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教師の方へ

私の実践・私の工夫(理科)

衛星データを授業で積極的に活用しよう!(その1)

6年

日本宇宙少年団 呉やまと分団副分団長
呉市大和ミュージアム学芸課嘱託
元呉市公立小学校教員

1.もしもこんな衛星データが,日常的に授業で使えたら!

(1)理科の授業

わくわく理科6年では,右下のような記載がある 「今もふん火を続ける桜島」という小見出しで,興味深い記述が続いている。

7.大地のつくりと変化 第3次大地の変化

(1) これまでに起こった火山活動では,大地にどんな変化が見られたのだろうか。

資料調べ1 火山活動による大地の変化と災害

授業でもし,衛星データを活用できたら,学習活動は更に充実することが出来るのではなかろうか。

無償で入手できる「ランドサット」のデータ,及び登録すると無償でダウンロード出来る衛星データ分析ソフトを活用する方法等を,本稿で紹介したい。


「ランドサット」1990年4月14日 p112r38_5t900414.TM-EarthSat-Orthorectified

さらに例をあげてみよう。

わくわく理科5年 地いき資料「流れる水のはたらき 北海道・東北地方」

1.流れる水のはたらき

川とわたしたちのくらし
第2次
(3時間)川の流れとそのはたらき

(1) わたしたちの地域の川のようすは,どうなっているのだろうか。

観察1 川原や川岸のようす
第3次
(1時間)

(1) 川は,どんなときに,周りのようすを変えるのだろうか。

資料調べ2 川の流れと災害

授業展開時に,下の衛星データが活用できたらどうだろう。

右側の写真は,トゥルーカラーといい,普通の写真のように処理している。左側の写真は,ナチュラルカラーといい緑部分は緑に,海や川や池などの水部分を強調したものである。

左の写真では石狩川の取り残された三日月湖が鮮明に把握できる。

右側の写真では,石狩川が土砂を海に運んでいる様子も把握できる。


「ランドサット」2002年5月22日 p107r030_7dx20020522.ETM-GLS2000

理科の授業では,衛星データを活用する場面が豊富にある。

(2)算数の授業

算数の教科書においても,衛星データを活用することによって魅力的な授業を展開できる場面が随所にある。

わくわく算数6年下には,「地球と算数」という単元がある

  1. 気温と二酸化炭素
  2. 海水温度の上昇
  3. 北極海の溶解
  4. 上昇する海面
  5. 生活と二酸化炭素
  6. 森林のはたらき…。

6年間の算数のまとめ,算数と生活とのかかわりを考える絶好の学習材である。そうして,ここは衛星データと関わる事で,学習内容が一層身近なものとなることが可能である。

北極の氷についてはJAXAのウエブサイトに詳しい。

「3 北極海の溶解」の学習時に衛星データをぜひ活用したい。

北極圏海氷モニターというサイトで,最新の情報が入手できる。
http://www.ijis.iarc.uaf.edu/cgi-bin/seaice-monitor.cgi?lang=j


(C)JAXA

「6 森林のはたらき」の学習時には,アマゾンの森林伐採を示す衛星データを活用したい。木が一年間に吸収する二酸化炭素の量を求めた後,ブラジルのバラー州付近の森林が急速に伐採されている写真は,「地球と算数」という設定に極めて効果的である。

(3)社会の授業

社会の授業では衛星データの活用場面は多い。

諫早湾干拓に関わる学習を展開するとき,効果的な衛星データが豊富にある。干拓について,衛星データは多くを語ってくれる。このような衛星データが,国内外にかかわらず,無償で活用できるのである。

ランドサット衛星のデータでは,輝度温度を画像化できる。

この衛星データでは黒潮の存在は一目瞭然である。

黒潮は水温が高いというだけでなく,具体的にその姿を追うことが出来るであろう。


ランドサット 1994年5月20日 p111r037_5dx19940520.TM-GLS1990

(4)各教科の授業での衛星データ活用の誘い

限られたスペースで,幾つかの具体例をあげた。本稿を通して,多くの教育関係者の方々を衛星データ活用の世界に誘いたい。衛星データは身近にある。しかもいつでも,どこでも,だれでもネット環境があれば,衛星データを授業に活用できるのである。衛星データ分析ソフトを,児童・生徒が直接操作することも極めて容易である。

2.衛星データ活用研究について

(1)衛星データ研究の概要

現在多くの教科書に掲載されているように,衛星データはすでに教育分野において大いに活用されて効果をあげている。

しかし,その多くは専門家が処理した写真やグラフを用いたものであり,教育現場で多くの指導者や児童・生徒自身が直接データ処理を伴う学習活動は困難で,専門家による実践以外には一般に組織的には行われてこなかったと言って過言ではないであろう。

これは,「だいち」などの高分解能の衛星データの取得に高額の費用がかかることの他に,安価でしかも小学校高学年や中学生でも使用できるようなソフトウェアが不在であることや,衛星データを光学データに限ったとしても「波長」や「分光」,「赤外線」,「熱放射」,「色合成」,「緯度と経度」などの衛星データを理解し活用するにあたって必要となるいくつかの概念のなかには理解困難の概念があることや,何より児童・生徒の発達段階や学習指導要領との関わりで衛星データをどのように扱い,教育現場でどう活かすかという課題もある。

また衛星データからどのような興味深い情報が取り出せるのかなどの事例があまり存在しないことなど,教育利用に対して高いハードルのあることが原因と考えられる。

このような中にあって文科省が「宇宙利用促進調整委託費」を設け,積極的に衛星データの利用という文脈での研究開発を公募する機会があり,私が所属する「公益財団法人日本宇宙少年団」が,平成21年度~平成23年度(3年計画)その研究に取り組む機会を得る事が出来た。

研究開発課題名
<衛星データ利用のための人材育成プログラム>
「将来の幅広い分野での衛星データ利用を目的とした子ども向け人材育成プログラムの開発及び全国での実証」

研究内容は,「平成23年度終了課題事後評価の結果」として,今秋事後評価をうけその概要が既に公表されている。

http://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/space/itakuhi/1327710.htm

なお,公益財団法人日本宇宙少年団については,次のウエブサイトにその詳細が紹介してある。ぜひ参照して頂きたい。
http://www.yac-j.or.jp/

研究の概要は次の通りである。

私どもは3年間の研究開発によって,小学高学年でも1時間弱の指導で使えるようになるソフトウェアの開発や衛星データを利用する際の理解困難な概念を修得するための導入教材の開発などを通して,これらの問題の克服に努力してきた。

さらにこれらを用いた典型的な教育プログラム開発や学校教育において学習指導要領に沿って衛星データを利用する教育の開発を行い,全国各地で衛星データの能動的処理を伴う教育を実践できる指導者の育成を行ってきた。

この研究開発の過程から,児童・生徒の学習の段階に,地図帳を見るように衛星データを見ることができるようになるような基礎力をつける段階と,衛星データ以外の情報も用いながら自由に考えを進め発展させ探求していく段階の二つの段階があることが判明した。このことから,導入教材による理解困難な概念の修得と衛星ソフトの実習を組み合わせて行う事の有効性,指導者の育成の重要性,指導者や児童・生徒向けの導入教育プログラムの重要性などが明らかとなった。また,児童・生徒にとって衛星データを提供しただけでは教育上有効ではなく児童・生徒自らの力による探求はあまり期待できないこと,児童・生徒の知的好奇心を誘発し児童・生徒が具体的なデータ処理手法を会得して自らの力で探求していくようになるためには,「火山」「砂漠」「都市」「干拓地の経年変化」「川」「森林」「温度研究」「海岸の変化」など児童・生徒が興味を持つようにデータを分類整理し,具体的な探求事例と衛星データサンプルを提供することが重要であることが判明した。児童・生徒の反応分析を含め,衛星データの十分な検討と教育に有益な分類化,その教育プログラムへの作り込みはこれからの大きな目標である。

さらに,社会教育や学校教育の展開の過程から,衛星データの教育利用には様々の諸相が可能であることが明らかとなった。例えば,科学館での活動や学校での総合的な学習の時間を利用した活動では,導入教材教育からソフトウェアの習得,衛星データを用いた探求までをセットにした学習活動が主体となるが,学校教育では学習指導要領に従った種々の科目における単元学習において衛星データを活用して学習の強化を図ることもできる。このような教育を様々の年齢,種々の教科目に敷衍するためには,様々の年齢層や教科目ごとに,ある程度の数の具体的な利用事例の提示が必要であり,今後の課題の一つである。

また,高校や高専,大学の実験実習においても,衛星データの利用は大きな可能性がありながらまだまだ実施されていないのが現状である。地質あるいは地形的な実習・実験に限っても土木工学の観点にとどまらず電気工学・情報工学・機械工学など様々の観点からのアプローチを伴う実習・実験が可能であると考えられる。

本稿は,「宇宙利用促進調整委託費」受託研究で得られた知見を報告すると同時に,多くの教育関係者の方々を衛星データ活用研究に誘う機会にしたいと願っている。

私どもの研究チームは,ボランティアとして社会教育の分野に礎を置く組織であるが,構成員は様々な面で学校教育に深く関わっている。私どもの関わった知見は,ささやかであるが,学校教育においては一層組織的に系統的に展開できるものであるとの感を深くしている。

上記ウエブサイトにおいても,学校教育における衛星データ活用の重要性を紹介しているが,本稿を今回,次回と2回に分けて展開する中で,衛星データの学校教育での活用に皆様を誘い,「研究のたいまつ」をお渡ししたいと願っている。

小学校・中学校の理科,算数・数学に留まらず,社会科を始め多くの教科,領域で多くの活用が期待される。

例えば小学校の国語授業での説明文の学習においても,衛星データ学習を題材にすることをも積極的に推薦したい。ある教育委員会の指導主事の方々に私どもの衛星データに関する研究を紹介したとき,国語の指導主事が感動して次のように発言された事が私の記憶に鮮明にある。

「衛星データでは,どの衛星が,いつ,どこを撮影したデータが明示してある。衛星データ分析ソフトで画像を処理するとき,どの波長をどのように処理し合成したか数値的に説明できる。処理した画像から何かを見つけたとき,その場所の緯度経度が明確である。

科学的な記述をせざるを得ない。そうして読み手は,書き手の説明を確実に追体験することができる。そうして何より題材に,心情的な感動を多く感じることができる。」

また,標高データなどに関わる衛星データの学びは防災教育という文脈において,衛星データは少年時代を過ごしている郷土について「宇宙時代の郷土」のイメージを育み,いつかの時に大きな自然災害に直面したときに少年時代に体験した衛星データに関わる大きな役割を果たすであろう。

(2)衛星データを活用する方法についての3つの類型

衛星データを利用した学習を活用の方法で分類すると以下の3つのタイプに分けられる。

タイプA 自己完結型(パッケージタイプ)

導入教材による概念形成,ソフトウェアによる実習および衛星データを用いた探求という一連の流れをプログラム化した教育。たとえば,我々は各地での子ども達への実証のためのプログラムとして以下の標準的な3時間半のプログラムを作成している。

  • ① リモートセンシングについての学び:40分
  • ② 導入教材による学び:40分
  • ③ ソフトウェアの使用法の演習:40分
  • ④ 実際に衛星データを用いた探究:1時間
  • ⑤ 各チームの発表:30分

という構成である。

* 学校教育,社会教育とも児童・生徒の実態とねらいを明確にしての展開
学校教育の場合,総合的な学習の時間に位置づけることができるなら,以後衛星データが有効な学習の題材になる。

タイプB 学習・活動支援型

学校教育における学習指導要領に沿ったある単元の学習や社会教育における活動などのための基盤をつくり,目的とする学習や活動を強力に推進するために衛星データ活用の特徴を活かして行う教育。このタイプの教育は,児童・生徒が直接,衛星データの処理を行う場合と,児童・生徒はソフトウェアを操作せず間接的に関わる場合とに分けられる。

  • *タイプAを経た場合,学校教育では極めて有効である。
  • *各教科の指導において,適切な場所で適切に随時利用が可能になる。

タイプC ソフトウェアの学びの一つとしての学習

情報教育との関連で,パソコンソフトの幾つかを学校教育では授業として学んでいる。衛星データ分析ソフトを情報教育の一環として児童。生徒が学ぶパソコンソフトに位置づけることができる。衛星データ分析ソフトを利用すると児童・生徒が積極的に興味をもって取り組むことが期待されるので,ソフトウェアの学びに主眼を置いた教育を行うことができる。

(3)衛星データで育てる「考える根っこ」と「考える翼」

ア「考える根っこ」

衛星データを利用した学びにとって大切なことは,児童・生徒が地図帳を見るように衛星データを実感を持って見ることができるようになることから始まる。そうしてこの部分が衛星データに関わる学びのベースである。

これを私どもは,「考える根っこ」の育成(衛星データの一次情報化)と命名した。

一次情報化のためには,導入教材によって児童・生徒に形成された諸概念を通して培われた理解力が児童・生徒自身がすでに持っている情報や興味とリンクする必要がある。このために学校で使っている地図帳を持参させて併用すると効果が高い。また,自分の住んでいるところを見つけたり,学校からの登下校の経路やその回りにあるものを調べたりすることによって,衛星データを地図帳を見るように実感をこめて見ることができるようになり,衛星データを用いて探求する基礎が培われる。

このとき環境心理学の知見は大いに役立つ。

イ「考える翼」

衛星データを想像力を働かせて見ることができるようになったら,いよいよ自らの考える力を使って,衛星データを分析したりそこから考えを深めたり考察したり衛星データ以外の情報も用いて探究をすすめたりできるようになりたい。これは衛星データを利用した学習の大きな魅力の一つである。このように,「考える根っこ」を土台に児童・生徒自身がデータを分析し他の情報と関連させながら様々に考えを深め広げていくことを我々は「考える翼」の育成(衛星データの二次情報化)と命名した。

「考える翼」を持つためには,児童・生徒が自らの考える力や科学する心を大いに用いることが必要であり,指導者は児童・生徒の興味や発達特性に合わせた課題の設定や衛星観測データの整理を行うことが必要である。教育実践の結果や衛星データコンテスト(私どものチームが衛星データの活用を願って全国規模で設定した研究の大きな節目)に参加した児童・生徒のレポートから,「考える根っこ」がうまく培われた児童・生徒の多くは様々に考えを深め広げていくことができ「考える翼」を育てることができていた。

衛星データを利用した学習では,衛星データの一次情報化の段階を経て二次情報化に進むことが特色の一つである。学習指導計画や活動計画を作成する際に考慮すべき学びの段階である。

3.関係資料の紹介

本稿は2部で構成する予定である。

その1 → 衛星データ活用研究への誘うために,小学校「理科」「算数」の教科書の視座からの衛星データ活用研究への誘い
関係資料のご紹介(次回までに,平成データ分析ソフトや無償データ入手方法を紹介する情報の蛇口の紹介)
その2 → 一緒に衛星データ分析をしましょう
学校教育での衛星データ活用の展開について

幸い,私どもの研究は研究開始当初より公開性が期待されていた。そのためその成果は可能な範囲で,研究の全容を次のウエブサイトで紹介している。

http://eisei-data.jp/

具体的に衛星データの分析を紹介する次回までに,ぜひ上記サイトを散策されることを期待したい。

昨年度私どもは,衛星データコンテストを全国的に展開した。現在も「コンテスト概要」から,各種情報が入手できるようにしている。

(第2回の衛星データ利用コンテストの諸準備を進めている。本サイトはしばらく機能する予定であるが,構成は変更予定)

さらに,「教材開発」「活動事例研究」「解析体験」を探って頂きたい。

(その2)に続く