子どもと,人・ものをつなぐ授業
1.はじめに
「あ,フジツボの赤ちゃん見えた!」海洋プランクトンを双眼実体顕微鏡で探していた児童の目の色が変わった。「よく見つけたね!」研究者の方に声をかけてもらい,さらに満面の笑みがこぼれる。子どもたちにとって,本物の研究者(人)や専門的な資料(もの)との出会いは,自然科学への関心を強くさせるのだと感じる一瞬だった。
新学習指導要領の「第3 指導計画作成と各学年の取り扱い」の中では,「博物館や科学学習センターなどと連携,協力を図りながら,積極的に活用するよう配慮すること」と示されている。私自身も,積極的に活用したい,もっとおもしろい授業をやりたいと思う一方で,どこにお願いしたらいいのだろう,どのように活用したらいいのだろうと躊躇してしまう。
昨年,静岡科学館る・く・るで行われた「教員のための博物館の日in静岡」に参加した。その際,地域にある身近な博物館や美術館,教育機関が,学校と連携して授業作りをしたいという願いをもっていることを感じた。私自身も,最新の研究や技術,資料にふれ,子どもたちとともに驚きや不思議を味わいたいという気持ちを強く持った。
今年度,連携させていただいた中から,東海大学海洋学部博物館の「であいふれあい授業」と静岡科学館る・く・るの貸し出し教材「ダジックアース」を挙げる。その際,単元のどこに位置づけるか,今日の授業のねらいは何かを明確にしておくことを大切にした。「特別な授業」という意味合いが強くなるため,その日,その場限りで終わってしまうのでは,大変もったいなく感じる。そのため,その授業が単元のどこに位置し,子どもたちは何を学ぶのかを明確にしておく必要があると考え,授業作りに臨んだ。
2.実践①《魚が食べるもの》
【活用】
東海大学海洋学部博物館であいふれあい授業 プランクトンの観察
東海大学海洋学部博物館 学芸員 伊藤芳英氏
【本時の目標】
海にいるプランクトンを観察することを通して,自然界の魚は水中の小さな生物を食べ物にして生きていることを理解する。
【単元の位置づけ:まとめ・発展】
本単元で,子どもたちはメダカを育てて,雌雄の体の違いや受精卵のようすを観察し,発生の過程や条件をとらえるようにする。そして,水中の小さな生物を観察して,これらの生物がメダカなどのえさになっていることをとらえるようにする。また,6年生の「生物どうしのつながり」では,本単元をふまえ食物連鎖を学んでいく。
学区にある上原池(静岡市清水区)の微生物を顕微鏡で観察した子どもたちは,肉眼では見えないけれども,そこに生き物がいること,また自然界にいる魚などの動物がこれらの微生物を食べて生きていることに興味を抱いた。そこで,東海大学海洋学部博物館が博学連携事業でおこなっている「であいふれあい授業」を活用し,駿河湾にいる海洋プランクトンの観察授業を行っていただいた(45分授業×4クラス)。子どもたちは,東海大学海洋学部博物館の伊藤学芸員から,双眼実体顕微鏡を使ったプランクトンの観察方法や,植物プランクトンや動物プランクトンから始まる生命のつながりを学んだ。ここでの学びは,社会科の「自然を守る」の単元にもつながり,森林のはたらきでは,この授業を思い出して,生命のつながりが森から海へとつながっていることを考えていった。
【授業の振り返り】
- 季節によって,いろいろなプランクトンが見られると聞いたので,もっと見てみたいと思いました。海の生き物の命が受け継がれていること,私たちはそれに支えられているのを知ったら,とてもうれしくなりました。
- ケンミジンコにはいろんな種類があったのでびっくりしました。人間はプランクトンがいなければ魚を食べられないから,プランクトンに感謝をしなければならないと思いました。また,人間の科学はすごく進んでいるんだなと思いました。
- 海にはさまざまな生き物がいるけど,大きい魚などは,小さい生き物を食べて生きていることがわかった。海を漂っている生き物は小さいものから,クラゲみたいな大きなものまでいることが分かった。
- 今日東海大学の伊藤先生にプランクトンのことを教えてもらって,僕は,プランクトンがそんなに大切な生き物なのだと思いました。なぜかというと,プランクトンがいなかったら,シラスとか小さい魚が育たなくて,そのシラスが育たなかったら,アジとかの魚も育たないっていうことは,私たちが食べられる魚が少なくなるからです。
- 植物プランクトンが動物プランクトンに食べられて,動物プランクトンがシラスなどの赤ちゃんに食べられて,シラスなどがアジなどに食べられて,それをまたマグロが食べて受け継がれているのだと思いました。ぼくたちはそのマグロを食べて生きています。とてもありがたく感じました。
3.実践②《宇宙から雲の動きを見てみよう》
【単元】
天気の変化(2) 雲と天気の変化
【本時の目標】
ダジックアースで宇宙からみた雲の動きを見ることを通して,天気の変化には規則性があると考え,天気はおよそ西から東へ変化していくことを理解する。
【単元の位置づけ:天気の変化を読み取る根拠として】
本単元では,子どもたちは一日の雲の様子を観測することを通して,雲の量や動きは天気の変化と関係があることをとらえる。また,日本各地の天気の移り変わりを比較することを通して,およそ西から東へ変化していくという規則性をとらえた。また,実際に上空で雲はどのように動いているのだろうという疑問をいだいた。そこで,「地球の外から雲の動きを見てみよう」となげかけ,ダジックアースによる授業を行った。
ダジックアースとは・・・(www.dagik.netより) |
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地球や惑星についての科学を楽しむために,学校や科学館や家庭で,地球や惑星を立体的に表示するプロジェクトです。京都大学大学院理学研究科の地球科学輻合部可視化グループが中心になって進めているダジックプロジェクトのサブ・プロジェクトです。 球形のスクリーンに,PCプロジェクターで地球や惑星を投影します。通常のパソコンとPCプロジェクターを使うので手軽に立体的な地球と惑星の表示ができます。地球などの立体的な物を地図のような平面で表示すると必ず形がゆがみますが,立体で表示することで正しい形で表すことができる。またマウスなどのコントローラーで自由に回して見ることができます。 |
今回は,静岡科学館る・く・るの貸し出し教材にダジックアースがあり,一週間貸していただいた。利用したデータは,「日本へ来る台風の動き(2010年9月)」である。子どもたちは,まず日本上空にある雲の流れが西から東に流れている事実に気付く。また,日本の南で発生し,東から西に動いていた台風が,北に進むにつれて,西から東へ向きを変えることに気付いた。立体的に見えることにより,雲の流れがより明確に認識することができた。
宇宙から地球の雲の動きを観察する | パソコンとプロジェクターを接続し,半球上に投影 | ダジックアースのホームページ |
【授業の振り返り】
- 今日は,宇宙から日本や日本周辺の雲を早送りで見た。日本の上空では,西から東へ雲が動く様子がよくわかった。また,台風が反時計回りになっていることに気付いておどろいた。
- 日本のまわりの雲は西から東へ動いている。何かの流れにそっているように見え,それは上空に流れている偏西風という風であることを知った。
- たくさんの雲が赤道付近や南の海で生まれていた。台風もその一つで,南の海から日本の空へつながっていることにおどろいた。
- 台風が赤道の近くでできているのは初めて知った。雲の色がちがうと速さもちがうのはどうしてかなと思った。
4.まとめ
これらの他にも,活用してきたものとしてNHK教育テレビのEテレライブラリーがある。ここではNHK教育テレビで放送されている番組が,学年・教科ごとにカテゴリー分けされ,インターネットで視聴できる。1本の番組が10分から15分のため,授業に活用しやすい。
例えば「ふりこのきまり」の単元では,これまでの実験のふりかえりを行ったり発展的な内容を学んだりするために「ふしぎワールド5年理科 ふりこのきまり」を利用した。一方で,「生命の誕生」では,導入で「お母さんのおなかの中でどうやって生きていたのだろう?」という学習問題が生まれ,それを解決したり,さらなる疑問を作ったりするために「ふしぎがいっぱい 5年生理科 人のたんじょう」を利用した。
科学館や博物館には,最新の研究や資料があふれている。また,そこで活躍する専門家や科学者は,子どもたちにとって,また私自身にとって,非常に魅力的に映る。そして,さらに学びたい,知りたいという想いを強くさせる。私は,子どもたちと人やものをつなぎ,子どもたちがより自然科学に関心をもてるよう,授業作りに挑んでいきたい。